第五話 お茶会
「あのバカ王子…こんな大掛かりな茶会を開いてどうする気だ…?聖女様、僕から離れないでください。」
「は、はい…。」
何故、二人でお茶かいなんて来ているのか、それは数日前に戻る。
「すまなかった。」
「い、いきなり何を…!」
学園へ着いた瞬間、王子が一人で立ちふさがっている。
姫が警戒して聖女の前に出る。だが、思っていたのと違い真摯に謝ってきたのだ。
「反省したんです。勝手にこちらに連れてきたのは私なのにあんな態度をとってしまって…。その、良ければ仲直りの印としてお茶会を行おうと思うんです。聖女、貴方もぜひ。」
あ、怪しすぎる…。
王子は自分から謝るなんて絶対にしない男だ。
そんな奴が謝るということは何かある、警戒して断ろうと前に出るが聖女がそれを止めた。
「ぜひ。」
「聖女様!?」
「大丈夫です。きっとこの人も悪い人じゃないだろうから。仲直りしたいというなら世界の為、俺もこの人の力を借りたいです。」
「あぁ、ありがとうございます。ぜひ来てください、待っていますから。」
ぺこりと頭を下げ去っていく王子。その殊勝な心持は姫に疑心を植え付けるに十分な姿だった。
そうして今に至る。
急ピッチでの礼儀作法だったが、思った以上に様になっていて他の者と話す姿はいつものびくびくしている姿と違い堂々として恰好のいいものだった。
「?姫様、どうかしました。」
「い、いえ何でもないです。それより王子は遅いですね、客人を待たせるなんて…。」
「ハハハ、何いつも参加している身としては日常茶飯事ですよ、時間通りの方が珍しい。」
見とれて話しかけられたことにも気が付かなかった僕を不思議そうに見る貴族。
この人は昔から王子と懇意にしていてこの定期的に開催されるお茶会でも常連客だ。
昔は、突然茶会を開くと言い出した王子に巻き込まれ、右往左往していたところを助けてもらったものだ。
「しかしあれほど聖女を偽物と言われていた王子がこのような催しを行うなど驚きましたぞ。」
「僕も同感です。あんなに敵意むき出しだったのにこんなすぐに手のひら返しするなんて…警戒は緩めないつもりです。」
「頼みましたぞ。聖女様はこの世界に必要な方です、王子が何と言おうと…。」
「分かっています。」
「やぁ来てくれたんだね、聖女様。」
ちゅっ
遅いお着きの王子は申し訳なさそうな顔もなく、堂々と現れ挨拶と手の甲にキスをした。普通ならば端正な顔立ちのだが、慣れていない聖女様の顔がひくついているのが分かり、助けるため前に出る。
「ハハッ、これでは姫というより騎士だな!」
「それほど聖女様というのがこの国にとって重要な者なのですよ!」
「えぇ!素晴らしい方…もしよろしければ私の茶会にも出てくださいませんか?」
「え、えっと…。」
主催である王子が前に出たからか取り巻きたちも聖女にゴマをする。
僕にはどうしてもそれは我慢できるものではなかった。
「今更なんです?聖女様にすり寄りよって…まずは公式の場での謝罪が先では?」
「ひ、姫様…俺は大丈夫ですから…謝っては貰いましたし。」
「いえ、こういうのはしっかりとした方が良いのです。王子は不名誉な噂を流されたのです、きちんとした場で謝罪を求めます。」
「……そうですね、ユカリの言う通りです。聖女様、申し訳ございません。今までの仕打ち、反省の限りです。どうか、許していただけませんでしょうか?」
驚いた。
最初の謝罪から驚いてはいたが、こういう場で謝るなんて本当に改心したのか?
今回の茶会はこの国の重鎮なども呼んでいて、いわば王子の人脈の集まりと言える。そんな場で謝罪するということは悪かったというのを全面的に認めるということだ。
その真摯ともいえる行動に聖女様も動揺しつつも謝罪を受け入れる。
周りのパチパチと目に見える光景を褒めたたえ感動的なシーンだが、僕から見るとまるでお遊戯会のように感じた。
あまりの唐突ともいえる変化のせいだろうか。まぁ仲直りする分には良いと自分も思うのだが…どうしても引っかかる。
「それでは蟠りも解けたこと、共に乾杯とまいりましょう!」
やけに大げさに、演技臭く乾杯の音頭をする王子、それから手渡された飲み物を聖女が受け取った。
その様子に不安を持った僕はー。
ここから一気に話が進む予定です。