蠱毒
当時、私達家族が住んでいたアパートの周りには、空き地が多く存在しており、手入れもされていない空き地には、四季折々で多種多様の生物がいた。
蟷螂。飛蝗。蟋蟀。蜥蜴。蝶。蝉。蟻。蛇。蛙。蛞蝓。
取分け私は、昆虫が好きだった。あの独特な形態、生き物なのに柔らかいプラスチックの様な手触り。生きているのに体温を感じさせない表皮。そのどれもが私の心を虜にした。
80年代中頃、私が小学生の頃。当時、【昆虫採集セット】と云うものが流行っていた。駄菓子屋や文房具屋で売られていた記憶がある。その中身は注射器、ピンセット、虫眼鏡。そして、ボトルに入っている薬品が2つ。
赤い液体は殺虫剤。青い液体は防腐剤。
詳しい成分は記載されてはいなかった。けれど私も周りの子供達も、コレはそういうモノなのだと信じて使用していたものである。これは後になって知った事なのだが、2つの液体は着色料が違うだけで、何方も3%の【メタノール】を含んだ水との事だった。
私は昆虫採集セットでよく遊んでいた。昆虫を捕獲しては、2つの薬品を注射をした。
ブスリ…。表皮に穴を穿つ、その感触は何とも云えず、バタバタと藻掻く様子を見ては、私は興奮をしていたのだった。
思春期を迎える頃。昆虫採集セットは、見掛けなくなった。何処かで誰かが、遊びの最中に【失明】をしたとの事でPTAが、本格的に問題視して抗議行動を起こしたからだそうだ。
販売中止になったのには時代背景もあったのだろう。あるモノの抑止の為なのだそうだ。簡単に注射器が手に入るのは、【覚醒剤】の拡大を助長してしまうとの事だった…。




