変貌する世界
錆びた鉄の匂い。所々、散在する赤黒い滲み。砂利と砂利の隙間から覗く肉片。僕は此処を知っている。だが何故、僕は此処に居る?
廃墟と化したビルの前、僕は立ち竦んでいる。嫌だ。厭だ。イヤだ。此処には居たくない。あぁ。記憶の淵に在る残骸が形を成していくのが解る。此処は、あの娘が死んだ場所。あの娘が生を終えた場所。
グヂャッ。静寂な空間に異質な音が産まれる。その音は世界を歪めた。すると、瞳に映る世界は姿形を変えていく。
赤黒い滲みが鮮やかな血液へと変化していく。錆びた鉄の匂いは更に強くなり、 鼻腔を刺激する。血液は地面に拡がり、その面積をユルリと拡張した。
嫌だ。厭だ。イヤだ。
ゴボッ。血液が音を奏で表面張力を形成する。有り得ない事が、僕の目の前で繰り広げられる。
嫌だ。厭だ。イヤだ。
ビチャッ。ビチャッ。ビチャッ。
其れはユックリと少しずつ人の形を成していく。魚の様な虚ろな眼。生々しく蠢く肉瘤。金魚の様にパクパクと動く唇。血液を吹き出しながら、生々しい疵痕を露出している下半身。滴り落ちる血液は腐臭を撒き散らす。その姿は、まるで蘭鋳の様だ…。
《視ていただけじゃない》
《何で助けてくれなかったの?》
ハッキリと鮮明に耳を刺激する声。その娘は哭きながら、此方に歩み寄る。
来るな…。来るな…。来るな…。
嗚呼、厭だ…。
僕の意識は其処で途切れた。