三毒
妻が死んでから…。
私の心には毒だけが残った。
再確認したのは私が何れ程、妻を愛していたのかと云う事だった。妻に愛されたかった…。ただソレだけだったのだ。正確に云えば、愛されていなかった訳では無い。強いて言うなれば、妻の愛欲の対象になれていなかったのである。
そして…。今、私は…。
亡き妻を妄想の内で貪っている。首が捻じ曲がった妻は美しかった。氷の様に冷たい妻の肉体は私の肉体の体温を奪う。そんな妻の肉体はヌメヌメとした体液で輝いている。その体液は私の内に侵入し、私の喉を瞬間的に塞いだ。
呼吸困難に陥り、深く息を吸った時だ。口の中に違和感を感じた。ヌメヌメとした感触が喉元を通過する。粘着性の液体が口から零れてくる。やがて妻は私の肉体の内を這いずり、胃の中で消化され吸収されていく。やっと妻と1つになれた気がした。
其れでも私の心は…。
満たされる事は無かった。
妻が死んだ事を受け入れられなかったからだ。未だに妻が生きている様な気がしている。いや…。実際に眼の前には、死んだ筈の妻が視えているのだから…。妻は生きているのだろう。
妻は私を怨んでいるとは思う。注射器を刺した眼球で私を睨んでいる。きっと妻は気付いていたに違いない…。コレは罪を犯した私への妻からの罰なのだ。
そう。私は妻が殺されるのを知っていたのである。知ってはいたけれど、痴情の縺れで瞋りの感情に流されていた私は…。
視て視ぬ振りをした…。
いや…。ソレも違う…。私は不貞行為をしていた妻を心の底では赦せてはいなかったのだろう。妻が苦しんで死ねば良いとさえ思っていた。結局、私が視て視ぬ振りをしていたのは私の心だったのだ…。




