アクアリウム幻想譚
此処から綴られるのは…。
ある人物がセラピーと称し、趣味として書いた小説【アクアリウム幻想譚】の1部である。
此の世界はアクアリウムの様だ。生きている人間の事は余り考えられてはいない。綺麗に装飾された世界。鑑賞を前提とした世界。此の世界に放り込まれた私は誰かに監視され、管理されているのだろうか…。
私は此のアクアリウムの世界でユラユラと漂っている。上も下も右も左も解らずに、ただユラユラと漂っているのだ。世界を満たしている液体は私の涙…。此処には私の意思等は関係無い。其れでも世界は機能しているのだから詮方も無い。
此の世界は自律神経とも云えるのだろう。【交感神経】と【副交感神経】の世界だ。感情の均衡が何方かに傾き、涙を構成する成分は変化する。
【副交感神経】が優位の時、つまりは嬉しい時、悲しい時は、水分が多く塩分濃度は低くなり、【交感神経】が優位の時、つまりは怒りや悔しさの感情では、ナトリウムが多く塩分濃度は高くなる。
私の涙は常にナトリウムで構成されている。だから…。此のアクアリウムの世界の液体はナトリウムで満たされているのだ。
だからなのか…。
私の世界で淡水魚は生きられない。
淡水魚と海水魚。塩分濃度の差から生じる浸透圧の調節方法の違い。
【淡水魚】は、常に体内に水分が入ろうとする作用にさらされている為、余計な水分は尿として体外に排出される。
【海水魚】は、浸透圧の関係で体の水分が常に外に出ようとする作用にさらされている為、大量の海水を飲み、鰓から塩分を排出する。
水分とは生命を維持する為に必要なモノであり、ソレ無くして生きてはいけない。
そして…。
心有る人間にとって水分と等しく生命を維持する為に必要なモノがある。
それは視えぬ未来への…。
【希望】だ。
淡水魚である貴方方は、私の生きている世界では呼吸する事すら儘ならず、息苦しく感じるのだろう。そして此の世界に適応する為、貴方方は【海水魚】へと変貌していくのだ…。
だが、生まれ持っての【海水魚】ではない貴方方は…。生命を維持する【希望】が、常に外に出ようとする作用にさらされていく…。然し、貴方方にはソレを防ぐ術は無い。
だから…。
希望を失った貴方方は…。
此のアクアリウムの世界で…。
憂い。陰鬱に満たされ…。
自ら命を絶つ事になる…。
此の物語に感銘を受けた少女がいた。
その少女は此の物語が誰にも知られずにいる事が耐えられなかった…。耐えられなかったから実行しようと考えた。




