第四話 守る
「ここが学園…凄い広いね、大学みたい。」
「大学…ていうのは分からないけどここはこの国の優秀な者が集まるところです。必然的に大きくなるんですよ。」
「そ、そんな凄い場所にこれから通うんですね…緊張する。」
「なぁあいつ偽物聖女だろ?」
「なんでこの学園に…城に引きこもってろよ。」
学園のデカさに唖然する聖女、微笑ましいなぁ。
でも遠巻きにぼそぼそと陰口をたたく影がちらほら、きっと王子が広めたのだろう。
あんなブスがなど聞くに堪えない言葉が投げられ聖女は思わず俯く。
「おい、言いたいことがあるならはっきりと言え。」
まぁそんなものに負ける僕ではないけど。
思ってもない反撃にあわあわと逃げていく奴らに思わず舌打ちが出た。
「チッ、面と向かって行ってくる覚悟もないのに陰口なんて叩くんじゃねーよ。」
「ひ、姫様…?」
「すみません、汚い言葉を聞かせてしまって…でも僕が守るので安心してください!」
「(あ、圧を感じる…これ以上はやめておこう。)ありがとうございます。」
?何か怯えたようにしていたが行きましょうと聖女様が手を引っ張るので大人しくついて行くことにした。
「ついて早々、面倒なことに巻き込まれたようだったね。大丈夫だったかい?」
「は、はい!姫様が守ってくれたので…。」
「聖女様を守るのは当たり前です。王子や周りの対応がおかしいんですよ。」
「その通り、申し訳ない限りだ。」
理事長である父には全てお見通しだったらしい。
まずはと理事長室へと向かった先にいたのは頭を下げている父親の姿だった。
その後、会話をしつつ学園の説明などをした後は、転校生特有の自己紹介の番だ。
残念ながら。王子のせいで返されたのは冷たい目線だけだったが、僕がぎろりと睨むと乾いた拍手だけが響く。
不安そうな聖女様だったが、僕が手を振ると場所に気が付いたらしくほっとした顔でここに来てから初めての笑顔を見せてくれた。
「この学園にふさわしくない招かれざる生徒がいますねぇ。」
「王子…お言葉は控えてください。この方は聖女様ですよ。」
「偽物の、ですがね。そんな者に敬意を払うと?むしろ私の唯一の失敗であるそいつは早くどこかに消えてほしいものですよ。」
「「そうだそうだ!偽物は消えろ!!」」
偽物と断じた聖女を傷つける為、王子の取り巻きたちが魔法を行使しようとする。
小さい、弱い魔法でも異世界からやってきた聖女様にはどのような影響があるかわからない。
くそっと心の中で悪態をつきながら聖女の前へ出る。
魔法で盾を作ろうとした瞬間、守ろうとした僕を逆に守るように立ちふさがった。
「せ、聖女様!?」
慌てて守ろうとするが、動揺したせいで盾を出しそびれる。無防備な僕たちは取り巻きたちの攻撃魔法で意識を失った。
「めさま、ひめさま!」
「んん……ここは…って聖女様!?」
「は、はい!こちらにいます!」
知らない天井にぼけっとしていたが、ともに攻撃を受けた聖女様の事を思い出し飛び上がる。
だが、意外と近くにいたらしい。覗き込んでいたらしく互いに額をぶつけ暫くもだえた。
「いててて、申し訳ございません。お、お怪我は…?」
「だ、大丈夫です…。」
「よかった…、それと魔法にぶつかったときの怪我は!?」
「それは…「私から説明しよう。」学園長。」
僕の質問に答えたのは保健室に入ってきた学園長、父だった。
「あの子たちが魔法を行使した後に聖女様が力を発揮したのだ。その力を使った後に気絶してしまったのを私が保護したのだ。聖女様の力で傷は癒え、壊れた場所は修復された。この癒しの力があればこの世界も救われるだろう…。」
「聖女様が…ありがとうございます。でも父上。今の力では危ういですよ。力を使ったら気絶するなんて体が力にあっていない証拠です。」
「その通り、だからこれから学んでいけばいい。訓練して知識を身に付ければきっと力を自分のものとできるだろう。」
「それは本当ですか!?」
黙っていた聖女様が父の一言で声を上げる。
僕たちを見る聖女様の目は決意を宿して宝石のようにキラキラと輝いていた。
「姫様を…よくしてくれた皆を守れるなら俺、頑張ります!」
「どうしてそんなに…。」
訳が分からない。だってよくしてくれたといっても勝手に連れてきた連中の仲間だ。
そんな人たちのために頑張るだなんて…この清く優しい精神こそが聖女たるゆえんなのだろうか。
「俺はこの数日間だけでも何度も姫様に助けられました。こんな良いところでいれるのも姫様のおかげです。そうじゃなきゃ偽物ってことで追い出されていたかも…。」
連れてこられたばかりの事を思い出したのだろう。ぶるりと体を震わせて眉を下げる。
「姫様がいたからここにいられます。今まで守ってもらったから今度は俺が守るんです!!」
むんと握り拳でやる気をアピールする聖女。
可愛らしい様子とは裏腹に瞳は本気だった。尊い存在である聖女様が僕がいるからと守って。世界を救ってくれるという。その優越感が首をもたげるのを必死に僕は押し殺しありがとうと笑顔を向けた。
理想の姫様を演じるように。
やっと聖女の能力の片鱗が出てきましたね。