婚約者の愚痴を吐きつつ食べるお菓子は最高です。
作中ほとんど魔法は出てきませんが、魔法のある世界のお話です。
王太子の婚約者に選ばれたのは5年前の13歳。
王妃主催のお茶会。別名「未来の王太子妃選考会」で何故か選ばれてしまったのだ。
お母様から「お願いよクローディア。お茶会の間は大人しくしていてね。挨拶以外は微笑むだけでいいから。ご挨拶が済んだら横に併設されている庭園で遊んでも大丈夫だから」と許しまで頂いていたのに。
お菓子の誘惑に負けて会場にいたのが敗因かしら。
「はぁ〜辺境に帰りたい。あ、この紅茶美味しい」
今日も今日とてクローディア・カステローゼ辺境伯令嬢は学院のカフェで溜め息をこぼす。
「溜め息つきたくなるのもわかるけど、そんな毎日毎日溜め息ばかりついてたら運が逃げちゃうわよ。あら、本当、この紅茶美味しいわ」
「王太子の婚約者になった時点で逃げてるわよ。あーもーわたしは辺境で生きたいのに。もう、どうして選ばれちゃったのかしら。公爵令嬢のシャーロットの方がよっぽど適任だと思うのに」
「クローディアはクリスティーナ様に似てるし、アメジスト色の眼と漆黒に近い青からブルーシルバーにグラデーションになっているその髪、とても美しいもの。傾国の姫と言われた方の娘よ?王太子殿下だって一目惚れするでしょ」
「え〜?」
「本当に嫌そうな顔するわよね」
「だってその王太子殿下を見てみなさいよ。ほら、今も中庭で可愛いらしい女生徒とご一緒よ。何が一目惚れなんだか。あんなに堂々とベタベタするんだったら、さっさと婚約者をあの脳内お花畑の子爵令嬢に変更してくれればいいのに。あら視界から消えたわね。それよりこのクッキーも美味しいわ」
「さすがにそのブレスレットがある限り婚約の契約が成立してるから無理だっていうのは、あの見た目だけの王太子もわかってはいるんじゃないの?それに王家だって手放さないんじゃない?王太子妃教育3年で修了したんでしょ?こっちのケーキも美味しいわよ」
「礼儀作法はお母様から幼少期に自然と叩き込まれてたから問題なかったし、辺境にいると周辺諸国に関する知識は必須だったのよ。その分短くなっただけ。もうこのブレスレット契約魔法で外せないし本当に嫌になるわ。本当だ、このケーキも美味しい。レシピ教えてもらうより引き抜いた方が早いかしら」
「ねぇ、解除する方法ってないの?」
「解除するには条件があるの。まぁ殿下の行動次第ね。その条件、殿下はご存知ないけど」
「殿下次第?それならそのうち解消になるのかしら?ふふ、ショーン様の喜ぶ顔が浮かぶわ。引き抜いて辺境に連れて行きましょうよ」
「確かにお兄様は喜ぶわね。お兄様ってば辺境伯を継いでも問題ない戦闘力をお持ちなのに、表より裏で動きたいタイプなんだもの」
「漆黒に近い青髪、金色の眼、あぁ口角を少し上げて微笑まれた時の破壊力ったら!手足も長いし、スレンダーなようでしっかり筋肉のある体躯!!!素敵すぎる!」
「どこで筋肉を見たのよ。あとお兄様の微笑みは悪魔の微笑みって呼ばれてるわよ。まぁあの悪魔のようなお兄様が溺愛しているんだからシャーロットも相当だと思うんだけどね」
「何か言った?」
「何も言ってないわよ。今日もありがとう。愚痴を言いながらだとついついお菓子が進むのよ。本当ここのお菓子最高!」
「さ、紅茶もお菓子もなくなったし、そろそろ帰りましょうか。持ち帰り用の焼き菓子も用意してもらったのよ」
「さすがね!シャーロット!わたしの事よくわかってるわ」
と席を離れようとしたその時
パリンッとブレスレットは2つに割れ、そして消えた
「消え・・・た」
「クローディア!今すぐ公爵邸に行きましょう!わたくしはそのままお父様に報告するわ!クローディアは転移陣ですぐに辺境へ!」
「わかったわ!」
***
その後の行動は早かった。
すぐに辺境へ戻ったクローディアはそのまま辺境伯の当主となった。
元々婚約解消となった場合、すぐにクローディアが当主となるように契約書に盛り込んだのだ。
王家と距離を置きたかった辺境伯は可能性を残しておきたかった。
王家はそんな事態にはならないと特に気にも止めなかった。
結果、王太子の失態により婚約は解消となった。
「クローディア、よく頑張ったね」
「ありがとうお兄様。婚約も解消出来たし、慰謝料も予定通りよ。そろそろ5年分の発散をさせてもらうわ。ふふ、楽しみ」
「我が家のお姫様は過激だからね。でも、久しぶりだから程々にするんだよ」
「はーい」
「ところで、契約魔法の解除の条件って何だったの?」
「ふふ。『王太子が他の人と一線を越える』これが条件だったのよ。王家は流石にありえないからとその条件を許したの。わたしだって殿下が真摯に向き合って努力してくれれば支えようとは思ったけど、そんな器じゃなかったから早々に見切りをつけたし、陰ながらあのお花畑の令嬢を応援させてもらったわ。予想以上に行動が早くて驚いたけど」
「普通なら起こりえない行動だものね。元王太子は廃嫡され北の塔に幽閉、王家にはまだ幼いけどすでに優秀だと言われている第2王子がいらっしゃるから問題はない。我が子可愛さに先の読めない両陛下は、お父様がどうにかするでしょうし、クローディアは安心して辺境伯の務めを果たしなさい。わたくしとショーン様がいるから何も心配はいらないわ。あ、あとカフェの料理人は引き抜いといたわよ」
「ありがとう、シャーロット!早速少し魔獣狩りしてくるわね。帰ってきたら美味しいお茶とお菓子が待ってるわ〜」
「クローディアが生き生きしてますわ。ふふ、ショーン様、幽閉されているはずの元王太子とお花畑令嬢は地下ですか?お花畑令嬢の方はわたくしの方で躾けてもよろしくて?」
「もちろんだよ、シャーロット。好きなように遊んでくれてかまわないよ」
「楽しみだね」
「楽しみですわ」
「ところで前当主ご夫妻はどちらに?」
「あ〜、クローディアに当主を譲った瞬間に旅に出られたよ。ずっと魔獣との戦いがあって忙しかったからね。母上大好きな父上の動きは感心するほど早かったよ」
「まぁ、クリスティーナ様も愛されてますわね」
「ねぇシャーロット。わたし、しばらく婚約したくないんだけど、無理な話かしら?あ、このフルーツタルト美味し〜い」
「ショーン様はクローディアの気持ちを優先していいって仰ってたわよ。やっぱり引き抜いてきて良かったわ」
『美味しいお菓子があると本当幸せよね〜』
クローディアは辺境伯当主としては歴代最強です。
兄のショーンは裏で暗躍したいタイプな為、戦闘大好きな妹にあっさり当主を譲ってます。