バスケとダンク
魔法屋のダンクはギルからもらった手付金の一部を先輩達に手渡し、話をまとめた。
「話は分かった。検査費用にしては随分と弾んでくださる」
「さすがは大旦那さまだ。スキル検査などお手のものだ、任せておけ」
魔法商会のスキル検査員の担当者の承諾は必須事項。
2人の先輩に口利き料と報酬をたっぷりと支払った。
ギルはバスケの後見人となり、メルからの苦情は自分が請け負うと契約した。
そして、バスケは検査室に案内されて検査を受ける。
バスケも当初は何のことかわからなかった。
しかし、これを受ければ魔法道具の取引が行えるようになるとギルから説明を受ける。
「──なら、ギルさんを信じます」
「では、検査用のスクロールを進呈します。私たちは退室するのでその後、読み上げるだけで良いからね」
「どうなれば終了なのですか?」
「スクロールの文字が読めなくなるまで、内容文を読み上げればいい」
そう告げると検査員はその部屋から出て行った。
検査を受けることを承諾したバスケに検査員から、魔法の効果が練り込まれたスクロールが1つ手渡された。検査室に1人になってから、巻物になった魔法の紙に書かれた文字を読むだけだが。
バスケにとっては初体験のことだ。緊張の面持ちで臨んだ。
「んん?……なんだろう。書いてあった文字が古代の壁画に記された文字列みたいに意味が分からなくなったぞ」
バスケの身体に異変があった訳ではなさそうだ。「よし、聞いた通りになったので……」とバスケは係の者を呼んだ。記してあった文字が読めない古代文字に変化したのだ。検査はこれだけのようだ。
検査室を出ると、結果を待つように指示を受けた。バスケは、ダンクの案内でギルとともに接客室へ足を運んだ。
「ギルさん、ギルさん! 失礼します! 鑑定結果が出ました!」
先程の検査員が血相を変えて、接客室に控えていたギルに報告をするため、外からドアノックの音とともに、検査員の激しい呼び声が聞こえて来たのだ。
「もう結果がでたの?」
「ふん、騒々しい連中だの。しばらく待たせておくか」
「はっ! 承知しました」ダンクは室外の先輩に、バスケの心の準備があるから少し待つようにと、ギルの言葉としてドア越しに伝えた。
同席していたバスケが驚いてギルの顔を見た。
仕事の依頼を直接受けたダンクも同席し、待機していた。
ダンクが軽くバスケに説明を加える。
「あのスクロールはスキル鑑定専用です。鑑定を受けた方のスキル情報が古代呪文に変換されて紙面に現れるのです」
「へえ、そういう仕組みなんだ。それでどうなるの?」
「その呪文を読み上げて解読する資格持ちが検査員の先輩になります」
「うん」
「もう1人の先輩がさらに重要で、その呪文を魔法研究施設にて詠唱します。施設にはさまざま設備がございまして、詠唱係りの唱えた呪文の結果は、古代魔法装置のスクリーンの中に投影されるのです」
「それじゃ、2人の先輩さんはそれぞれ解読資格と呪文詠唱資格の持ち主になるんだね」
バスケもここに通い詰めたせいか、頭で整理ができるようになってきた。
「横からすまんな。施設は屈強な造りだが、資格持ちでなければ呪いもある為、死線をさまようことにもなり兼ねん」
ギルも一言、差し入れた。
「ええ。その点も踏まえてスキルの規模がわからないため、装置は呪文結果の仮想空間となっており、そこに安全に反映されるのです。装置には膨大な魔法知識が蓄えられていて、過去に例があるものは問題なく再現されるのですが──」
「そうだの。例のないスキルは新種となるだけだが、規格外の規模にでもなれば、高貴な者たちはそれらを【秘宝】と呼んで血眼になり、収集するわけだ」
バスケは初めて耳にするその言葉に疑問符をつけて、訊ね返す。
「秘宝? それって直系の子孫とかですか?」
「普通はそれを連想しますよね」
「ちがうの?」
「スキルの秘宝だけは違うのだよ。詳しくは追い追い分かるだろうが、2番街にはその秘宝スキルが確認されておらぬのだ」
「バスケさんにも受けといて欲しいとギルさんが、おっしゃるもので」
「それになバスケ、スキルは誰にでも開花するものではないのだ。ダンクはどうであった?」
ダンクはまた苦笑いをした。
汗をかくように面前で手を振り、ノーと答えたのだ。
そのようなモノがあるなら、下働きをしなくて済んでいる訳だから。
「そうだの。案ずるなダンクよ、私にもないんだからな、はっはっは」
「えっ?」
「なにを驚くのだ、我が子のような存在なのだ。信じ切ってやるのが親心というものだ」そう言いながら、ギルはあの涼やかで優しい眼差しを再びダンクに向けていた。
「ギルさん……。そんなにも彼のことを……なんだかバスケがうらやましいな」
てっきり、ギルに何かしらスキルがあってのことだとダンクは考えていた。
それをきっぱりと無いと打ち明けられた。
我が子のことのように信じる。
バスケに対するギルの言葉が、天涯孤独のダンクの胸に沁み入るようであった。