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流浪の獄/2番街の秘宝  作者: ゼルダのりょーご
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とある資格

 ギルとバスケは店のカウンター前で、直立して向き合う。

 十五になったバスケは大人のギルと変わらぬ身長だった。

 至近距離にて、互いの耳元に口を添えるようにひそひそ話をする。

 

 店の手伝いだけなら特別な資格は必要ない。

 だが、バスケはその資格をすでに獲得したようだ。


「──資格を取れたのは、ギルおじさんの助言と援助のおかげです」

「うんまあ。財物は口より物を言う、というしな。──だがそれだけじゃない」

「はい、正直びっくりしました。あらたな道具の仕入れのために魔法商会に行って見たけど、一切、取り合ってはくれません──」

「当然、子供のきみじゃ何度でも門前ばらいだ。魔法屋の資格でも持っていれば別だと言われるのがオチだよ」


「まさに、お言葉どおりの展開でしたが、俺にはどうすることも出来ない。魔法道具の販売をあきらめ切れずに何度訪ね直すとも自分への扱いが変わることはなかったんだ。──でも、ある日。その場に立ち尽くしていたら、ギルおじさんがそこに現れて、だまって大金を彼らの前に積んで、こう進言してくれましたよね」


 大人社会なら、子供の出る幕などはないのかも知れないが。

 そこへギルが顔を出し、財力に物を言わせてなんとか便宜を図らせたのか。

 ギルは余ほど、バスケのことが可愛いと見える。


「この子にも何かしらの才覚が眠っているかもしれないから、試験だけでも受けさせてやってくれないか、と」

「ああ」


 バスケが訪れていたのは魔法商会だ。

 試験というのは魔法スキルの素質を測るということなのだ。

 眠る才能というのは、スキルの有無を調べることと、その種と力量になる。


「あの当時は、きみも薄々と気づいていたのではないかと、私は思ったんだがね」

「いいえ。ストレージなんて商売人なら誰でも持っていますし、俺の中にも道具屋の血筋ってやつで、多少は受け継いでいるに過ぎないと普通に思っていました」


 ストレージ。

 それは収納スキルのことで、小さめの倉庫が体内にあるようなものだ。

 商売人が在庫の仕入れをしに、あちこちの街を行き来するわけだ。だが、入手した貴重な商品を賊に略奪されるのを阻止する為に、スキルのない者たちは魔法商会からスクロールを買い、読み上げることでストレージを修得してきたのだ。


 スクロールとは、魔法効果が仕込まれた巻物のことである。所有者が読み上げると、その効果がその身にそなわる代物だ。

 魔法屋のヒット商品でもあった。

 属性矢なんかも代表的な魔法商品になる。


「だが、きみに試験を実施した魔法官たちだが。それは、それは、腰を抜かさんばかりに驚いておったな、──じつに愉快であった」


 当時の景色を脳内に蘇らせながら、鼻の下を長くするように、ニヤけるバスケ。

 魔法商会の奴らの慌てぶりがとても滑稽であったと、ギルもざまぁと言わんばかりに面白がって言った。



 

     ◇




 ノクターン2番街の南に位置する道具屋から、北上すること約2km。

 そこに見えていたのは魔法商会のきらびやかな看板だった。



「うちは回復ポーション専門店のように薬剤ばかり扱って来たんだな」


 父親のメルが病床に伏して間もない頃だ。


「種類もさほど豊富だとは正直言えないし。品が売れない限り、毎日掃除ばかりで退屈で、道具屋ってホントに地味の一言に尽きるよな」


 冴えない顔でそんなつぶやきを繰り返しながら、バスケは店の中を徘徊していた。この分では自ら手伝いを申し出たわけではないようだ。彼を取り巻く環境がそうさせていただけのようだ。


 メルが倒れた噂話はすぐに街に知れ渡り、ばったりと客足が途絶えてしまっていた。


「冒険者たちが胸を躍らせてやって来るには、やっぱり属性矢がカッコいいんじゃないのか。たしか、魔法商会の大きな店が街の北に立ち並んでいたっけな」


 思い立ったが吉日。早速バスケは魔法商会の門を叩くのだった。



「なんだぁ? チビ助……飴玉か綿菓子なら西の商店街の露店にでも行きな!」

「ど、どうも。道具屋のバスケといいます! 12歳に成ったばかりです。属性矢を仕入れたくて、訪ねて来たのですが……」


 バスケは、たどたどしい挨拶の言葉とともに深く一礼をする。

 乱暴な接客態度の魔法商会の係員に名を名乗り、用件を伝えるバスケ。


「ぎゃっはは! 嘘だろ!? ガキが生意気にも俺達と商談を進めようってのか」


 一笑され、聞く耳も持ってもらえず、店の外へと追い払われる、を数日の間くりかえした。


 父が病に倒れ、母親が看病と家庭の両面で多忙をきわめる。

 母から止むなく店番を頼まれたような状況だったのだろう。


 店番に一人で立ってみた。

 客足でもあれば、まだ救われた。陰気くさい木造の一軒家の店の中で、様々に思う所があったのだろう。そして、とにかく早く利益を上げたくなった。

 体力回復薬と解毒薬ぐらいしか取り扱っていない地味なラインナップに、ため息ばかりがでる。


 店には華がない。魔法系の道具を置きたい。刺激的で格好の良い属性矢がいい。

 そう思ったら、足が勝手に北の魔法商会の方へと向かっていたのだ。


「お願いします! どうかお話だけでも──」

「しつこいぞ! 子供だから大目に見ているがこれ以上迷惑をかけるなら、通報してやるぞ。ほら、とっとと帰んな!」


 やはり今日も追い返されようとしていた。


「ちょいとお邪魔しますよ」


 恰幅の良い中年男性が入店してくるのが見えると、


「やあ、いらっしゃい。本日のご用向きは何でございましょう? 旦那様」


 今しがたバスケを追い払った輩が、丁重に接客をする相手こそが宿屋のギルだったのだ。


 

 

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