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憂鬱な天国 Ⅰ 幽霊  作者: 倉木英知
幽霊 現し世より愛を込めて
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名もなき怪物


 夜空に浮かぶのは…。


 死んだ女の貌。貌。貌。貌。其れは幾重にも重なり、此方を視ている。紛れもなく自殺した女。紛れもなく僕が殺した女。


 涎と血液を撒き散らし、パクパクと唇が流動している。何かを訴える様な動きだった…。体温が数度下がった感覚に陥る。


 『うわぁぁぁぁぁあぁ…。』

 『厭だ。何で?何でだよ?』

 『見たくない。』

 『視たくないんだよ。』

 『殺したはずだろ?』

 『何で見えるんだよ?』


 見たくない。視たくない。


 『そうか…。眼があるから…。』

 『見えてしまうんだ…。』


 眼鏡を乱雑に地面に叩きつけ、左右の指を自らの眼球へ誘う。【 グチャ。 】


 薄れゆく意識の中…。自ら潰した眼ではなく、脳が記憶している【あの女】の映像が浮かび上がる。魚の様な虚ろな眼。金魚の様にパクパクと動く唇。隆起した肉瘤。


 僕を見てヘラヘラと嘲嗤う…。

 あの女の【幽霊】を…。


 視界が完全に無くなった。その時…。僕は…。ようやく理解した気がした。見ない様に…。見なくてすむ様に…。そう思っていた筈なのに…。


 ソレは間違いだったんだ…。

 見惚れている自分が怖かったのだ…。

 僕の心に存在する本性が怖かったのだ…。


 あの肉瘤に…。

 グロテスクな光景に…。

 異様な迄に…。

 エロティシズムを感じたからだ。


 その証拠に…。僕の脳内で再生されているのは…。あの蘭鋳らんちゅうの様な肉瘤にくこぶに塗れた…。青白く幸の薄そうな綺麗な女子高生の貌なのだから…。


 嫌だ。厭だ。イヤだ。

 見たくない。視たくない。観たくない。


 こんな僕に巣食う【怪物】を…。

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