4話 ジェーンとの出会い
この国の猫たちは支配下に入ったし、とりあえずここまでは順調に来ているな。それにしても猫かぁ。結構なじんできているのかな。明日はクリントン伯爵の屋敷でディナー。あ~~。
優希はここで一つ重要なことに気がついた。そう、衣服である。優希が着ている服は、麻の腰巻きとシャツだけで、とても貴族のディナーに着ていけるような代物では無かった。今から手に入れようとしても優希が持っているのは人間に変身したときにもらえる小銭だけで、とても服が買えるような金額では無かった。仮にお金があっても、この時間では開いている店も無かった。優希は思案を巡らせたが、結論は出ず。最終的に明日ギルドで報奨金をもらってから急いで服を手に入れることにした。
翌日、優希は昼過ぎに目覚めると、どんな服が良いか、街を見て歩いた。色々見てみると、スラックスにシャツ、それにベストを纏うのが一般的なようだった。大体のめどが付いた優希は次に服屋を探してみた。しかし、既製品のような服を売っている店は無かった。どうやらこの国では、基本的に生地を購入して服を仕立てるようだった。優希は焦った。人間に変身できるのは午後7時頃。それからギルドで賞金ももらって仕立屋に行っても招待された午後8時にはとても間に合わない。何としても仕立て済みの服を探す必要があった。そこで優希は猫の家に戻ると、猫たちに仕立て済みの服を売っている店を探すように頼んだ。
くそー。失敗した。せめて後2~3日後にしてもらえば良かった。猫たちを従えていい気になっていたせいで服のことに全く気がつかなかった。まいったなぁ。さすがにこの服で貴族のディナーに行けないし。猫たちが見つけてくれると良いけど。そうだ、古着屋はないのかな。とりあえず俺も探しに行こう。
優希は、今度は古着屋を探してみることにした。しかし、先ほど街をまわった限りでは古着屋は一軒も見ていなかった。どうやらこの国の人々は着れなくなった服はばらして仕立て直ししているようだった。優希が見つけた古着屋も、子供が着るような小さなものばかりで、優希の身体に合うような服は売っていないようだった。優希はあちこち探し回ったが、結局ディナーに着ていけるような服を見つけることが出来ず、とぼとぼと猫の家に戻った。
「優希さん。服が見つかりました。」
猫の家に戻ると、クロが優希に言った。
「ほんとですか?」
優希はふぅーっと息を吐くとクロと一緒に服を見に行った。その服は仕立屋の奥の方に吊してあった。優希はこれならいけるかも知れないと思ったが、その時、一人の女が来てその服を持って行ってしまった。どうやら仕立てを頼んだ人が取りに来たようだった。それから数時間。優希と猫たちは服を探し回ったが、結局見つからないまま夜になった。こうなったら仕立屋に超特急で作ってもらうしか無いと思い、優希はギルドへ賞金をもらうために向かって行った。
優希がギルドに入ると、受付の女性が直ぐに優希を見つけて声をかけてきた。
「優希さん。お待ちしておりました。ミーシャの件はクリントン伯爵様より聞いております。」
「それは良かった。では賞金をいただけますか。」
「それなのですが、誘拐犯逮捕の報奨金と併せて、クリントン伯爵様が直接お支払いになるとのことです。」
「あ、そうですか。分かりました。」
優希は冷静を装いながらギルドを出たが、ギルドを出た瞬間頭を点を仰いだ。
詰んだよ。どうすんだよ。金が無くてはなんとも出来ないじゃ無いか。いや、優希考えろ、きっと何か方法があるはずだ・・・・・。
んなもんねぇよぉ・・・・いや、執事さんに恥を忍んで頼んでみるか。
優希は最後の手段でクリントン伯爵の執事に頼んでみることにした。そして優希はクリントン伯爵の屋敷の通用口へとぼとぼと歩いて行った。
優希がクリントン伯爵の屋敷の通用門に着くと、一人の女性が立っていた。優希はこんな所は見られたくなかったが、時間も無いのでその女性は無視して通用門から中に入ろうとした。
「優希。あんた優希だろ。」
優希がハッと驚いて振り返ると、先ほどの女性がニコニコしながら優希を見ていた。
「はい。優希ですが、何かご用ですか。」
優希は改めてその女性の顔を見てみた。なんとなく見覚えのある顔だと思ったら、先ほど仕立屋で服を持って行った女性だった。
「あんた、猫を助けて犯人まで捕まえたんだってね。」
「ええ、まぁ。はい。」
「あんた、上品な服が欲しいんだろ?」
「え、なんでそれを・・・」
「猫たちが必死で探していたからね。」
「あなたは何者ですか?」
「あたしかい。あたしはジェーンていうものだよ。」
「もしかして服を売って下さるのですか?」
「売るって、あんた金持ってないんじゃ無いの?」
「ええ、まぁ、そうなんですけど。服を売ってくれるのでは無いのなら、急ぎますので失礼しますね。」
「まぁ、そう慌てなさんな。服ならただであげるから、元々あんたのために仕立てた服だからね。」
「元々私のために?」
「そうだよ。ついておいで。」
優希はこのジェーンと名乗る女が何者か分からなかったが、今はとにかく服が欲しかったので、ジェーンに付いていくことにした。ジェーンは10分ほど歩くと、小さな飲み屋のドアを開けて奥に進むと、すたすたと2階へ上がっていった。
「優希、何やってんだい。早くきな。」
優希はジェーンに促されて2階へ上がっていった。そしてジェーンが案内した部屋には、仕立屋にあった服が壁に掛けてあった。ズボン、シャツ、ベスト、靴、それに諸々小物を用意してあった。
「さぁ、これを着てクリントン伯爵のディナーへ行ってきな。」
「は、はい。でも何で・・・」
「そうさねぇ、あたしの昔の名前は早苗って言うんだ。」
「もしかして日本人ですか?」
「そうさ、ここに来る前は日本人だったよ。ここに来てからはジェーンって名乗っているよ。」
「優希、あんたも知っての通り、お釈迦様に会って、猫になってここに来たんだよ。随分昔の話しだよ。」
「では、あなたも交通事故で亡くなったのですか?」
「交通事故?なんだいそれは。私は殺されたんだよ。もうずっと昔にね。」
「え、その割には若いですね。」
「そうだねぇ。あたしは妖怪だからね。」
そう言うとジェーンは猫の姿になった。優希はとっさのことに驚いた。そしてその猫の尻尾は2本だったのを知ると更に驚いた。
「猫又のジェーン。それが今のあたしさ。」
「人間に戻らなかったのですか?」
「ああ、猫の方が気楽だったから、このままで良いってお釈迦様にお願いしてね。」
「猫のままなら歳をとらないのですか?」
優希は仲間を得たような気がして、次々にジェーンに質問した。
「歳はとったよ。でも、ある朝目が覚めたら、尻尾が二つに割れていてね。妖怪になっちまったのさ。ははは。おかげで、それからは年齢なんて自由自在ってわけさ。」
「へぇ・・・・・じゃ、昼間も人の姿になれたのはそのおかげなんですね。」
「まぁ、そう言うことかな。さぁ、そろそろ行かないと時間に遅れるよ。」
優希はまだまだ聞きたいことがあったが、ジェーンにお礼を言うと、着替えてクリントン伯爵の屋敷へ向かった。