表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
憂鬱な天国 Ⅰ 幽霊  作者: 倉木英知
闇が嗤う
65/106

完全なる悪意


 天乃は二回程、瞬きをした。

 そして…。


 「笠原に投与された薬品は2つ。」

 天乃は拳を強く握り締める。


 「1つは多量の【覚醒剤】だ…。」

 と言った。

 

 「そんなことって…。」

 神木は俯きながら震えている。


 「覚醒剤には神経を興奮させる作用がある…。」


 天乃は煙草に火を点ける。深く息を吸い天に煙を浴びせた。


 「意識障害、幻覚、妄想の症状が現れ、時には、精神異常をきたし、錯乱状態に陥る。結果、人に暴行を加え殺害に至る事もあるんだよ…。捜査を撹乱する為の目的だったのなら、まだマシなんだがな…。」


 天乃は煙草を親指で跳ねさせ、灰を地面へ落とす。


 「もう1つは多量の【メタノール】だ…。しかも致死量の10倍程のな…。」

 「エタノール?お酒の主成分の?」

 「違う。【メタノール】だよ。」


 天乃は言葉を並べる。


 「【メタノール】はアルコールの中で最も単純な分子構造を持っている。引火の危険性の高い液体で、エタノールを混合していない【メタノール】は医薬用外劇物で指定されているんだよ。購入する為には毒劇物譲受書への署名捺印をしなければならない…。つまり、簡単に買えるモノではないって事だ。」


 天乃は、言葉を並べると1呼吸した。唇から漏れる息は白く輝く。


 「【メタノール】の毒性は、蟻酸ぎさんによる代謝性アシドーシスとニューロンにおける毒性だ。」


 天乃の声が荒くなる。


 「代謝性アシドーシスとは【血液の酸塩基平衡を酸性側にしようとする状態】。ニューロンとは【神経系を構成する情報処理と情報伝達に特化した細胞】。つまり呼吸障害と意識障害。」


 天乃の声は怒りに震えている。


 「【メタノール】つまり【メチルアルコール】とは、【眼散る】アルコールと云われる程、眼に対し回復不能な障害を与え【失明】させる。ホルムアルデヒドがスコトプシンと結合してしまう事によって、桿体細胞を破損する。または、蟻酸ぎさんがミトコンドリアの電子伝達系に関わるシトクロムオキシダーゼを阻害する為に視神経毒性が現れるとする意見もある。」


 風が吹く。


 「いずれにせよ。メタノールは【失明】へと導く薬品なんだよ…。』


 「【失明】…。」

 神木は言葉を失っていた。


 「笠原は女子高生を殺害した後、自ら眼を潰した。それは警察の捜査で立証されている。」


 天乃は悲痛な表情で続ける。


 「その後、覚醒剤を多量に投与された事により死亡した。そして死亡した直後にメチルアルコールを投与されている。これも捜査で立証されたんだ。」


 神木に視線を向けると、天乃は瞳に涙を浮かべながら言葉を放る。


 「幽霊に怯え錯乱し、幽霊を殺害した後、自ら眼を潰した笠原に、【意識障害】と【失明】の症状が出る薬品を投与したんだぞ…。これが偶然じゃないのなら…。」


 天乃は唇を噛み締め…。


  「ある1つの結論が導き出される…。【幽霊に怯えて錯乱し、幽霊を殺害した後に自らの眼を潰す】事をなぞらえた…。」


 と云い…。


 「完全なる悪意そのモノだ…。」


 と続けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ