四天王最弱男、転生してダンジョン配信で無双す!~なお、他の四天王も転生して迫って来るものとす~
思いつき短編シリーズ!
最近聞いた四天王という曲で思いついた!
よんでみてください!
『フハハハハ! 勇者よ、お前は勘違いをしているぞ! 四天王を倒したといってもヤツは四天王最弱の戦士、我々の足元に及ばぬ!』
「うぐぅ!」
「どしたのぅ? リンおにいちゃん! 大丈夫なのぅ?」
胸を抑えながら倒れ込む俺をかわいい妹が心配そうに見つめる。
俺は胸の痛みに耐えながら、かわいい妹に微笑みかける。
「だ、大丈夫だよ。リナ……ごめんな、心配させて」
俺がやさしくリナの頭を撫でてやるとリナはくすぐったそうに笑いながら頭を摺り寄せてくる。うむ、かわいい! 癒し効果がすごい。ヒールより癒される。いや、マジで。
そんな我が家の天使は、俺が手で抑えている胸に小さなもみじのような手を添える。
なんだ……まさか……そんな……!
「いたいのぅいたいのぅとんでけー!」
ぐっ………はぁああああああああああああああああああああああああああああああ!
危うく生き成仏するところだった……! リナのいたいのいたいのとんでいけで俺が飛んでいきそうだった。リナを守るためにまだ死ぬわけにはいかない。
それにしても、リナのちょっとクセの強い言い方がまたたまらん! 癒し効果がすごい! もうこれエクストラヒールくらいすごいよ!
(それに比べて……)
俺は、オレが笑顔になったことに満足したリナ(かわいい)がとててと近寄るテレビ画面に視線を向ける。
今、放送されているのは子ども向け勇者アニメ。世界に発生したダンジョンを攻略していく勇者の物語だ。
今、画面上では勇者が四天王の3番手と戦う直前での回想に入っている。回想の中でチート勇者にぼっこぼこにされている四天王最弱と言われたゴブリン。アイツを見ると苦しい。
俺が『そう』だったから。
何を隠そう俺は、元ゴブリン、そして、元四天王最弱だった。
前世ではこことは違う世界。ガッツリファンタジー世界で俺はゴブリンとして生まれ、めっちゃ頑張った上に知恵と工夫と根性で四天王にまで入った。だが、所詮四天王最弱、チート勇者に瞬殺された。
そして、何故か俺はそういったチート勇者がラノベで量産されている世界に転生した。
この世界は最高だった!
飯はうまいし、家はあるし、敵は少ないし、なによりかわいい妹がいるし!
多少、アニメや漫画に四天王最弱というフレーズが出て来て心に傷を負う以外は最高だった。それに、俺の前世の記憶も活かせるし。
「よし、じゃあ、リナ。お兄ちゃんはちょっとダンジョンに潜って来るからな」
「……え? まただんじょんいくのぅ?」
そう、この世界にもダンジョンがある。いや、現れたと言った方が正しい。
どっかの国が発明した空間転移装置が偶然異世界と繋がってしまったらしく、世界各地の『出入口』が一部異世界への入り口に変化した。いわゆるワープゾーン。
ワープゾーン、まあ、ゲートと呼ばれているけど、そのゲートに入るとあら不思議。ダンジョンにたどり着く。ダンジョンにある魔石と呼ばれる石が現存の燃料資源の代替となるということで、ダンジョンに潜る冒険者と呼ばれるヤツらが現れた。
命がけのダンジョン探索だが、その見返りは十分だ。
俺もリナの為のお小遣いをめちゃくちゃ稼がせてもらっている。
そんなリナがちいさいおててとぎゅっと胸の前で握りうん、と頷いている。かわいい。
「リンおにいちゃん、リナもだんじょんいくのぅ!」
「リナ、何言ってんのぅ!?」
思わずリナの言い方がうつった。そんな俺を気にせずリナがプラスチックのスコップとかをバケツに入れ始める。かわいい。じゃなくて!
「リナ! 何度も言ってるだろう、ダンジョンは怖いモンスターがいっぱいいるんだ! 魔力を使えないとあぶないよ!」
そう、ダンジョンには当然モンスターがいる。前世の俺はモンスターを率いる魔族側だったが、今回は狩る側。アイツらと戦うには、魔力が必須。銃火器でも魔力を纏わせないとほとんど効かない。
俺は前世の魔力の知識があった上に、生まれた時点では魔力のない世界だとおもっていなかったから、赤ん坊のころからめっちゃ魔力トレーニングをしてしまっていたからな。魔力で身体を動かし始めた時には、両親がめちゃくちゃ驚いていた。
「リナ、おにいちゃんみたいにできないのぅ」
「でも、リナは幼稚園なのに、すごく魔力をじょうずに使えているよ。もっともっと上手に使えるようになったら連れてってあげるから、いい子でおうちで待っててね、おみやげも兄ちゃん買って帰るから」
「おみやげ! ……うぅ~わかった。待ってるのぅ」
正直、リナの魔力センスはすごい。俺が小さい子でも出来そうな魔力トレーニングを教えたらどんどん魔力操作がうまくなっている。流石おれのいもうと。さすいもである。
「じゃあ、行ってくる!」
「いってらっしゃい~、お兄ちゃん、浮気しちゃだめなのぅ~」
「なんでそんな言葉知ってんのぅ!?」
親父か。あのクソ親父が教えたのか!?
まったく、俺が浮気なんてするわけないじゃないか!
やっぱり俺のいもうとはさいこうだぜ!
俺が待ち合わせしたダンジョン前にはチームを組んでいる同級生たちが待っていた。今日のダンジョンは複数のダンジョンが群発的に発生しているダンジョン郡なので結構な人がいるが、ウチのメンバーは目立つのですぐに見つけられる。
「悪い! 遅くなった!」
「大丈夫大丈夫! 気にしないでいいよん!」
茶髪に赤いインナーカラーのボブカット、ちょっとぶかめのローブを羽織り、アニメのコラボだという縁の太い赤い眼鏡をかけた三倉智恵理がタブレットから視線を外し、こちらに親指を立てる。指が近い。
「そーそー! ちえりの奴もギリギリでやってきたし、気にしなくていーって!」
青髪ショートでスパッツショートパンツに上はジャージにキャップの二宮向日葵が日焼けし引き締まった腕でばんばん叩いてくる。背が痛い。
「ひまわり。貴方だって全速力で走ったから智恵理より早かっただけでしょう? それに、心配になって起こしてあげたのは誰だったかしら? ふふ、だから、四ツ谷君も気にしないでいいわよ」
黒髪ロングを戦闘用に纏め巫女のような装束を着た一之瀬一薔薇が口元を手で隠し微笑みながらフォローしてくれる。顔が近い。
「おい、あそこ美少女ばっかりじゃね?」「オレ、あの子達みたことあるぞ、冒険者雑誌で」
3人の元まで来ると視線だけでなく3人に向けられた声がよく分かる。
そう、彼女たちは冒険者としても有名人だ。今、世界ではダンジョン配信が大ブーム。
攻略している様子を魔導ドローンで撮影し、視聴数に応じて金が貰える。
俺はリナの為に始めたので自分ひとりでやるつもりだったが、三人も協力してくれて大バズりしている。
なんせ美少女な上にとんでもなく強い。
ちなみに、学校の実習でぼっち余りしてた俺を、3人だった彼女たちがチームに入れてくれてからの縁で何故かずっと冒険者活動を一緒にしている。
「ここは五月蠅いな。さあ、四ツ谷君、行こうか」
「あ、ああ……!」
一之瀬が結構な圧を周りに飛ばし、俺の手を引きダンジョンへと向かう。一ノ瀬はあまりちやほやされるのが好きじゃないらしい。いつもこんな様子だった。
「ち」「ち」
うん、二人もそうみたいだ。舌打ちが揃ってる。
「智恵理! リンに補助魔法を! 向日葵、援護だ!」
「……おっけー! リン! 攻撃強化いくよ!」
「リーン! アタシにまかせろー!!」
ダンジョン攻略はなんの問題もなくどんどん進んでいった。
攻撃から補助まで幅広い魔法を使える三倉に、弓と短剣で遠近どちらもいける二宮、そして、攻撃・回復・指揮とオールラウンドな一ノ瀬。
俺のような近距離しか出来ないタイプとは大違いだ。
「よーっし、撃退。みんなおつかれー! ちょっと休もうか」
だから、俺は少しでも役に立とうと休憩スポット作りにいち早く動き出す。
セーフティーポイント用の魔導具をセットし、魔導ドローンを止める。
ずっと配信中のチームもいるが、見られている感覚は結構精神を削り、集中力が欠けがちになる。こういう配慮だけでもせねば。
「ああ、ありがとう、四ツ谷君。じゃあ、休憩しようか。いつも通り、な」
「……」「……」
そして、みんな俺からドリンクとポーションラムネを受け取ると離れていく。
距離を取られるのは気にしないが、何故か3人が休憩でピリピリするからしんどい。
何故か休憩時間が一番休憩出来ない不思議。
「あ、そういえば……」
「「「!!!」」」
俺がちょっと動くとみんな動く。
これが怖い。そんなに警戒しなくても。
俺は出来るだけ動かないようにしてスマホのいもうとの成長記録を見て癒される。
「はぁ~かわいい~」
「「「ぐふ!」」」
俺がリナの写真でにやついたのが気持ち悪かったのか3人が奇声をあげて口元を抑えている。
いかんいかん、パーティーを組んでもらってる分際で不快な思いをさせてはいけない。
「あ、す、すまん! そろそろ、行こうか。じゃあ、魔導ドローンを起動させるな」
慌ててスマホをおさめ、みんなが頷いたのを確認。魔導ドローンを浮かべたその時だった。
「……! 一ノ瀬、俺の方に飛べ!」
「……!!!!!! わかっ、たぁあああああああ!」
俺の声を聞いた一ノ瀬が思い切り前に飛ぶ。ていうか、思い切りが良すぎて俺のところまで飛んできてる!
「何してんのぅ!?」
「んむ? いや、だって君の方に飛べと」
いや、確かに俺の方に飛べとは言ったけど! まさか、俺のところまで飛んでくるとは思わないじゃん! そもそも、俺が飛べと言ったのは……。
『ち。躱されたか……』
一ノ瀬が居た場所のすぐ後ろで不快そうな声をあげる。人影。肌の色は紫で明らかに人間じゃない。だが、言葉を発している……?
「魔族、だね……」
「ああ……! 魔物ばかりじゃないってことだな……!」
俺の両サイドで抱きついている三倉と二宮が睨みつけながら呟く。
「って、二人とも何してんのぅ!?」
「いや、だって、俺の方に飛べって言うから」
「いや、俺は一ノ瀬に……しかも、俺のところにとは言ってないんだけど!? 二宮さん!?」
「ねえ、ロゼ……一ノ瀬、あんた分かってて飛んだでしょ?」
「さあ、なんのことだか、私にはさっぱりだわ、三倉さん?」
そして、俺の右わき腹と正面腹に寄り添う一ノ瀬と三倉が睨み合っている。なにこの状況!?
「ていうか、アイツ……!」
三人の身体が色々あたって気になるところもあるが、それどころじゃない! 俺はマイエンジェルリナを思い浮かべながら煩悩を振り払い、目の前の魔族の男を見る。
紫肌に、緑の髪、赤い目、大きな黒い槍……そのすべてに、見覚えがあった。
俺はうろ覚えになり始めた『向こうの言葉で』話しかける。
『お前! ジルバリア、か!?』
『んむ? オレ……の名を知る人間が……は……? 誰だ!?』
俺が転生する前、同じ魔王軍に所属していたジルバリア。四天王の下に置かれた八鬼衆の一人で、槍の使い手。俺は基本他の四天王と訓練も仕事もこなしていたのであまり面識はないが、互いに役職もち。知らない仲ではない。
ジルバリアが眉をひそめながら尋ねてくる。ちょっと早口で難しい単語を使っているせいで聞き取れないところもあるが理解は出来そうだ。
『俺、ジン! 魔王軍、四天王、だった、ジン!』
『ジン!? ゴブリンのジンか!? そうか……やはり、転生したのか!?』
『ああ、転生した! こんにち、はあ……!?』
三人を引き剥がし俺が近づこうとした瞬間、ジルバリアが槍を振るう。慌てて躱し態勢を整える。
『ジルバリア、危ない!』
『うるさい! しね! お前のせい……魔王軍は……四天王は……終わったんだ!』
恨みのこもった目で俺を狙うジルバリア。
『お前のせいだ! 雑魚のくせに! お前が死んだから! 俺は、絶対に貴様を許さん!』
俺如きがやられたからと言って魔王軍も四天王も破れるとは思えない。ジルバリアに詳しい話をしてもらいたいが、聞く耳持たないと言った様子。
『く、くはは! ジン!』
かと思ってたら急に笑い出した。え? なに? こわ。
『俺の恨み……海よりも深……だから、お前の墓、掘り……死体……出し……晒して……あははははは!』
「え? なんだって?」
魔族語で難しい言葉を早口で言われるとよく分からん。
とりあえず、すっごい恨んでたから、墓を掘り起こして、死体を取り出して、なんかしたらしい。
なんでそんなことするぅ?
なんでさらしてんのぅ?
よく分からない。
俺が死んでから大分時がたちジルバリアの実力は上がった様子。だが、こちらも腐っても四天王だった男。
「とりあえず、ゆっくり話を聞くために……生け捕り、にっ……?!」
俺がジルバリアを行動不能にしようと拳を固め飛び掛かるより早く、三つの影が駆け抜けた。
「コロス……!」
『あひょ……?』
二宮がジルバリアの首を音もなくかっきった。綺麗な切り口だった。
って、
「なに殺してんのぅ!?」
いや、生け捕りにすべきでしょ!?
という俺の思い届かず。二つ目の影。
「つぶす」
『めぎょお……!』
そして、三倉が風魔法で首と身体の離れたジルバリアを思い切り地面に叩きつけ、ぺったんこにしちゃう。ほんとぺったんこだった。
「なに潰してんのぅ!?」
生け捕りぃいいい!
三つ目の影は止まらない。
「滅す」
『…………』
そしてそして、一ノ瀬がとんでもない威力の火炎魔法を剣に纏わせ振り下ろす。
もう何もかも残っていなかった。無、マジで、無。
「なに滅してんのぅ!?」
俺の四天王だった時の実力を見せる間もなく、ジルバリア消滅。
三人の纏う空気が怖すぎる。地雷ポイントなんだったんだ……?
俺は恐る恐るお伺いをたてる。
「あのー……みんな、何、してんのぅ……?」
「あ……いや、これは……そのついカッとなって」
カッとなって殺したなんて、向こうの世界の魔王軍ならともかく、現代社会ではあかんぞ。
だが、魔族の場合はどうなるのか。恐らく大丈夫。大丈夫?
そもそも向こうが命を狙ってきたから正当防衛なのか?
『『『『おのれぇえええええ! ジン! また、女だよりか! 貴様は!』』』』
四方から聞こえるジルバリアの声。そして、遅れて現れたのはジルバリアの大群だった。
そういえば、ジルバリアはスライム系の魔族。特技は増殖だった。
『ジルバリア、話、聞け。俺、何して……』
『うるさい! しね! しね! しね!』
聞く耳持たない。こっちの世界でもそうだが、キレ散らかして話を聞かない奴ほど厄介だ。
『ジン! 貴様を殺す! そして、貴様のこっちの家族も仲間もみんな殺してやる!』
「あ?」
『くはびゃっ……?』
喋ってたクソジルバリアをとりあえず殴り飛ばし壁のシミにする。
『き、きさびゃ……!』
次に喋り出したクソジルバリアを殴り飛ばし壁のシミにする。
「もう喋るな……俺の妹にテメエ如きが触れるな」
リナに悪意を持った話題など触れられたくない。物理なんてもっての外。万死に値する。
大体、最近賢くなってパソコンも触れるようになったリナがこの配信見て怖がったらマジで許さねえ。 バンバン万死に値する。
『うるせえええ! 四天王最弱が! しねぇええええええ!』
ジルバリアの群れが俺に襲い掛かる。
確かに俺は四天王最弱。
だが。
「飽くまで、『四天王』最弱だってこと忘れてねえか……?」
俺は魔力を全身に漲らせ、地面を蹴る。そして、
「ふっ」
全部を殴り飛ばす。万の拳によって。
『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』
『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』『めぎゃ』
ただ素早く殴るだけ。俺に出来る事は四天王の先鋒として相手の実力をはかること。
なので、徹底的に身体能力と魔力による強化をおこなった俺は、派手な技や多様な魔法を覚えることは出来なかった。
それでも、四天王より下の連中にはこれだけで十分だった。
その拳でジルバリアを全て吹き飛ばす。出来るだけ、エグい絵面にならないように一瞬で壁のシミになるように。じゃないと、リナにみせられないよ!
『めぎゃ』
最後の一匹を壁のシミにした時には壁はとっても青かった。
すっきりしたところで、気付く。あ、俺も生け捕りに出来てない。これじゃ他の三人と一緒だ!
そう思った時だった。
『そもそも、ジンが四天王最弱なんは、ジンが女を殴れないからやし』
『まあ、近接距離でなら最強っちゃね』
『ほーんと、女に甘すぎるじゃろ~ジン君は』
どこかで聞いた事のある話し方。いや、後ろにいる三人は、知り合いだ。
だから、知っている、だけど知らない。だって、魔族語使ってるし。それぞれの訛りが聞き覚えあるし、え? この、あの、あれの、それの、なんで、こっちにあの三人が!? 間違いなく、あの三人だ……他の……!
『お前ら……! もしかして、元四天王、の……?!』
『あは。やーっと気付いたの。ジン君?』
三倉が拳を握ったまま眼鏡を直し笑っている。あの独特の眼鏡の直し方には覚えがある。
向こうの世界。俺の前世。俺と同じ四天王。水のオウカ。オーガでありながら魔力に長けた魔法の天才。四天王の序列では三番手だったが、純粋な魔法の勝負では間違いなく最強。
『ジン殿は相変わらず、こういうことには鈍いっちゃねえ、はっはっは!』
二宮が茫然とする俺の手を取り、無理矢理拳を合わせてくる。この強引さ。風のサン。ダークエルフ族最強最速の女。四天王には二番手。遮蔽物の多い場所での一対一なら彼女に敵う者はいない。
『だが、それでこそジン。ふふ……』
一ノ瀬が妖しく、笑っている。あの笑い方を、俺は知っている。ヴァンパイアの長。火のロゼリア。四天王最強の女。剣と魔法両方に優れ、また圧倒的なカリスマ性で魔王軍を纏めていた。
そんな四天王三人が……。
『なんで転生してんのぅ!?』
意味が分からない。勇者リィナは確かに強かった。だが、三人なら勝てない相手ではないし、そもそもロゼリアなら……!
『なに、ジン。いや、今はリンと呼ぼう。リン』
魔族共通語で喋り出す一ノ瀬ロゼリア。絶対思い出させるために訛ったな。コイツ……!
『ロゼリア、なんで三人、しんだ? 勇者、負けた?』
『いやいやまさか。勇者リィナは三人で徹底的に痛めつけ捕らえ、一〇年かけて死ぬように呪いをかけたよ』
こわ!
流石、他の四天王容赦ねえ。俺を殺したとはいえ、ちょっと勇者リィナが可哀そうになってきた。一〇年かけて呪いでじわじわ殺されるとか。
『そもそもあのクソ勇者が女でなければ、君も負けなかったはずなんだ。それはともかく。君が死んだので、私達も死んだ。そういうことだ』
『え? なんだって?』
今なんて言った? 俺の知らない魔族語?
『私達も死んだんだ。君が死んだから』
知ってた。知ってる言葉だった。
『四天王、なにしてんのぅ?!』
なんで俺が死んで、お前らが死ぬの!? 四天王って一蓮托生システム!?
『まあ、もういいだろう。私達はな、君の努力する姿や私達を女性扱いし大切にしてくれるやさしい心、そして、君は謙遜するが間違いなく四天王最強の男である君の強さに触れて、平たく言えば恋をしたのだ』
え?
『四天王、俺に恋してんのぅ!?』
なんでいつから俺に恋してんのぅ!? 全然気づかなかったんだが!?
『なのに、君は死んだ。だから、私達も死んで後を追った』
『四天王、後追い自殺してんのぅ!?』
『君が転生したと地獄で知り、それもまた後を追ったというわけだ。あっはっは!』
『四天王、後追い転生してんのぅ!?』
え? 何? どういうこと?
俺が好きで、あとを追って、転生した?
んんんんんんんん?
もう頭がパニックだ。
ただでさえ、昔の知り合いにダンジョンで出会って、パニックなのに、チームの仲間も転生した元四天王だった!? わけがわからないよ! どういうことだよ!
パニック状態の俺に飛び掛かる三人。
いい匂いとやらかい感触でもうフラフラだ。
「相変わらず女に弱いな、君は」
「これまでは平等に内緒にして、不可侵条約を結んでたけど、もう無しね」
「うむ! 正々堂々勝負だ!」
「ということで、ただの視聴者の皆さん」
元四天王最強のロゼリア、現一ノ瀬が魔導ドローンに向かって笑う。
そう言えば、魔導ドローンとばしっぱなしだ。
「さっきの戦闘を見て手を出そうとする者がいるかもしれないが、この男は私達のものだ。手を出さないでももらおう。そして、正式にチーム名を発表する! 私達は四天王! 絶対に揺るがぬ天に浮かぶ四人の王!」
「なにチーム名勝手に決定して、勝手に発表してんのぅ!?」
「ふふ、リン、覚悟しておけよ。これから私達の猛攻が始まるぞ」
やはり、俺は四天王最弱の男らしい。とりかこむ三人の美少女に手も足も出せそうにない。
「助けて、リナーーーーーーー!!!!!」
そして、
「おにいちゃんは、リナのものなのぅ……」
パソコンの画面を見つめる一人のようじょから魔力が溢れていたことを俺は後に知る。
お読みくださりありがとうございました。
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『健康診断を受けた追放おじさん冒険者はGランク(健康評価)【連載版】』
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