幽霊の独白
此処から綴られるのは…。
ある人物がセラピーと称し、趣味として書いた小説【幽霊の独白】の1部である。
私は幽霊を視た。何も言葉を発する事も無く。ただ口をパクパクと開けては閉め、閉めては開けている。その顔面は潰れたかの様に肉瘤が隆起していた。この私の虚ろな瞳には、ソレが蘭鋳の様な姿で映し出されていたのだ。
口がパクパクと動いて視えているのは、水面の光の反射が関係しているのだろう。要は光の屈折によって瞳と脳が、そう魅せているだけだ。今、私の虚ろな瞳に映し出されているのは、河に流されている水死体なのだから。
遺体が水中で放置されると、肉体の内で細菌が増殖しガスが発生し、膨張する。状況により、肉体の色は紫色や白く変色していく。水中の死体が腐敗する時、先ずは顔面から腐敗が始まり、死後2、3日すると角膜が濁る。死後2週間程で、手足の皮膚が剥がれ落ち、死後2、3週間で、毛髪が自然に抜け落ち、死後1ヶ月で頭蓋骨が処処露出する。
ともすれば、眼前に流されてきた水死体は死後2週間程なのであろう。潰れた様に視える顔面も、処処、皮膚が剥がれ筋肉が露出し、鱗の様に視える肉体も、膨張している。だから…。この虚ろな瞳に映し出されている姿が一層の事、蘭鋳に視えているのだろう。
幽霊とは受け取る側の成就しなかった想いの成れの果てだ。
切ない。
儚い。
恨めしい。
憎い。
愛しい。
逢いたい。
殺したい。
だからこそ…。
幽霊とは何かを伝える為の…。
メカニズムの1つなのだろう。
「あぁ。五月蝿いよ。お前…。死人に口無しなのにさ。」
そう、私は呟き、河川敷に落ちていた木の枝を遺体に突き立てた。
ぷしゅ。と音を立て…。
水死体は腐敗臭を撒き散らしていく。
「1度殺しても、五月蝿いなんて…。もう1度殺さなきゃいけないの?死んでからも迷惑かけるなよ。何で浮いてきたんだ?アレだけ重りを付けてやったのに…。あぁ。何かを伝える為か…。」
ぷくぷくと、遺体は音を立てている。
「沈まないんもんだな。」
『五月蝿いよ。黙れ。』
私は足元に転がる…。
コンクリートブロックを投げ付けた。
此の物語に感銘を受けた少女がいた。
その少女は此の物語が誰にも知られずにいる事が耐えられなかった…。耐えられなかったから実行しようと考えた。