ふくれっ面のオニョ
店の倉庫に売れ残りの山。
以前に過度の経営不振でもあったのか。
取り扱っているのは、回復に解毒だけじゃない。
飲み薬の小瓶と蓋の色がカラフルで、青や水色。
赤や緑、紫、黄色。
白、黒、灰色。
更には銀色、瑠璃色、虹色、黄金色。それらの濃淡版も見受けられる。
小瓶に貼られたラベルには【ノクターン御用達2番街/メル道具店謹製】と題がある。薬の名称が下方に記載。少しの余白がうかがえるのだが、そこに効能書きは一切ない。
代わりに<防犯登録済>とある。
あとは店の者に尋ねなければ、詳細は判明しそうにない代物まで。
豊富な品ぞろえに圧巻される。道具屋というより、ドラッグストアだ。
「それでも店内が活気に溢れている職場は楽しそうです。うちは寂しいものです」
「まぁ。道具屋ってのは、そもそも賑わいを見せる華やかな職種でもないからな。はっはっはー」
「お向かいで泊まる必要もないけど、また家族でお風呂にでも来てよね。バスケ」
「ありがとう、オニョ。──ちぇっ、休日が待ち遠しいな」
華やかさなど必要はない職種。それが道具屋だ。
バスケの憧れは、活気づいた賑やかな場所。
なぜ道具屋のせがれなどに生まれたのか。家は寂しいと語るバスケの表情は苦笑いのようでもあった。
それに比べて温泉も備えた宿屋の娘オニョの笑顔はキラキラ。素肌はスベスベ。
大勢の従業員から令嬢ともてはやされ、高級ブランドに身を包んでいる彼女。
ギルが軽快な笑い声を上げたものだから、やっと口を挟めたといった感じだ。
オニョの気軽な誘いにバスケは、今は店員として、まずは笑顔で一礼をした。
それから友達として、一言加えたのだが。
「……そんなこと言って、うちに泊まりに来てくれたのは随分前のコトよね。事情は分かるけどさ、もう三年以上も遊びに来てくれてないよね? その休日って一体いつのコトなのよ!」
オニョは少しふくれっ面でバスケにそう言い放った。
何かが限界を迎えているかのような彼女は、少し意地悪な顔つきだった
その問いは、見る見る拗ねた口調へと変わった。
三年以上もの間、親しい交流が途絶えていた? 彼女にとってはバスケの返事が曖昧なものに聞こえたのだろうか。
オニョは、手指に触れていたポーションを二、三本、コロンと倒していた。
かなり感情的になっていたことが見て取れた。
バスケは目をパチクリとさせ、言葉を喉に詰まらせた。
「オニョ。無理を言うものではない。バスケの身にもなってやりなさい。遊びたい年頃なのに働かなきゃならない。互いに、もう十五にもなるんだから子供みたいに彼を困らせてはいけないよ!」
また自分への好感度が上がった。バスケは、そんな顔をした。
バスケは娘を叱るギルを諫める様に言う。
「ギルおじさん……オニョはなんも悪くないですから」
「君だって何も悪くはない。……甘やかせて育てたせいか、我が子ながら恥ずかしい限りだ」
ギルは自分の娘の言動を恥じ入る。
一瞬目を細め、優越感にもだえるバスケ。
「おじさん、そこまで言わなくても……」
拗ねた言いぐさの自分の娘に対し、少し強い口調で吐き捨てるギル。
バスケがオニョを思いやってフォローの言葉を発した。