見るに目の毒触るに煩悩①
「我儘を言ってすみません。」
天乃は頭を下げていた。
良いのよ。星月さん。貴女が来てくれて、息子も喜んでいると思います。と、笠原瑞穂は涙を浮かべている。
「息子が使っていた部屋は、まだその儘にしてあるの。もしかしたら息子がふと帰って来る様な気がしてね…。」
天乃は笠原の家に来ていた。仏壇に挨拶を済ませると笠原慎二の部屋で感傷に浸っていた。
辺りを見渡すと、机の上のアクアリウムが視界に入った…。天乃が以前に訪れた時には、そのアクアリウムは無かったと記憶している。
『蘭鋳か…。』
アクアリウムの中で3匹の蘭鋳が優雅に泳いでいた。パクパクと口を開けては閉じて、閉じては開けている。
『水槽とアクアリウムの違いって何だったっけ?あぁ。そうだ。水槽は【生き物を1番に考えた】より良い環境を追求し、生き物を飼育観察、時に研究する為のモノ。アクアリウムは美しいレイアウトを組み華やかに演出したり、ネイチャーアクアリウムの様に自然界の美しさを再現したり、インテリア性が高い水槽を作り、水槽全体を1つの作品として楽しむモノだったかな…。』
それにしても…。と天乃はアクアリウムを覗き込む…。
「このレイアウトのコンセプトは何だろ?何か…。独特だな…。退廃的だ…。」
天乃の視界に映るアクアリウム。水没都市を再現しているのだろう。廃墟と化したビルの模型が幾つか歪に建っている。倒れかけた信号機。壊れている自動販売機。硝子が砕けた自動車。
「あれれ?」
天乃は少しだけ左に頭を傾げる。
中央にあるビルの屋上には…。
小さな小さな人形が置いてあった。
1つ気付くと意識は変化する。
ビルの隅にも、自動販売機の裏にも…。
倒れかけた信号機の傍らにも…。
そして…。自動車の中にも…。
小さな小さな人形があった。
5体のミニチュア人形だ。
凝視して観察すると…。
総ての人形の左眼は消されていた。




