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流浪の獄/2番街の秘宝  作者: ゼルダのりょーご
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理由ありのバスケ

 ◇五話:理由ワケありのバスケ




 道具屋の正面に店を構えた宿屋の主人と娘を、緊張の面持ちで接客するバスケ。


 ギルの話からメルの店の方が先に店舗を構えていたようだ。

 商売に欠かせないのが立地条件、それは客足の多い場所を選ぶこと。

 それは、つまりメルの店も前々から繁盛していたという証言でもある。


 バスケとオニョは幼馴染みということになる。

 バスケが店の手伝いをするまでは、けっこう仲良く遊んでいたようだが。


 こうして長年の交流があるので、ライバル店で敵同士という風でもない。

 その宿屋には自分と同年の娘が居る。

 今も、すぐ目の前に居る。


 バスケはオニョには積極的に声を掛けないでいる。

 おやじが目の前に居るから遠慮しているのか。それとも、元よりシャイな性格なのか。先程のやり取りがあり、気まずくなったことは考えられるが。


 メル道具屋の店内に暫くの沈黙の時間が流れた。


 もっともただの幼馴染みに過ぎないのかもしれない。

 ただ単に、接客業では上手うわてになるギルの方が話しやすいだけなのかも知れない。


「──今じゃ他店に客足を取られがちです」

「バスケ……弱気になってはいかんよ」


 バスケが不意に口を開いた。

 店の経営が傾いているという意味だろうか。浮かれない表情を見せる。

 挨拶に見せた勢いはなく、ポツリとギルにそう促した。


「……おまけに父さんが流行り病に倒れ、ここ三年、ロクに仕入れが出来ていなかったから尚更ですが」


 オニョも全く遊べていない期間が三年も続いたと半ば、キレていたな。

 それは彼女にもアピールしたい内容のようにも聞こえた。


 目の前の二人は、自分の置かれている状況をよく知る馴染みの者達だ。

 愚痴を繰り返すように言ってみせるのは、働くことに抵抗を感じ、苦しんでいるためだろうか。

 その胸の内を誰かに聞いてもらいたい。

 そんな思いが積もり積もったのか。


「誰だって病には苦しめられるさ」

「そ、その通りよ。負けないでよ、私たちがついてるじゃない?」


 道具屋の主メルが病床についていた。

 そのための手伝いだったか。長期の店番だが、手当など望めそうにないな。

 宿屋の二人は良き相談相手のように、同情する。


「ありがとう、オニョ……」


 負けないでと屈託のない笑顔で応援をする宿娘のオニョ。

 娘の声援に対し、名を呼びながら礼を言うも、目を逸らしてどこか消極的だった。

 年端も行かないバスケがうわずった声で店番をしていたのは、父親が病床に倒れ、店の経営が思わしくない為だった。


 

「お店とメルさんの看病で心労を重ねる母さんを、楽にしてあげる為にも頑張らなきゃな」


 母親も健在だが、メルの看病に加えて母親が店の切り盛りをしてきたようだ。

 重なる心労を案じて、バスケが手伝っている。

 しかし仕入れがままならず、客足が減っているという。

 せっかくの品揃えが、裏目に出なければいいが。


「元気になったメルさんを君が支えてあげるんだよ、バスケ」

「はい……」


 どこか気のない返事である。


「越してきて十年以上になる。私たちも随分と稼がせてもらった。困ったときは精一杯応援するからね! はっはっはー」


 宿屋の主人、ギルの逞しい笑い声が店内に響く。

『それじゃ、いつものやつを』と、商品の陳列棚に顔を向け、眼差しで合図を出すギル。



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