ヤンデレダークエルフが、俺の事好きすぎてチ〇コ爆発する呪いを仕掛けて来たんだが
チ〇コ爆発しそう。
比喩ではない。
マジで爆発する。
具体的に言うと、あと一日以内に男女の営みをしないと、チ〇コが爆発して俺は死ぬ。
「あんのヤンデレダークエルフ……厄介な呪いを仕掛けやがって……」
記憶の中でにへら〜と笑う長耳の褐色ダークエルフに悪態をつきながら、俺は頭を抱えた。
俺の股間には呪いが仕掛けられている。
3日以内に行為をしないと、俺の股間を起爆剤として半径数百kmの大爆発が起こる、アホな呪いだ。
俺はこれをマジカル☆エクスプロージョン☆チ〇コと呼称している。
この呪いは以前コンビでパーティを組んでいたダークエルフが仕掛けたもので、本人曰く「ボクから逃げられないようにする為だよ……ウフフ……」とのこと。
そう。
ボク。
俺のチ〇コに呪いを仕掛けたヤンデレダークエルフとは、艶のある唇で妖しく笑う、美形のイケメン野郎なのだ。
アッー!
身の危険を感じた俺はすぐさま奴の元を逃げ出し、2日間の放浪の末、今に至ると言う訳だ。
「クソッ……慌てて飛び出したから金は殆ど無いし、装備も摩耗して食料も僅かだ……」
ゴブリンの血肉を吸ってすっかりボロボロになった片手剣を鞘に収めながら、俺は内心焦りまくる。
この2日間で、なんとかヤンデレダークエルフの知らない街の近辺までやって来た。
この荒れた街道を抜ければ、目的地までもうすぐだ。
ここなら転移魔法で追いつかれる心配もない。
だが問題は、残り1日でどうやって呪いを解除するかだ。
金が無いから娼婦は買えない。
そもそも金があったら教会で呪いを解いてもらう。
所持品を金に替えても、こうボロボロの装備では、一日の宿代にもならないだろう。
「だったら街の女を口説くしかないか? けど俺、ナンパなんてした事ないし、そもそも相手して貰える程イケメンじゃねぇぞ……」
事情を説明して土下座する?
いや、流石にこんなアホな呪いは信じてもらえないだろう。
当然、一般人を無理矢理にでも襲えばすぐにでも衛兵が飛んできて牢屋行きだ。
そもそも緊急時とは言え、そんな非道は御免被る。
「…………詰んだ」
もう駄目だ。
方法が思いつかない。
このまま俺は、マジカル☆エクスプロージョン☆チ〇コが暴発するのを黙って受け入れるしか無いって言うのか……?
「ちくしょおおおおおお!! こんなアホな理由で死にたくねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
このまま死ぬ位なら、おとなしくヤンデレダークエルフとうっふんあっはんした方がマシだったのだろうか。
よく考えたらアイツ女顔だし、俺が攻めならギリギリ許容できたかもしれない。
「……って駄目だ! 死への恐怖で思考が麻痺してきやがった! しっかりしろ俺! 確かにアイツは女顔だけど、性別は男だぞ!」
だって本人が「ボクは男の子だもん!」って言ってたもんな。
そりゃあ、俺だってたまに「あれ? コイツ女じゃね?」と錯覚した事はある。
なぜか水浴びはさっさと済ませて絶対に一緒に入らないし、着替えが速くて決して裸を見せないし、密着するのを極端に避けるし、座り方が女の子座りだし、身体のラインが妙に女らしいし。
けどアイツは男だ。
だって胸が無いからな!!(←ココ重要)
「呪いをかけられる前日に、戦闘後にバランスを崩して押し倒す格好になっちまったけど、アイツの胸は紛うことなきぺったんこだったからな。あそこまで真っ平らだと疑惑も吹っ飛ぶよな! アハハハハ!!」
「……誰の胸が真っ平らだって?」
その声が聞こえた瞬間、
俺は風よりも疾く駆け出した。
「気のせい……! 気のせいだ……!! アイツは2日前に撒いたはず……! こんな所まで追いかけて来るのは気のせいだ……!」
だがあのダークエルフは恐るべき呪術士。
何かの呪術で俺の位置を特定しても不思議ではない。
そういえば以前、「この指輪を君に渡しておく。これは決して相手の位置やプライベート情報が筒抜けになるとか、そんな効果は何一つ無い普通の装飾品だから安心して身につけてね」
……とか言っていたけど、何か関係があるんだろうか。
その指輪は今でも薬指に嵌めてるけど、まあそれはどうでもいい情報かな。
「こらー! 待てー!!」
「うおおおおおお! 捕まってたまるかァァァァァァ!!」
俺は走った。
街道を往く人々をすり抜け、犬の魔物を蹴飛ばし、泥川を飛び越え、沈みゆく太陽の0.01倍は速く走った。
そして体力の限界ですっ転んだ。
「はい♡ つーかまーえた♡」
そして恐るべき悪鬼に捕まった。
もういい。殺せ。やんぬるかな。
「ねぇ……ひどいよ、ボクから逃げてさ。そんなにボクの事が嫌いになったの……?」
茂みの中。ヤンデレダークエルフは俺を押し倒す格好で顔を近づけてくる。
食料不足もあって体力の限界に達していた俺は、女の子座りでのしかかる華奢な肢体を、跳ね除ける事も出来なかった。
「ボクの胸……触ったでしょ? 責任……とってよ……」
女みたいに艶がかった吐息が唇に当たり、色んな意味で興奮してるのが伝わってきた。
沈みゆく夕陽が幻想的な景色を彩る。
そのまま目を閉じて口づけを交わされそうになった所で、とろみがかった意識を慌てて覚醒させた。
「ぐえ」
「あ、ごめん」
勢い余ってほっぺたをむぎゅっと押しのけてしまう。整った顔立ちがゆるキャラみたいになって不覚にもカワイイ。
……ってそうじゃねぇ!
「待ってくれ! やっぱり俺は、その…………無理だ! 初めてはおっぱいのデカいお姉さんが良い!!」
「は?」
鋭い怒気の込められた笑みだった。
「……いや違う! そういう問題じゃなかった。聞いてくれ! 確かに俺とお前は固い絆で結ばれた相棒だと思ってる。けどそれは、あくまで仲間としてだな……」
「……ひょっとして、まだボクが男だと思い込んでるの?」
「え?」
バカな……!
こいつ、実は女だったのか……?
「……いいや、そんな筈はない……! 確かにこの目に映る情報はお前を女みたいだなと認識している。だが俺の直感がそれを否定してるんだよ!」
「呪術の指輪も見抜けないクセに?」
なにィ!?
「すると何か!? 前にお前から貰った、この薬指につけてる指輪に何か仕込んでたって事なのかよ!?」
「やだ……薬指につけちゃうなんて……大胆♡ ぽっ……♡」
月明かりを浴びながら身をくねらせる彼女(?)に対し、俺は混乱する思考を整理する。
「……えーと、つまり……あれっ? じゃあお前が本当に女だったんなら、俺は初めから逃げなくても良かったって事?」
「そうだよ? まだ信じられない?」
「まあ……」
今まで信じてきた価値観が崩れてしまったんだ。
何より、これじゃ俺がまるで馬鹿みたいじゃないか。
「みたいじゃなく、確定で馬鹿なんだけど……」
どうやら俺の内心まで筒抜けのようだ。
ジト目の彼女を見てると、なんだか今までの自分が馬鹿らしくなった。
「ははっ……。やっぱりお前には敵わないな」
空に浮かぶ満天の星空を眺めながら俺は笑う。
実は女の子だったダークエルフは俺の上から降りると、隣に腰掛け、同じく空を見上げていた。
「うん……本当に……馬鹿なんだから……」
そのまま俺の手をきゅっと握りしめる。
女の子の柔らかい指先が、温かな脈拍と共に手のひらを包みこんだ。
今更ながら、ボーイッシュな美少女と二人きりだという状況にドキリとする。
「……な、なあ。なんで男だと嘘をついてたんだよ?」
その気持ちを誤魔化すように、寝転んだまま彼女へ尋ねる。
視線を向けると、褐色の少女はやや昏い陰を表情に落としていた。
「……ボクたちダークエルフの女はね。その昔……奴隷としてたくさん人間に連れて行かれたんだ。だから集落の外に出る時は、男のフリをしなきゃいけなくて」
「そんな事が……」
確かに初めて会った頃の彼女は人間を……それも男を極端に毛嫌いしていた。
俺も初対面はこっぴどく罵倒されたものだ。
「はじめは人間の事が憎かった。恐るべき悪魔だと、集落で教えられて育ったから。……何度も言うけど、初めて会った時にひどい事言ってごめんね……」
「気にすんなよ。そもそも罵倒されてた事に気づいてなかったから」
だって後から謝られた時に初めて知ったからな!
「もう……。ほんと、そういう所だよ、みんなから馬鹿だって言われるの……」
呆れながらも、彼女は笑っていた。
俺の手をすくい上げると、両手で包んで胸元で愛しそうに抱きしめる。
その感触に、俺も消え入りそうな声で答える。
「やっぱり胸……」
「は?」
だからその笑み怖いって!?
「…………はぁ、まったく。……けどね、君と出会ってボクは人間を好きになったんだよ。温かくて、優しくて。確かにひどい人や悪い人はいたけれど、それだけで人間全体を悪く思うなんて、間違ってると思った」
「お、おう……」
「……それに、何かあったらボクを守ってくれる……って、言ってくれたもんね?」
そう言ってはにかむ彼女を直視するのはなんだか照れ臭くて、俺は思わず視線を逸らした。
「ま、まあな。お前を悪く言う奴は、全部俺がぶっ飛ばしてやる」
「ふふ……。そう言って領主様を殴り飛ばして、二人一緒に投獄された事もあったっけ」
「う……あれはホントごめん」
権力には勝てませんでした。
「責めてないよ。ボクの為に怒ってくれて、とっても嬉しかったから……」
「いや……。あれ、領主が爆乳美人メイド侍らせてた八つ当たりもあったから……」
「正直でよろしい」
あのとき、牢屋には無実の人がたくさん捕まっていて、メイドも家族を人質にされて無理矢理手籠めにされてたんだっけ。
結局あの領主は俺たちの奮闘で失脚して没落、街には平和が戻った。結果オーライで助かったな。
「……何より、同じ物を食べて美味しいねって笑ったり、同じ星空を見て、美しいと思う感情は同じだった。見た目や生きる時間は違うけれど。……種族が違っても、心はきっと、通じ合える」
「……ああ。そうだな。人間もダークエルフも。エルフもドワーフも獣人も。……みんな。みんな、同じ大地で生きる仲間なんだ」
そう言って、俺達は同じ星空を見上げた。
「……ねぇ、やっぱり君は、ボクの事を受け入れられない?」
しばらくすると。
ためらいがちな声が、隣からかけられる。
「なにが?」
「ホント鈍いなぁ……」
俺の頰へ両手を添えて、艶のある唇を近づける。
「こういう事……」
「に……にらめっこ?」
「ふふ……照れ隠し? 流石にこれは分かってるでしょ」
そう言って、もう一度接吻を交わす。
もう俺は逃げなかった。
「ん……」
彼女の吐息が熱く触れ合う。
そのまま俺達は抱き合いながら茂みに倒れ込み、美しい日の出が二人のキスを祝福するかのように照らしていた。
「…………うん? ちょっと待てよ」
そこで俺はとんでもない事を思い出した。
「んっ……? もう……、突然顔を離してどうしたの?」
戸惑いながら微笑む彼女を前に、俺は茂みの中で首を傾げる。
「……いや、もう日が昇ってるけどさ。俺のチ〇コが爆発する呪いって、いつ発動するっけ?」
「あっ」
おそらくすっかり忘れていたのだろう。
俺の一言に彼女は長耳をピクリと動かし、ガバっとその場から跳ね起きた。
そして、懐から転移石を取り出すと。
「おい待て逃げんなコラ」
その手をガッと捕まえた。
「離して……! ボクにはもうコレしか……!!」
「なに悲壮感漂わせてトンズラしようとしてんだよ!? お前が仕掛けた呪いだろうが!! 責任とって解呪しろ!?」
「だってムードが……」
「ムードで俺と半径数百kmを殺す気かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
チ〇コ爆発しそう。
比喩ではない。
マジで爆発する。