104/106
幽霊に生贄を捧げる。⑥
「そして…。其れが総ての始まりだったんだよ。悲劇的で喜劇的な物語のな。」
天乃は少し左に首を傾げた。
「笠原は、お前を愛してしまったんだ。」
七瀬はハッと眼を見開いた。
「そして…。監視した…。九年もの間ね。」
歪んだ愛だよ。と天乃は云う。
「笠原の日記帳を読んだんだ。笠原が何れ程、お前を愛していたのか…。事細かく書かれていたよ。父親と兄を殺したお前を愛してしまったからこそ苦しんでいたのさ。そして、お前を愛した理由を自分なりに解釈したんだろうな。笠原とお前は…。」
似ていたんだよ。と云った。
「似ている?」
「そう似ていたんだ。不器用なんだよ。愛したモノへの接し方がな。」
「…。」
七瀬は俯く。
「優しいクセに愛し方と愛され方が解らなかった…。どうすれば振り向いてもらえるのか…。そして…。その結果、【生贄様】が産まれてしまったんだ。笠原はお前に振り向いて欲しかっただけなのにな…。」
そして…。其れを利用した奴がいた…。と天乃は拳を握り締めた。
「順を追って話そうか…。」
そして…。語りだしたのだった。