有り得ない程の偶然。
天乃が霊園から出ると眼の前にユラユラと黒い闇が揺れていた。その闇は天乃に気が付くとユックリと歩き出した。
「すまない…。遅くなった。」
天乃は闇に向けて、声を投げる。
「いや。気にしなくて良いよ。」
と闇は答えた。闇は徐々に姿を現していった。闇から影へ。影から人へ。帽子を深く被り、天乃と似たパーカーを着た女性が立っていた。
「そもそも、呼ばれた時点で、ある程度は覚悟していたよ。いつものようにね。」
天乃に向かい微笑む。その女性は天乃の幼馴染でジャーナリストをしている神木璃央だった。天乃が心を許している数少ない人物である。
2人は余計な会話は交わさなかった。
《さぁ帰ろうか。》と二人の声が重なる。そして、同調しているかの様に歩き始めた。
お互い無言の儘だった…。
暫くすると…。
神木は天乃に問い掛ける。
「笠原君には、真実を報告出来たの?」
天乃は少し哀しげな顔を見せた。
「いや…。言えなかった事が幾つかあったよ。彼奴には安らかに眠っていて欲しいんだ…。」
「そっか…。」
沈黙が暫しあった。夜空に浮かぶ三日月が少し揺れた。
「まぁ。嘘も方便って言うしね…。」
神木は天乃の顔を覗き込む。
「詭弁だよ。詭弁…。」
神木に眼もくれずに天乃は返した。そして…。溜息を吐く。
「云えない事もあるんだ。知らなくて良い事は知らなくて良いんだよ…。もし、知ってしまったら、其れこそ笠原が化けて出てくる事になるぞ…。」
「ソレはそうだけどさ…。」
「其れに何て伝えれば良いのか、あたしには解らなかったんだ。様々な偶然が重なった結果、笠原には、ああいう悲劇が起こった。其れも有り得ない程の偶然がな…。でも…。」
「でも?」
「笠原が殺害された方法だけは、どうしても偶然でなければならないんだよ。」
そう。笠原は自殺して死んだのでは無かった。司法解剖の結果、笠原は【毒殺】されていた事が判明したのである。
「偶然でなければならない。ってどういう事?」
「笠原は薬品を投与されて死んだんだ…。問題は、その【薬品】だよ。」
闇が嗤った…。
そんな気がした。




