第五話 王子
「クソッあいつのせいだ…あいつの…。」
ぶつぶつと呟く王子を遠目から見る使用人たちの姿は怯えていた。
こうなった王子に関わった者はことごとく辞めさせられているからだ。関わらない者も理不尽な理由で叱責され続け辞めた者は少なくない。
なので皆、遠巻きに見ることもなく、そくささと王子の前から去っていった。
王子がこんな風になっているのも理由がある。
一つ目はあの聖女のことだ。ボサボサの髪に自信が無さそうな不細工な顔、あれを思い出してイライラも増していく。
それを思い出したのも王からのある一言だった。
『王子よ、来てくださった聖女様につかかっているというのは本当か?』
『そんな…あの者は偽物です!あの召喚は失敗してしまったのです!それならば偽物には偽物としての接し方があるということ。』
『そんなことあるわけないだろう。いい加減その考えを直せ、そうしないとお前を王位継承者から外すことも考えなければならん…。』
育てを間違えたか…。王は疲れ切った顔で呟きながらその場を後にする。
王子の表情を見ることはなく。
「(第一、最初から何もかも気に入らなかったんだ。女が好きなのに男をあてがわれ、やっと手に入れた運命の者はあんなダサい男…絶対に認めないぞ!)」
王子はこの世界で魔力のあう運命の人はいなかった。
なので、同年代で賢く魔力が多かった姫が婚約者にあてがわれた。そこから女の子は王子に近寄ることはなくなった。婚約者のいるので気を使ったのだろう。それは今まで王子にちやほやしてくれて柔らかくて可愛かった存在。それがいなくなったことは王子にとってはとても耐えられず人に当たることが多くなった。
それを諫めようと邪魔をする姫にもイラつき、やっとのことで協力を得て召喚したのがあれだ。王子にとっては最後の望みも絶たれたのだ。何故なら魔力の合う存在というのは一人しかいないのだから。
歩きながら昔の事を思い出しイラつく。近くの花瓶にすら怒りを感じ、その衝動のまま倒そうとした瞬間にそれを止める者がいた。
「私のすることに意見するのか貴様!」
「随分怒っているじゃないか。周りも困っているから当たり散らすのはやめなさい。話なら僕が聞くから。」
「お、お前なんでここに……あの時お前は…。」
「まぁまぁ、大事になのは僕がここにいるってコトさ。都合のいい幻覚とでも思ってもらって結構。その方が話しやすいだろうしね。」
ぽんと王子の肩に手を置く。それはそいつが生きているという証明でもあった。
現実か幻覚か。訳が分からなくなった王子はそのまま吐き出し始める。誰に相談できることもなく限界だったのだろう。
ペラペラと喋る王子に否定することなく頷くその姿は王子にとって聖女のように感じた。
「それはひどいねぇ、悲しいねぇ。君は悪くないよ。君にとっては最後の望みだったというのに、世界の事を思っての行動が否定されるのはつらいよねぇ。」
「だろう!?誰も、誰も分かってくれないんだ。父上すら私を否定した…。」
「僕はそんなことをしないよぉ。……そうだ!良いことがあるんだ。これならきっと王も国民も君を立派な王位継承者認めてくれるだろう。」
「そんなものが?教えてくれ!私は何をすればいい!?」
「それはね……。」
真剣に話を聞く王子は希望を見出したと言わんばかりに顔を輝かせ、明るい未来に思いをはせる。
その者の顔を見ることもなく。周りを見ないところは親子といえるだろう。
王子の話です。いきなり現れたアイツは誰なんだ…!?楽しみに待っていてくれたら幸いです。