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蛇の目
妻を喪ってしまった。ソレは紛れも無い事実である。そして喪ってしまってから私が何れ程、妻の事を愛していたのかを思い知らされた。何をしていても頭に浮かぶのは、妻の事ばかりだったからだ。
いや。何をしていても視界に映り込む妻がいるのだから、妻の事ばかりを考えているのかも知れないけれど…。
妻の事が頭に浮かぶ。
妻は大学で臨床心理学を教えていた。臨床心理学とは、個人や集団の適応上の問題を解決する事を目的としたカウンセリング、指導、精神療法の研究をするのだと妻は云った。解りやすく云うのであれば、心理的な問題を解決すると云う事になるのだろうか…。
だとしたのなら、私がどういった心理状態で日々を過ごしていたのかも解っていたのだろうか…。あの鋭い眼で私を観察していたのだろうか…。
ふと視線をパソコンのモニターへ向ける…。モニターには、首をグニャリと曲げた妻が映っていた。やはり、妻は私を視ている。違う…。睨んでいるのだ…。半開きの唇から艶めかしい舌を覗かせ、舌をチラチラと出し入れし、無言の儘に鋭い眼付きで此方を見据えている。
「蛇の目か…。」
私は、そう呟いた。




