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流浪の獄/2番街の秘宝  作者: ゼルダのりょーご
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ギルの変化


「私も店があるので長居はできない」


 ──これで失礼するよ。

 用件を済ませると退店の言葉を添えて、娘を先頭に店の玄関先に向かった。

 オニョの姿が店内から消えるのをバスケは静かに見届けた。

 次いで、ギルも出る所だった。


 その大きな背中を目で追っていたバスケは声を上げた。

 バスケは商品の手入れをやめていた。


「……ギルおじさん」

 振り向きざまにギルが答えた。

「うん? なんだね」

 ギルの反応に安心したように。

「その、物売りのコツを知っていたら……教えてもらえませんか」

 自分の父親に聞けば早いのに。


 宿屋のギルにその答えをなぜ求めるのか。


 振り向いたギルの声は柔らかだった。

 バスケが相談を始めると「ちょいと待ってくれ」と言い、娘に耳打ちをした。

 その内容までは、バスケの耳に届きはしなかったが。

 その後、オニョを外で待たせて、ギル一人で店内に戻ってきた。


 二人を見送るつもりで玄関付近に立っていたバスケ。

 ギルを店に引きいれる為に、一歩下がった。

 問いかけの続きをバスケが望むと、ギルはそっと口を開いた。

 


「──バスケ。気持ちは分かるがそう焦る必要はない。君がいますべきことは店番だけではない。勉強もして、友達も作って、運動もして、お腹いっぱい食べて、ぐっすり眠ることも大事な仕事だよ」


 ギルは優しい言葉ながらも、ひとつひとつ、心を込めて丁寧に語りかけた。

 家の手伝い以外の事は、大人がすべき領域だから子供がそこまで踏み込まなくていいと、諭すようにしっかりとバスケの目を見つめた。


 バスケは溜め息をつくように呟いた。

「う、うん。……やっぱり、そうですよね」


 物を売るコツを知りたいと伝えるが、商売の話にも至らず、質問を教養で押し戻されてしまった。


 ギルの親切な物言いに、やっぱりと言ったので恐らく親からもすでに同じ言葉を受けたのだろう。

 バスケはそれ以上食い下がることも出来ずに頷いた。

 たっぷりと買い物をしてもらったうえでの、厚かましい問いだとの自覚があったかのように。


 ──本当は心のどこかで分かっていた……。

 自分が陰でそこまで犠牲になれば、両親が胸を痛めるであろうことを──。


 バスケは、どこか悲し気な瞳を貯えて沈黙してしまった。

 素直に聞き分ける彼の表情には、なんだか無力感さえ浮かんで見えた。


 ギルはバスケの両肩に軽く手をかけて言った。

「ここだけの話だが、オニョがうちの手伝いをしたがるんだよっ」

「……!」


 一言つけ加えるようにギルがバスケに、意味深な言葉を耳打ちをした。

 バスケは驚いて、目を見開いた。

 ギルの急接近にビクンと心臓が飛び跳ねるのを感じ取った。


 自分が情けない顔を見せてしまったから、話題を変えたのか。

 バスケの目が泳いだ。

 わざわざ店に戻ってきてまで聞かせる話にときめきさえ感じた様子だ。

 確かにがっかりした表情はあった。


 しかし店番を任されたなら、売り上げを少しでも伸ばしたいものだ──。

 その思いからの質問だったのだろうし。

 そう思うことさえ迷惑や心配に繋がるのだろうか、と表情を曇らせたのかも知れない。


 ギルはさらに言葉を続けた。

「──どうも君のために何も出来ないもどかしさから、申し出て来るようなのだ」


 先程と同様に話すのではない。

 耳打ちだ。

 ぐいと踏み込んでうんと顔を近づけ、両肩にかけていた手に力がこもった。

 まるで抱き寄せんとするかのように。


 商売人の顔だろうか、ただの親の顔だろうか。

 ギルの口元は自分の耳元にあって窺い知ることはできないし、彼はふしぎと声を潜めている。


 ギルの変化に戸惑い、疑問符を返した。

「お、おじさん……!?」


 こんなことが、今までに一度でもあっただろうか?

 バスケの見開いた目がそのように語るようでもあった。


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