生きているのか。死んでいるのか。
そんな僕を見ながら、彼女は予想していない言葉を、また並べた。
「なぁ…。お前は死んでいる人を見ただけで判別出来るか?」
『えっ?』
「外傷の無い人が倒れているとして、生きているのか、死んでいるのか見ただけで判別出来るか?」
「出来ないと思います…。」
あっ。僕は気付いた。気付いてしまった。生きているのか、死んでいるのか、僕には見ただけで確信する事は難しい。そもそも、死んでいる人を見る機会など滅多にない。医者を目指している訳では無いし、検死官を目指している訳でも無い。
「気付いたか?」
彼女は冷静な口調で訊いた。
僕は言葉を失う。
彼女は店内の人々を指差して…。
「視界に入る人々が、全員生きていると確信を持って言い切れるか?」
と訊き…。
「街中で擦れ違う人々全員が、生きていると確信を持って言い切れるか?」
と続けた。
『い…いや…。』
頭の中で色々な言葉が…。
浮かんでは消えた。
「幽霊に対するイメージは他人が決めた事だ。他人の世界に存在する幽霊だ。でも、そのイメージを不特定多数の人々が持ち、【幽霊】は、そういうモノなんだと思い込んでいる。実際の幽霊が生きている人の様に、体温を持ち、感情を持っていて、殺せるとしたら…。幽霊を幽霊として認識していないんじゃないか?」
そうなのかも知れない。そう思った。誰も幽霊の生態を知らない。誰も幽霊を理解出来ていない。他人が想像したイメージを漠然とそう思い、理解していると思い込んでいるだけだ。