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足抜け道中

 「ごめんなすって!!ごめんくださいやし!!」

聞き覚えのある絞り出すようなガサガサした声が聞こえた、絶望の縁に立っていたさくらの胸は踊った・・・

「弥二郎さんが来た・・・来てくれた・・・」

もう会えないと思っていた弥二郎が来てくれたそれだけで嬉しいことだがどうも様子が変だ慌てて声のする方にかけていくと土間に弥二郎が立っていた

「弥二郎さん・・・!!!」

「さくらさん、どうやら権六はおめぇさんを自由にする気はないようです、何も言わずにあっしと来てやっておくんなさい」

「・・・はい!!!」

突拍子もない事をいう弥二郎だったがさくらも待ってましたと言わんばかりに弥二郎の言うことに二つ返事で答えた、そこに割って入ったのが後から駆けつけた番頭や女将である

「ちょいと!あんたどういう了見でさくらを連れ出そうっていうんだい!?」

「あっしはこの前確かに身請け料をお支払い致しました、女将さんに文句を言われる筋合いはござんせんぜ、証文だってこの通りございます」

弥二郎がパッと懐から取り出した証文をみた番頭は鼻で笑いながら

「へっ、そんなもん無効なんだよ、こっちの新しい証文の金も払わねぇ限り身請けなんかさせねぇぞ!」

そういうと番頭も懐から昨日今日書いたような新しい証文を取り出した、弥二郎はその証文をチラッとみると腰の刀に手を伸ばし

パッ!パッ!と腰の刀で紙をバラバラに切り裂いて切っ先を番頭に向けた

「おつりが必要ですかい?」

ヒィィ!と情けない声をあげて番頭はその場に尻もちをついた

「足抜けするつもりかい・・・お前たちタダじゃ済まないよ!」

そう吠える女将を尻目に簡単に身支度を済ませたさくらは急いで弥二郎と宿場をでた。


 鹿沼をでて日光に向かって追っ手をまくように街道を只管歩いた、女の足に合わせての強行軍なのでなかなか思うように進めないが今のところ追手は見えない

道中一言も口を聞かなかったがさくらのほうから口を開いた

「ねぇ・・・弥二郎さん、どうして戻ってきたの?」

「鹿沼の親分さんがあっしをほっとかなかったんでさ」

「だからって私を足抜けさせなくても・・・弥二郎さんは黙って旅にでればよかったのに・・・」

「あっしがテメェのしたことでまたさくらさんにご迷惑かけちまったからけじめをつけただけでさ、お気になさらないでくだせぇ」

「”また”・・・って?」

弥二郎の頭巾の奥の目がカッ!と見開いてしまったという顔を一瞬したが

「いえ・・・なんでもござんせん、言い間違いでござんすよ、それより道中しんどくありませんかい?」

「ええまだ大丈夫・・・大丈夫です・・・・」

そういってさくらは旅籠からもってきた杖をぎゅっと握り直した

「その杖・・・変わった肌でござんすね」

「これ・・・あたしが昔使ってたんです、目が見えなかったから・・・兄さんが山桜の枝で作ってくれたんですよ、今となっては数少ない兄さんを感じることができるモノ・・・」

「そうだったんですね、さあもう少し辛抱してやっておくんなさいよ今日中に日光に付けばなんとかなりやす」

弥二郎はさくらには黙っていたがその杖には見覚えがあった、思い出さないようにしていた遠い記憶の彼方に確かにその杖があった、弥二郎の予感が確信に変わった


 空に夕日がかかる頃、弥二郎とさくらの目前に追手が迫っていた、どこからかき集めたのか50人近くの手勢になっていた。

必死に追手を振り切り時には刃を交え山中に身を潜めた頃にはすっかりあたりは暗くなっていた。

弥二郎も女連れで逃げながらの喧嘩は骨が折れるようで所々をドスで切られ突かれ軽い手傷を負っていた

さくらはそんな弥二郎をみて慙愧の念にたえなかった。

弥二郎の傷から流れる血を拭おうとすると弥二郎の腕には彫り物があった、刺青にさくらは驚いた・・・「サ」の刺青、これは島送りになった者の証である

弥二郎は固まってるさくらに気づいて刺青をサッと隠したがときすでに遅し

「見ちまったんですか・・・・お察しの通りあっしは島抜けした罪人です、あんたには見られたくなかった」

「なんで弥二郎さんが・・・どうして・・・」

当然の疑問だがそんなことを聞いてはいけないという気持ち以上にさくらはその理由を聞きたいという気持ちがあった

「人にお聞かせするような話じゃござんせんよ」

寂しそうに笑うように弥二郎は言った

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