暗転…。
だが、幸福の日々は永くは続かなかった。最愛の妻は連続婦女暴行絞殺魔に殺されてしまったからだ。凌辱され首を締められ殺害されたのである…。
後に犯人は発見される事となった…。そう。逮捕された訳では無い…。何故なら、彼は遺体として見つかったからだった。死んだ人間は捕らえる事は出来ない…。罪を償わせる事が叶わなくなり、行き場の無い感情が渦巻いた。
身元が判明した。
犯人は妻の元教え子の男性だった。
妻が彼を棄て、私と縒りを戻した事への嫉妬心が動機だった。寝取った男が寝取られ返され嫉妬する。本末転倒だ。木乃伊取りが木乃伊になった様なモノだ…。
遣る瀬無い想いが溢れていった。妻を思い返して、漸く、私は妻が死んだ事を実感した…。
涙が溢れた。
泣いて。
泣いて。
泣いて。
涙が出なくなった頃。
ふと鏡を眺めた。
鏡の中には…。
首をグニャリと曲げた妻がいた。
何も云う事も無く…。
ただ私を睨み…。
舌をチラチラと出し入れしている。
視線を反らしても…。
反らした先にも妻はいた…。
私を監視するかの様に…。
覗き。視ている。
『気付いてたのか?』
『私が、覗き視ていた事を…。』
返答等ある筈が無い。
妻は私を視ている。
息を潜め…。
家具の隙間から…。
カーテンの裏側から…。
机の引き出しの奥から…。
そして…。
天井に空いた穴から…。
砕けた首をグニャリと曲げ…。
此方を覗き…。
ただ視ている…。
『知っていたのか?』
『私が知っていた事を…。』
勿論、返答は無い。
ただグニャグニャと…。
首を揺らし…。
卑猥な舌を出し入れしていた…。
チラチラと出しては入れて…。
入れては出した…。
妻は無言で此方を視ている…。
蛇の様な眼差しで覗き…。
ただ此方を視ている。
その眼には、私が映り込んでいる…。
『知らなくて良い事は…。』
『知らなくて良かったんだ…。』
『視てはいけない事も…。』
『視なくて良かったんだよ…。』
『そうしていたら…。』
『私達は幸福になれていたのかな?』
そう、呟いて私は…。
妻の瞳に注射針を刺す。
勿論…。
其処には何も居る筈が無かった…。




