幽霊に生贄を捧げる。④
「なぁ。お前…。悪夢の様な夢視た事、あるか?現実的であり虚構的な夢。例えば其れは過去の記憶で有り、欲望の成れの果て…。そんな夢だ。」
天乃は無機質な表情で訊く。
「…。」
七瀬は無言で天乃を見つめていた。
「まぁ。其れは、彼奴が得意としている手段なんだがな…。そうだ。お前…。夢の中で女性の綺麗な声聞いてないだろ?」
「…。」
「黙りか…。まぁ。ソレも良いけどさ。聞いてないなら…。お前は選ばれてはいないみたいだな。やっぱりただの生贄だよ…。洗脳済みの操り人形。もう手遅れだ…。」
「…。」
七瀬は俯いている。
「お前に指示を与えていたのは男か?女か?」
天乃は【女】を強調して問うた。
「男よ。中年男性…。」
漸く言葉が漏れた。
「ほほぅ。嘘は吐いてはいない様だな…。下唇を噛んでいないからな。」
天乃の瞳は深く昏い。その瞳で七瀬を観察していたのだろう。
「だとしたのなら。やはり【幽霊】が絡んでいるな。あたしの知っている奴は、2年前に死んだ女だからだ。【幽霊】とは…。人が死亡して肉体が消滅しても尚、此の世に未練や怨恨の念が有る為に成仏出来ず、浄土へ逝けない魂が其れらしき姿と声を持って姿を現すモノ。念とは想いだ。彼奴の想いを継いだ誰かがいるんだろう。」
また瞳の奥を覗き込む…。
「お前の知っている、その男の名前を教えろよ。」
「…。」
「また黙りか?まぁ。良いや。其れなら遣り方を変えてやるよ。」
天乃の声は冷淡になった。