鸚鵡の相槌。鬼の形相。
彼女は吸い込まれそうになる程の純粋な瞳で僕を視ている。美しく整った少女の顔。その容姿からは想像しにくい言葉が唇から零れてくる。
「この前、あたしとの約束を破った事に関係しているんだろ?自殺の瞬間を目撃したって言ってたよな?まずは、其処から話せ。」
僕はまだ、事の詳細を彼女には話してはいない、それなのに、彼女は何かを察しているのかの様に此方を誘導する。僕はグラスに入った水を飲み干すと、あの日の出来事を覚えている限り細かく、一気に語っていた。
彼女は時折、へぇ~。ふぅ~ん。そうなんだぁ~。と鸚鵡の様に機械的な相槌を打った。しかも、何故か彼女は鸚鵡の声真似をしている様だ。遣る気は感じられない。
三十分程で語り終えると、喉はカラカラになっていた。取り敢えずビールをジョッキで注文をする。彼女は、あたしもぉ~。あたしもぉ~。と先程とは違う生き生きとした声を出す。そして何故か仔猫の真似をして店員を困らせている。
その後、急に此方に振り返り、打って変わった真剣な表情で…。その日から、ずっと見続けているのか?と云った。
僕はコクりと頷く。そうだ。あの日以来、あの女は常に僕の視界に居る。何かをする訳でもなく、ただ其処に居るのだ。
「其奴は今、何処に居る?」
彼女はキラキラと瞳を輝かせながら此方に問うた。
「星月さんの少し後ろです。」
そう言って僕は指を指す。
彼女は振り返り…。
「まだ居るのか?」と訊いた。
「はい…。星月さんの眼の前に…。」
「あたしには見えないぞ。」
チッ。と彼女は微かに舌打ちをし、羨ましいな…。と呟きながら、此方に向き直った。彼女は不機嫌そうな表情をしている。
「お前にとって幽霊って何だ?」
と彼女は唐突に訊いてきた。
「死んだ人の想い…。だと思います。」
僕はギコチナく答える。
「ほぅ。お前は死んだ人が考えたりすると思っているのか?見かけによらず、詩人だなぁ…ロマンチストだなぁ…。お前…。」
『えっ?』
「何を驚いているんだ?お前が言ったんだ ろ?」
「それは、そうなんですけど…。」
言葉にしてみて初めて気付いた。【幽霊とは死んだ人の想い】だと思っていた。だけど…。何かが可怪しい…。
「あっ。死ぬ間際の想いです。」
僕は言い直す。
ふぅ。と彼女は、溜め息を吐く。
「死ぬ間際の想いなら、殆ど死への恐怖心なんじゃないか?他人に構っている余裕は無いだろ?」
其れはそうかも知れない。
頭が混乱する。
「なら、此の世に未練を残した人の魂ですか?」
その僕の言葉を遮る様に、彼女は、また溜め息を吐いた。
「魂を信じているのか?信じようとしているのか?」
「えっ?」
「えっ?じゃあないだろ。お前が魂だと言ったんだろ?」
彼女は此方を睨む。
「魂って何なんだ?そもそも、お前の認識している魂って何だ?」
『魂?』
自分で言ってはみたものの、改めて訊かれても答えは返せない。暫く考えを巡らせていると…。
プンプン。プンプン。と、あまり聞かない擬音が聴こえてきた。音のする方へ視界を映すと、解りやすい様に頬を膨らませた少女が、鬼の形相で睨んでいた。