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憂鬱な天国 Ⅰ 幽霊  作者: 倉木英知
幽霊 彷徨うモノ
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姿と名


 困惑の表情をしていたのだろう。そんな僕をみかねて、彼女は子供を諭す様に優しく言葉を奏でた。


 「魂とは、肉体とは別に存在すると考えられる精神的実体の事を云うのだ。肉体から離れる事も可能で、肉体が消滅しても存在すると考えられている。要は肉体とは別の実体をもつ非物質的な存在の事だ。」


 彼女は呼吸をしてから、続ける。


「人間が生きている間はその内に存在し、生命や精神のエネルギーとなっている人格的で非物質的なモノ。五感とされている感覚では認識が出来ない永遠の存在…。」


 そう言葉を終えると、彼女は今まで見た事のない艶やかで儚い雰囲気を纏った。


 「幽霊とは…。人が死亡して肉体が消滅しても尚、此の世に未練や怨恨の念が有る為に成仏出来ず浄土へ逝けない魂が、其れらしき姿と声を持って姿を現すものと云われている。だけど、あたしは幽霊と魂はイコールではないと考えている。」


 その言葉が僕を更に困惑させる。行き場を失くした感情が、叫びに似た声となる。


 「だったら、天乃さんにとって幽霊とは何なのですか?」


 そんな僕の想いとは違う冷静なトーンで、【死んだ人への想いだよ。】と素っ気なく返答した。彼女はビールを口にする。


 そして、続けて…。


 「解りやすく云うのなら。死んだ人に対する生きている人の想いの名称だ。人は理解できないモノに言葉と形を与えたがるからなぁ。幽霊と聞いて、殆どの人は【白い着物を着た、足の無い髪の長い女】を思い浮かべる筈だ。」

 と云った。


 そうだ。きっと僕も普通に幽霊を想像したのなら、彼女の云った姿を思い浮かべるだろう。でも、何故だ?幽霊に対して其のイメージがあるのは?僕の心を読んでいるかの様に、彼女は淡々と言葉を並べていく。


 「何処かの誰かが、幽霊と名付け、姿を絵にしたからだ。確か…1673年に描かれた【花山院きさきあらそひ】という浄瑠璃本の挿し絵に、足の無い幽霊が描かれている。これが現存する最古の足の無い幽霊の絵らしいな…。まぁ有名になったのは鳥山石燕、円山応挙、辺りが活躍した時代からだろうけど。」


 彼女は話疲れたのか…。

 また溜め息を吐いた。

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