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01 吾輩は金髪オッドアイの転生幼女である



「――やっぱり夢じゃないかぁ」


 そう呟いた自分の声音にげんなりする。

 自分の物とは思えないほど高く澄んだ声だった。

 目覚めと共に視界に映り込んだのは、相応に老朽化が進みつつある木造の天井。

 未だ見慣れない光景を認め、私は深い溜め息を付きながら起き上がる。


「ん」


 ちょっと背中が痛い。

 布団がペラペラなせいだ。

 軽くストレッチでもしとこうかな。

 極厚のマットレスが恋しいなぁ。ダブルだと尚良し。


 次は顔を洗うため、水瓶に汲んであった水を少しばかり桶に拝借する。

 顔と桶の位置を合わせるように覗き込むと、自身の容姿が水面に映り込んだ。


 ペチペチと頬を叩くと、水面に映った人物も同じ動作をする。

 ひくっと頬が引き攣れば、こちらも同じ反応だ。

 手を振ったりしてもやはり同様の反応が。

 またまた溜め息が零れ落ちる。


 そこにいたのは、金髪オッドアイの幼女だった。右が青。左が翠。

 どうでも良いけど、『緑』を『翠』と表記したくなる私は中二病だろうか。

 ともかく。

 それこそが、今の――今生の私の姿だった。


「まさか異世界に転生するとはねー……」


 それが私の身に起きた出来事。

 とある偉人が『事実は小説よりも奇なり』という言葉を後世に遺したが、それは事実だったみたいだ。


 つまり私は、前世の記憶を引き継いだ転生者なのである。

 日本人、前世の記憶引き継いだまま転生しがちな件。


 転生の経緯は――正直ほとんど覚えてない。

 何なら自分自身のことすら大分曖昧なんだよね。

 エピソード記憶っていうのかな?

 それの虫食い状態が酷いんだ。

 何せ、親類縁者はもちろん、自分の名前や性別すら思い出せないくらいだ。


 もしかすると私の前世は男の可能性とかもあるわけだ。

 その場合を仮定して、可愛い女の子たちとのイチャイチャシーンを想像する。


『〇〇くん、好き! 抱いて!』

『あ、抜け駆けは禁止よ!』

『そうよ、〇〇くんは私のものなんだから!』

『身の程知らず。〇〇は私と一心同体』

『ふふ、みんな〇〇くんのことが大好きなんだよ。もちろん、私もね?』

『そう喧嘩しないでくれ。俺はみんなことを心から愛してるんだ(ニコッ)』

『『『『『ポッ』』』』』


 引くわー……。

 じゃあ女だったのかな?

 ほわんほわんほわん。


『〇〇、俺様のものになれよ。これは命令だ』

『戯言は止めてもらおう。全く、君は僕がいないと本当にダメだな(眼鏡くいっ)』

『〇〇! こんな偉そうな奴ら放っておいてボクと遊ぼうよ!』

『おいおい。〇〇は今日、俺が付き添うことになってんだ。子どもは帰りな』

『カツオのたたき、髪に付いてたよ! ………………カツオ?』

『もう、私は平穏に暮らしたいのにぃ~~!』

『『『『あ、待てーーっ』』』』

『カツオ……? カツオ……? …………カツオ?』


 ぴえええええええええ~~っ!!

 ムリムリムリムリ絶対ムリ!

 何か拒否反応がさっきの非じゃない!

 と言うかカツオのたたきって何!? そこは芋けんぴでしょ!

 いや、芋けんぴもおかしい!

 確かにどっちも高知県の名物だけども!

 そんなの髪に付けてたら真顔にもなるよ!


 あまりの衝撃に息を荒げながら布団に転がる。

 あう、背中いちゃい。

 ここまで拒否反応を示すって事は、私の前世は男だったのかな?


 じゃあTS転生というやつ?


 えーーーー……。

 確かにTS物は好きなジャンルだったから、色んな作品を読んだ記憶あるよ?

 でも我が身に降り掛かるのはね……。

 そういうのは想像の範疇で良いよ!

 もしも私が本当に男だった場合、精神的BLなんて展開は、絶対に嫌だからね! 読み物としても避けてたし!


『私のモノになれよ』

『トゥンク(あれ……何だコレ? あ、あり得ないだろ。私は身体は女だけど、心は男なんだぞ。それなのに、な、な、なんで……何でこんなに顔が熱いんだ……!?)』


 むり……キツい……しんどい……。変な想像しなきゃ良かった。

 あ。一応言っとくけど、別にそういう趣味趣向を否定するつもりは全然ない。

 私も割と――というか普通に人に言えない闇深な性癖があったっぽいし。……快楽堕ちとか。ア〇顔とか。

 いや、これ私の方がエグくない?


 もう前世の性別を考えるのは止めよう。

 ガチ百合に関しても割と拒否反応出るし。

 百合の間に入る男も別にって感じだし。


 性別を断定するには、色々と価値観が複雑すぎる。

 まあ実際人間ってそんなもんだよね。

 多分、テンプレの枠にピッタリハマる人の方が珍しいと思う。


 だから前世に関しては、性別不詳で行くことにしよう。


 ラブよりライク。

 これが私の基本指針だ。


 と言うかさ、こんな禄でもない情報は覚えてるのに、何で肝心なところはすっぽり抜け落ちてるのさ。

 他にもちらほら残った部分もあるけど、大体がゴミみたいなエピソードだしさあ。


 例えば、友だちがいなかったわけじゃないけど、基本的には疎遠。

 友だちがいないのは嫌だけど、どっちかというと友だちと遊ぶより一人で家に居たい派。


 他人のために時間を使うのが嫌。

 そんなだからコミュ障の研磨は、名匠の如し。


 基本的な返事は『はい』or『いいえ』。

 話を振ったり、話を膨らませる技術に関しては他の追随を許さない――ダメな方で。


 自分以外が成功者になる姿を見ると、もにょる。

 頑張りたいけど頑張るのってしんどいよね。


 あ~、ようつべで色んなVtuberをぴょんぴょんするんじゃ~~。

 

 ――テラヤバスでワロタ。

 良いところが見つからねえぜ。


 …………ん?


 それって虫食い状態だからだよね?

 そもそも良いところが一つも無かった、なんてパターンじゃないよね? 違うよね!? ねえ!?


 ふう、一端冷静になった。

 色々歯抜け状態ながらも転生した私だけど、神様に会ったとか、そんなイベントは特になかった。


 神様特典なしのパターン。

 ちょっとガッカリ。

 いや、私も神様特典ありのパターンは好きじゃないよ?

 だってさ、あんなの不当な手段で得た力じゃん。

 努力の欠片も存在しない、ただ与えられただけの力。


 だからチートなんだろうけどね。

 アレでドヤ顔してる主人公くんの痛々しさったら。


 ちなみに努力系チートも同類だから悪しからず。

 報われることが分かり切った努力を努力とは言いません。

 そういうのは作業というのです。


 けど、それはあくまで視聴者目線の話で。

 いざ自分が転生する立場となったら、普通にチート欲しいよね。

 欲しくない? 私は欲しい。全然欲しい。


 だって異世界だよ?

 しかも何の捻りもない剣と魔法のファンタジー。

 何があるか分からないじゃん。


 第二の人生を歩めるのは素直に嬉しい。

 剣と魔法の世界も、前世はサブカルチャーにどっぷり浸かったオタク(notニート)だったから普通にテンション上がった。

 でもチートがあるかないかで快適度は、天と地ほどに差があるじゃん。


 私、前世はもちろん、今生も才能ある人間じゃないみたいだし。

 知識チート?

 残念、定番となるマヨネーズもプリンの作り方すら分かりません。


 だから安心安全かつ華々しく生きるためにも、やっぱりチートは欲しかったなぁ。

 やや憂鬱になりながら、私は桶の水を掬い、顔を洗うのだった。





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