身代わり人形
天乃には気掛かりな事が幾つかあった。1つは、笠原に関する事件において報道されている内容と、笠原から聴いている内容の僅かながらの差異である。
【身代り人形】。
笠原が視ていた【幽霊】は、【身代り人形】を持っていたと言っていた筈なのだ。自殺をした水瀬にしろ、殺害された片桐にしろ、【身代り人形】は現場で発見されてはいない…。
報道では、捜査で判明した内容について犯人しか知り得ない情報を開示しない事もあるのだが、警察からも【身代わり人形】についての情報は無かったし、笠原が嘘を付いているとも思えなかった。だとしたら唯一の手掛かりに成り得るのだろうとも思う。
「ブードゥー人形だったかな…。」
天乃は瞳を閉じて、視覚からの情報を遮断し、記憶の倉庫へと意識を向けた。
『元々は、MAGICALPOPPETと呼称されているモノ。ポペットとはパペットの古い綴り。毛糸、布、粘土等の柔らかい素材で成型された魔術的な目的で使用される人形。対象となる人物の髪、爪、血液、精液等を内部に入れる事で対象者と人形を繋ぎ、祈りや儀式で【想い】を増幅し対象者の肉体、精神へと影響を与える事を目的としている。
現代的な呼称としてブードゥー人形と呼ばれる事が多々ある。ブードゥーとはアメリカ南部、ハイチを中心に信仰されている民間信仰。でも、人形を使用とする魔術は世界中に存在しているのでブードゥー信仰が由来なのではない。映画やインターネットでブードゥー人形の呼び名が定着したと云える。現代としては身代り人形の認識が高い。
…。…。…。
…。…。
…。
天乃は瞳を開けた。
「ふぅむ。さてと…。」
パソコンに向かい、検索してみると意外にも可愛らしい人形の姿が現れた。毛糸を【ヒトガタ】に成型したモノの様だ。Colorfulな色が多いらしく愛嬌のあるマスコットに見える。
「あはっ…。」
天乃は子供の様な声で呟く。その瞳は、キラキラとした乙女の瞳だった。
「嘘でしょ?」
「欲しい。」
「可愛い。」
「こっちもいいけど…。」
「こっちもすてがたいぃぃ。」
本来の目的から程遠い言葉が天乃の口から紡がれていた。
少しの時間を経て天乃は…。あっ。ダメだ。破壊力半端ないぞ。と、そんな独り言を呟いて、再び思考の海に身を沈めた。




