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渡世人の夢

 翌日、日が登ってから壬生街道を日光方面に二人は歩いた、今市追分に差し掛かろうというときに弥二郎の渡世人の勘が虫の知らせを発した。

弥二郎の渡世人の勘は的中した、昨日の追手が追分で待ち構えていたのだ。

「よぅ、遅かったじゃねぇか、おめぇさんたちが来る前に追分で待ち伏せてたのよ」

権六だった、親分自らお出迎えで子分と助太刀の数ざっと50余人・・・さくらを守りきれるだろうか?

弥二郎も万全とは言えない状態でさくらを守りながらの戦いには自信がなかった、だがやるしかない

「どうでぇ弥二郎、オメェのこと話したらよぉ、こんなにオメェを殺りてぇって奴が集まったぜ!」

「おうよ!頭巾の弥二郎を殺ったとなりゃ関八州で俺の名前も売れてちったぁ草鞋銭の値もあがるってもんよ」

渡世人の中でもクズばかりが集まっていた、だが手強いし多勢に無勢だ

弥二郎はこの状況をどう切り抜けるかを考えた

「”さくら”・・・俺から離れるんじゃねぇぜ」

「はい!!」

弥二郎は覚悟を決めて腰の長ドスを抜いて構えた

「権六親分とそのお身内衆、並びに助太刀の皆様おひけぇなすって!!!あっしこと頭巾の弥二郎、この名は偽りの名にござんす、本日この揉め事に限り偽りの名を返上して真の名でお相手いたしやす!」

そういうと弥二郎は頭巾を取り人々に化け物と呼ばれた素顔を晒した

「あっしの真の名は赤鬼の小吉にござんす!」

その名を聞いてその場がにわかにざわついた

「てめぇ・・・数年前に近在の悪党共をたたっ斬って金を巻き上げた大悪党の赤鬼の小吉か!!!」

「野郎島抜けしてきやがったな!!!」

ヤクザたちは小吉の名を聞いて震え上がった、名うての親分衆や山賊をたった一人で皆殺しにした凄腕の渡世人がいたという話を知らないものはいなかった

「命を粗末にしたくないお方はどうぞお控えなすって!あっしに手向かいなさるお方はお覚悟なすっておくんなせぇ」

その一言で助太刀達は蜘蛛の子を散らすように去っていった、残る20余名の身内衆も半分は震え上がっていたが権六の喝が飛んできた

「馬鹿野郎!!!小吉がなんでぇ!この野郎たたっ斬れ!!!」

親分の号令で子分は一斉に飛びかかっていった、刀を合わせることもなく小吉はヤクザを斬り伏せていった


 小吉の背中に隠れているさくらは震えているしかなかった、一人、また一人ヤクザが倒れて小吉が返り血で真っ赤に染まっていた。

「この野郎!!!」

ズバッ!!!

「ぐぇぇ・・・」

袈裟懸けに真っ二つになったヤクザの亡骸が代貸の足元に転がった

「親分、あっしが野郎ひきつけますから野郎の後ろにくっついてる娘を・・・」

「よしきた!」

このままではジリ貧だと思った代貸の奇襲の作戦、この代貸、元は浪人で多少は腕に覚えがあるが正攻法では小吉に勝てないことを悟っていた

「やい小吉!こっちだ!北辰一刀流、矢切虫左衛門がお相手いたす!」

「よござんす、十剣無刀流 男谷小吉・・・お受け致します」

今までのヤクザとは比べ物にならない強さだった、伊達に侍をやっていたわけじゃない

神経を集中しないとこっちがやられる、切っ先から目が外せない小吉はさくらの意識が疎かになった

代貸が権六に目配せしたのと同時に小吉は切り込んだ、ドスは代貸の片腕に深々と切り込んで一撃で切り落とした

返す刀でトドメを刺そうとしたその瞬間

「待ちやがれ!!!」

権六がさくらの首にドスをあてがっていた

「小吉!ドスを捨てろぃ!捨てねぇとこのアマの喉笛掻っ切るぞ!」

「兄さん!」

「さくらぁ!権六てめぇ・・・」

利き腕を斬られた代貸がニヤリと笑って小吉に近づき小吉のドスを奪い取った

「てめぇには斬られた腕のお礼をしねぇとなぁ・・・カタワにするくらいじゃ収まらねぇや、死んでもらうぜ小吉!」

代貸が刀を振りかざした瞬間さくらは無我夢中で権六の呪縛から抜け出して走った

「やめてぇーーーーーーーーー!!!!」

代貸の振り下ろした刀はさくらを肩口から切り裂き血が着物ににわかに滲んだ

怒り狂った小吉は代貸から刀を力付くで奪い取り鬼の形相で睨みつけて唐竹割りに脳天から真っ二つに切り裂き代貸は言葉もなく絶命した

子分に見捨てられて今や自分ひとりとなった権六は恐怖のあまり腰が抜けていた

「こ、こ、小吉さん、どうか!どうか許しておくんなさい!命ばかりは!命ばかりはt」

最後の台詞を聞くまもなく権六の首は胴体と泣き別れた


 「さくら!さくら!しっかりしろぃ!」

「兄さん・・・兄さんなのね・・・」

「ああ、俺だ小吉だよ・・・苦労をかけたなぁ」

青ざめた顔のさくらの命はもはや風前の灯だった

「兄さんの顔・・・初めてみた・・・声も昔と違うし・・・」

「気味が悪いだろう?」

「ううん・・・そんなことない」

さくらは微笑みながらそういった

「あたしね・・・兄さんにずっとお礼がいいたかった・・・」

「俺の方こそ俺がドジをふんじまったせいで・・・すまなかったなぁ」

「ドジって・・・?」

「おめぇの治療費を稼ぐために俺は悪党から金を巻き上げてやった、だけどヤクザ同士の喧嘩だと言っても殺しは殺しだし俺にはあの時の女衒を斬った罪もあっての島送りよ、だがな、俺はそんなことよりおめぇが心配だった・・・なんとかシマを抜けて帰ってきてみたらおめぇは死んだと聞かされたんだ」

「そう・・・だったの・・・」

「それがまさかこんな事に・・・どうして・・・」

「でももういいの・・・こうして兄さんとまた会えたんだし・・・」

さくらの頬を涙が伝った、涙の跡を小吉の手がぬぐった。

「兄さんの手温かい・・・私のせいであんなにきれいだった手がこんな手になるまで苦労をかけてごめんね・・・」

「いいってことよ、俺ぁおめぇのあんちゃんだぞ?」

「あたしね、目が開いた事より兄さんと旅にでてた時が一番幸せだった・・・兄妹水入らずでさ・・・景色なんか見えなくたって幸せだった」

「俺もさ、さくらよぉ、俺ァ・・・なんで宛もない旅を続けてたのかやっとわかったぜ、俺もおめぇとの旅が忘れられなかったのよ、旅を続けてればまたあの時のような旅ができる気がしてた」

「ねぇ・・・草笛・・・兄さんの草笛聞きたいな」

「ああ、昔はこうやっておめぇがべそかいてるときに吹いてやったっけな・・・」

自分の目にも涙を浮かべた小吉は懐から笹の葉を取り出しいつか吹いた時と同じように悲しげな音色を響かせた

「懐かしい・・・兄さん・・・ありがとう・・・」

片腕で抱えていたさくらの体からフッと力が抜けたそれでも小吉は草笛を吹き続けた

今市の空にはぐれ鳥の草笛がいつまでも響いた。

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