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第十一話 違和感の正体

エレニア王国の崩壊から、半年。

夏が過ぎ、秋が深まろうとしていた。


山中に拠点を構える、国を追われたエレニアの旅団。

川のほとりに佇む平地、土は思ったより肥沃で、作物の収穫も期待できる。

山と川の恵みを受け、食料も多くはないが、皆で分け与えながら、慎ましく暮らす。


平穏な日々が過ぎる。

ファビアは、相変わらず旅団の警備、という役割。


しかしこの時、ファビアは違和感を覚えていた。

それは、一度だけ出会った「冬枯れの旅団」だ。


彼らは、一ヶ月以上かけて、険しい山道を命懸けで下りてくるという。

……

なぜ彼らはここに住まないのだ?

……

考え過ぎかもしれない。

父、ファルカン将軍は、収穫祭で即座にシャフタル帝国の陰謀を察知した。

その危機察知能力は、彼にも受け継がれていた。


だが、その違和感の正体は掴めない。


ファビアは、その正体を突き止めようと、周辺を散策し、地形を頭に叩き込む。


何かあった時のために、周辺の道を整備する。

そして、サルバドールに頼み込んで、拠点を見下ろせる高台に小さな見張り小屋を建てる。


相変わらず時は穏やかに過ぎる。

ただ、もうすぐ冬を迎える。

この地は、まだ極寒ではないが、それでもしっかり蓄えなければいけない。


そのうちに、ファビアも食料調達に駆り出され、忙しく日々を過ごす。


やがて、さらに秋深まり、拠点に冬が訪れようとする。

とある日の晩……


雨が降りしきり、雷鳴がとどろく。

エレニア王国の北部では、秋と冬の境目に、まとまった雨と嵐がやってくる。


冬の訪れを目前にして、ファビアとシリウスは、眠れぬ夜を過ごす。

胸騒ぎがする。


ファビアは、シリウスに、ずっと抱いていた違和感を口にする。

その時、シリウスの目に緊張が走る。

「ファビア、俺もずっと疑問だった事がある。肥沃過ぎるのだ。」

「どういう事だ?何が?」

「土だ。人の手が入ってないのに、すぐに作物が育つ。」

「それはいい事じゃないのか?」

「いや……そんな土は……上流から常に流れてこない限り……」


ゴゴゴ……ゴゴ……


その時、大きな地鳴りが響き渡る。

シリウスは飛び起きて、叫ぶ。


「鉄砲水だ!川が氾濫するぞ!」

ファビアも慌てて飛び起きる。

外に出ると、普段は小さな小川に、怒涛のように水が押し寄せている。

川は平地一面に広がり、拠点の周りも、すでに膝下まで水に浸かっている。


二人は全員の小屋を周り、即座に高台へと避難させる。

ファビアが道を整備していたため、以前作った高台の小屋に、滞りなく逃れる事ができた。


その直後、さらに大きい轟音が鳴り響く。

気づくのが一瞬でも遅れたら、全員の命はなかった。


漆黒の闇の中、轟音に怯えながら、小さな小屋に全員、身を寄せ合って朝を待つ。


そして迎えた朝。

高台から拠点を見下ろす、その光景に、全員が言葉を失う。


一面に広がるのは、巨大な湖。

半年かけて築いた拠点は、はるか水の底。


ある者は膝から崩れ落ち、ある者は涙を流す。

なんという事だ……


運命は、運命は、エレニアの民に、束の間の平穏すら与えてくれない……!


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