2番街の新商団
ありがとうございました。
力不足を痛感しています。インプットするたびショックが増して思考が完全に止まりました。
全消し対象になりました。本当に申し訳ありません。
「先輩方はいつも、ああなのか?」
「はい?」
「この部屋へ案内された者には、大慌てで知らせに来るのかと聞いておるのだが」
「いいえ。その逆です。粗相のないように落ち着いた行動を心掛けています」
魔法屋のダンクに問いかける声がある。無論、宿屋のギルである。
ギルのいう、少し濁した言葉の意味がよく分からない。
言葉を噛み砕き、丁寧に説明されて、ダンクはようやく返答をした。
この部屋。魔法商会も大店で接客室が店内にいくつもある。そのうちのひと部屋になるが。
その客はギルとバスケなので、席についていたのはこの2人だけ。
先程ギルに呼ばれた時とは状況が変わったので、ダンクはホテルのドアボーイのように下座に控えめに立っていた。
だからといって聞き取れなかった訳ではない。
質問にはしっかりと返答をしながらも、ダンクは結果の報告がやけに慌ただしかったことを、ギルから再認識させられていることに気づいたのだ。
──と、いうことは。
「……」
丁重にお辞儀をしながらも、ダンクはギルに、ある疑念を抱く。
疑念なのだ。
もちろんスキルのことだった。ギルはキッパリと持っていないと言ったが。
詮索して欲しくないことは、そのように言うのだ。
ここでの発言に嘘はないとするならば。
ギルは以前から、バスケの『異能=スキル』に気づいていたはずだと。
スキル鑑定が未定なら、誰にも知ることはできない。だからこそ魔法屋の鑑定が存在する。この2人が芝居を打って自分をかつぐ意味は見当たらないし、かと言って先輩たちの慌てぶりからすると。
どうやら、2番街の血統というのは眉唾物でもないのかと思ったのだ。
さきほどダンクも確かにそのことは「伏せなければ」などと言っていたが、調子を合わせていたに過ぎなかったようだ。
「ギルさん……。そろそろ良ろしいでしょうか?」
「ああ勿論だとも。バスケ、これから詠唱の間へ入る。そこに君の才能の片鱗が映し出されている」
「う、うん」
「才能の片鱗……ですか? 全容ではなく?」
あまり空白の時間があると、自分がどんどん疑念の深みに行き、ギルを疑っていく自分が嫌で鑑定部屋へ行く頃合いでは、と発言で促したが。バスケに対するギルの発言がさらにダンクの疑念のツボを押すのだった。
片鱗とは何を言っているのか。ここは2番街屈指の魔法商会だ。スキル鑑定だって一流なのに。まるで鑑定しきれない何かを見に行こうと、そんな風に聞こえてくるのだ。
「ダンクも付いてきて、ともに入室しなさい。これから3人は仕事仲間になるのだから」
「あ、はい!」
鑑定結果が映像化されるという鑑定部屋。それがギルのいう詠唱の間だ。そこへの入室が自分にも許可された。しかも、これまでギルに聞かされた全てが明らかになる現場に入れる。つまり自分の脳内に湧いた疑念がそれで晴天のごとく晴らされるのだ。ダンクの返事は明るい声だった。
「ダンクと仕事ができるのか。魔法の道具、よろしくお願いします」
「あいや、まだ何をどうすればいいか分からないので、早まらないで。パジバルさんに伏せる隠密行動になるのだろうけど」
「仕事の話は後日としよう。まずは先輩2人も引き込まなくてならない。それは私に任せておきなさい。さあ、いきますよ」
仕事仲間というギルの言葉にバスケとダンクはウキウキした顔つきになった。
しかし主人のパジバルには内密の仕事になる。
それはバスケも同様であり、父親のメルには内緒で来ている。
だが彼らをその気にさせるのは、その後ろ盾が国一番の宿店の主人ギルなのだから、無理からぬことであろう。
3人と言ったのに、2人の先輩まで引き込もうなどと。何とも頼もしいオヤジだな、このギルという人物は。2人の少年のギルを見上げる瞳がそれを物語っていた。
ここは、ノクターンという国の2番街だ。かつての1番街だった場所は王都。そこが世界の中心地になる。当然3番街も4番街もある。果ては100番街までも。
王都に一番近い街での大繁盛は国で一番ということになる。
2番街の片隅で新たな商売の団が結成されようとしていた。