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第一話 エレニア王国の収穫祭

「関係者の皆さま、広場にお集まり下さい!」


豊かで光あふれる小国エレニア。今日はその実りに感謝する、収穫祭。

すべての民に愛される、女王ビアンカ一世が、人々を広場へいざなう。


「収穫祭の開催を、宣言します!」

「おおーつ!」

「ビアンカ様!ビアンカ様!」

「エレニアよ永遠なれ!」


人々は口々に女王と王国を讃え、祭りの幕が上がる。道化師の集団が一斉に街に繰り出し、練り歩く。


先頭に立つのは、純白の虎。

虎使いのリーダー、カルロスが仕込んだ芸を披露するたびに、歓声が上がる。


大通りには農産物を、ぎちっと積み上げた露店が並ぶ。どんなものでも、なんでも交換できる。


この祭りは、巨大な施しの場。

ここは、女王が築き上げた自由と平等の理想郷!


それは、他国の羨望と欲望をかきたて、やがて悲劇を引き起こす。



「きゃあああっ!」


露店立ち並ぶ、収穫祭の広場。王国の象徴、エレニア城を背にした、広場の一等地。エレニアの皇族たちも、ありったけの食材を満載して出店し、人々に振舞う。


そこには、店の一角でせわしなく動く、ビアンカ女王の娘、クレア姫とセリーナ姫の姿が。

長女、クレア姫は、女王様と同じ、美しい金髪、くりっとした愛らしい目の少女。

次女、セリーナ姫は、鮮やかなブルーの髪と、涼しげな顔つきの少女。


彼女たち姉妹も、庶民たちに混じって店を構え、店頭に立つ。

なんか今、悲鳴が聞こえたような……


「ど……どうしよう!!」

彼女たち王族のお店には、「かぼちゃ」が山積み。栄養豊富なかぼちゃは飢えに苦しむエレニアを救い、豊かな国へと導くきっかけとなる。それ以来、王族はその恩に報いるために、毎日「かぼちゃ」のお店を出展するのが伝統だった。


「うわああん!」

クレア姫とセリーナ姫の声が響く。

なんか事件が起きてるみたいですね……

王族のかぼちゃ屋で、ダントツの人気は、専用のおっきな窯で焼きあげる「パンプキンパイ」!

すでに店の前には長蛇の列!


焼きたてを召し上がれ!

クレア姫が意気揚々と窯から引き上げたのは、真っ黒な丸い塊。間違えたのは、温度か、時間か……


おっきい国だと、御付きの人が全部やるんだと思う。でもここは小国、人手不足だからプリンセスでも何でもやる!そして失敗もね……


「どうしよう…もうお店始まっちゃうよお」

「お姉さま……落ち着きましょう……」

「と、とにかく次を焼きましょう!」

その時!関係者への挨拶を済ませた、母親、女王ビアンカが颯爽と現れる。

「すごい人ね!パイちゃんとできてる?」

ここでは、母親の顔を覗かせる。


「いや、それが……あはは……」

クレア姫は真っ黒な塊を隠すように、窯の前に立って照れ笑い浮かべる。

漂う焦げ臭い匂い。ビアンカは何が起きているかすぐに察する。

「こ……これはやばいわね……」

次のパイが焼けるまで20分はかかる!

「わかったわ。わたくしに任せなさい」

女王はパイを待つ群衆に向かって高らかに叫ぶ。

「王室のお店にようこそ!わざわざパイにお並びの皆さまへ!今日は、初回特典で、わたくしとの握手券をお付けしますよ!」


「おおおお!ビアンカ様!ビアンカ様!」

「さあさあ、並んで並んで!」


群衆は一斉にビアンカの前に列をなす。

ビアンカはクレア姫にささやく。


「さあ!私が時間稼ぐから、さっさとパイ焼きなさい!」

「あわわわわ!」

「ほら!みんな手伝って!」


従者たちも、他の仕事を放り出して必死に生地をこねて、窯に放り込む。

「ありがとう!どこからきたの?」

女王ビアンカも、アイドルの神対応の如く、きめ細やかな握手で時間を稼ぐ。


窯の底、薪が激しくばちばちと鳴る。

20分。たぶんもう大丈夫!


窯から黄金色のパンプキンパイが、甘い香りと共に引き出される。

クレア姫が叫ぶ。

「パイ焼けましたよ!さあ!並んで、並んで!」

クレア姫とセリーナ姫の前に、一斉に行列が移動する。


ビアンカ女王の握手会は一気に閑古鳥。

「ちょっと!女王との触れ合いよりパイなの!?」

「女王様、失礼しました!でもですね、この匂い、お腹が減ってどうしようもないんです…」

真っ先に並び変えた、初老の男が、申し訳なさそうにつぶやく。


「はははっ!それは仕方ない!」

ビアンカ女王は豪快に笑い飛ばす。

思わず群衆も笑いに包まれる。

笑顔、笑顔、笑顔、みんな笑顔。

幸せに満ちたエレニアを象徴する一日。



この後、エレニア王国の運命は大きく狂い始めます。

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