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憂鬱な天国 Ⅰ 幽霊  作者: 倉木英知
幽霊解体新書
62/106

幽霊を解体する。 病


 辺りは夕闇に包まれる。カァァァ。天の彼方で鳴く鴉。天乃はフードを剥いだ。肩まで有るか無いかの漆黒の髪が風で靡く。


 「残酷な迄に偶然は更に続いた。」


 深呼吸をすると…。

 外界の冷気が肺を満たす。


 「不思議・・・と【心的外傷関連の刺激の回避】が起こらなかったお前は。何故か恐怖を切望し、あの廃墟ビルへと向かう。」


 カァァァ。鴉の鳴き声が響く。


 「そして【自殺をした女子高生と制服・・の、風貌・・の女子高生】と出会ってしまった…。あたしは最初に言ったよな?お前が殺害した女子高生の通話相手・・・・の証言があったと…。殺害される少し前に、ある会話をしていたそうだ。」


 風が少し強く吹き付ける。


 「お前が殺害した女子高生は、【虐め】に悩んでいた。親友である幼馴染に救いの手を求め続けていたらしい。あの日、スマホで【見ていただけじゃない。何で助けてくれなかったの?】と言っていたようだ。幽霊としては定番の台詞だ…。」


 悲鳴の様に鴉の鳴き声は続く。


 「お前は、その声を聞いたんだろ?幽霊の声と勘違いをした。そして恐怖は戦慄となり、戦慄はASDの症状を悪化させた。怒りや憎しみの感情を制御不能なまでに増幅をさせたんだ…。それで理性を完全に失う事となった。」


 鴉の鳴き声が止まり、静寂が訪れる。


 「前から近付いてくる女子高生を【自殺をして死んだ女子高生】だと認識してしまう。」


 夕陽が射し込み、天乃の瞳を照らした。


 「きっと、その時フラッシュバックがお前を蝕んだのかも知れないな。フラッシュバックは【記憶其の物】を呼び覚ます。視覚や嗅覚、感覚として捉えたモノ総てを…。女子高生が近付くにつれ、血の匂いが強くなったと錯覚したんじゃないのか?」


 再び、鴉が騒ぎ出す。


 「其処で完全に自我が破壊された。だから、お前は女子高生を殺害してしまったんだよ。」


 そう云うと、天乃は悲痛な表情で立ち尽くした。暗闇が訪れる。誰にも悟られない様にゆっくりと確実に…。


 「其の後、自ら眼を潰した。幽霊を殺せた…。そう想ったんだよな?だが、幽霊が死ぬ事は無かった。【幽霊は記憶の残骸なのだから…】。」


 視界に入る世界は…。

 影により構成され始める。


 幽霊を…。

 視覚で視ていると…。

 思い込んでいた…。

 お前は…。

 見えない様に…。

 視なくて済む様にと…。

 自ら…。

 自らの眼を潰した…。


 消え入りそうな声は闇に溶けていく。少しの時が開いた。


 「此れが、お前を苦悩へと導いた幽霊の正体だよ。此の世界には発症例が独りしかいないと報告されている病がある。お前の視た幽霊も…そう云う病だったんだ。」

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