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流浪の獄/2番街の秘宝  作者: ゼルダのりょーご
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魔法屋のダンク


「ギルさん……。まさか、あなた様も王都から来られたのですか?」

「私のことは詮索しなくていい。そちらの店主パジバル氏も存知のことだ」

「それにしてもギルさん。王都を1番街と呼称する人はいない時代ですが……」


 ここはノクターン2番街で、王族や貴族のような富豪が暮らす場所を王都とよび、かつては1番街とも呼称されていた。だがその呼び名はすでに廃止されたようだ。


 口に出す事さえ、はばかられるほどに恐れ多い話題に魔法商会の店番は身震いをした。店番はギルに問わずにいられなかった。移転前の居住区のことだ。

 だが、ギルはその件について詮索無用と、店番を鋭い眼光で見つめるとさらに言葉を加える。魔法商会の主人である、パジバルも同様に知っているのだと。


「魔法商会でもパジバルぐらいであろうな。メルさんの過去に触れている者は」

「うちの主が。……聞いたこともないです、店員のだれも」

「お前さん、名は?」

「ダンクと申します。どうぞお見知りおきを」


 名を聞かれて店の店員は、その名を明かし一礼をした。


「入所、何年目になる?」

「はい、3年ほどに」

「まだ見習いの域を出たに過ぎないな」

「あ、あの……」


 ダンクは戸惑っていた。

 突然大金を掴まされたこと。大(だな)の主しか知らないような秘密を明かされたこと。何よりも、名を聞かれたことには一番驚きを隠せないでいたことだ。


 大旦那に店先の番をしている下役が名を聞かれ、覚えてもらえることはこの世界では珍しく、とても幸運なことなのだった。この流れは流石に三下のような、ダンクでも理解はできていた。

 つまり何らかの仕事を仰せつかったとの解釈になる。その場合、主人に報告すれば大幅にピンハネされるだけなのだ。「君と少し、話がしたいだけだ」とギルは言葉を添えた。ダンクは静かに首を縦に振る。そして店先から奥のセレブ用の接客室へ入っていった。店内の先輩達には大口の旦那だが、宿屋なので自分が接客をすると上手く言ったようだ。

「おう、しっかりもてなせ」と激励も受けた。


 部屋に入るとギルは、ダンクに手招きをする。


「いいかい良くお聞き。メルさんの道具屋には、かつてパジバルもいた。だが、メルさんの方針で回復系統しか扱わなかったのだ。魔法使いの家系であったパジバルとは、今のバスケのように目立つ武器系が売れ筋だと意見が分かれた。その後、それぞれ別の道を歩んでしまった」


 大理石のような高級感のある大きく立派なテーブルをはさんで、超高級の本革ソファーに腰を下すも、2人は前かがみに互いの顔を寄せた。まるで密談をするかのように。


 魔法商会を一手に商う代表者パジバル。

 その大人物がかつてのメル道具店の従業員だった。商売の方向性で意見が合わずに別れた。


「──なんと、そうでしたか。主がメルさんの友人だったのですね」

「いや、そんな単純な話ではない」

「はい……?」


 ギルは、ダンクに険しい表情を見せる。

 つまり、メルとパジバルの間には、ただならぬ確執が生じてしまったのだ。


 ダンクはギルの面前に葉巻のケースを少し開けて差し向ける。「年代物ですが」とクリスタルの灰皿と一緒に。「私の好みだ、遠慮なく頂くよ」そう言ってギルが葉巻をケースから一本抜き取ると、ギルのくわえた葉巻の先端に火をつけた。


「バスケが連日こちらを訪ねてきた折に、パジバルはいつも不在だったか?」

「あ、いえ。そのようなことはありません」

「執拗に彼を子ども扱いし、追い返すように全員が命を受けたな?」

「あ、ああ……そういうことだったのですね! だからあの子をあんなに毛嫌いなさっていたのか」

 

 大体のことは察している。そんな口振りでギルは彼に問いかけていた。


「主人の命令だからと、バスケの事情を知りながら、さぞ心苦しかっただろう」

「そ、それは……」

「隠さずとも良い。告げたりはしない。そして抱き込もうと言うのでもないから、安心しなさい」


 ダンクに向けられたギルの声はとても優しく、その目はとても涼やかであった。

 これまでにそのような経験がないかのようにダンクは、胸を打たれる思いになった。警戒心が解かれ、安堵の表情を浮かばせていた。


「先輩方の手前、荒い口調で意地悪な言い方を強いられておりました。俺も十六という身分で安い給金ですので、内心ではバスケを不憫にはおもっていました」


 率直なダンクの意見が聴けた。ギルは、


「ダンク。私は、お前と仕事をしようと思っている。その金は、ほんの手付金だ」


 ここぞというタイミングを見計らって、本題に入った。


「は、はい。こんな俺にチャンスを下さり光栄です。なんなりと申しつけてください。宿屋の仕事は未経験ですが」

「ほう! 待って居たかのようだな、よし。──だが、魔法屋を辞めてもらっては困るのだ」

「それはいったい?」

「先も言ったようにバスケの秘宝を検査できるのは魔法屋の仕事だからの」

「メルさんはいったい、どのような血筋の方なのです? どうもギルさんの口振りでは化ける確信がお有りのようですが」


 何かを最初から確信したようなギルの言動。


「重要なのはメルさんの出生ではないのだ。あれは君の心を動かす口実にすぎない」

「うん? ではギルさんも何かスキルをお持ちなのですね」


 聞きたいこともあるようだが、詮索をせず、話を進めようと心がけるダンク。


「いま詳細は省くとしよう。バスケのスキル検証を密かに請け負ってくれ。検査には先輩の協力も必要だろうが、スキル検証の件は打ち明けて良い。だが──」

「2番街の秘宝……の件ですね? そいつは伏せなければなりませんね」

「ふっふふ。まずは証明が必要なのだ。ダンク、一緒に儲けようじゃないか」


 ギルがスキルを持っていて、バスケの中に眠る大いなる可能性をすでに承知なのだと解釈をするダンク。スキル検定は魔法屋で行うものらしい。明かして良いことと、そうでない部分があるようだ。


 それがギルとダンクのいう、【2番街の秘宝】と名付けられし事柄なのだ。


 ちょうど一本の葉巻を吸い終える頃にダンクとの交渉が終わった。

 この分ではギルは、ダンクの身の上すら調査済みなのだろう。

 ダンクは両親を早くに亡くし、苦労しながらここまでやってきたのだった。

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