3話 ミーシャの救出
翌朝、優希が目覚めてしばらくすると、貴族街の猫がやってきた。
「優希様。シルクと申します。ルーク様よりお手伝いするように言い付かって参りました。ミーシャは私の親友でございます。何卒お助け下さい。」
優希はシルクに普段どおりに話すように言うと、必ず見つけると約束した。しかし、現在は何も情報が無く優希はただ待つことしか出来なかった。待っている間に優希はミーシャについてシルクから聞いてみることにした。
「ミーシャは明るい灰色の毛をした目がクリクリのかわいい猫で、お屋敷を出てあちこち散歩していました。時には街やスラム街へも行ったと言っていました。危ないからやめなさいっていつも言っていたのですが・・・」
シルクが泣き出してしまったので、優希は必ず見つけるからねとシルクを慰めると、状況を整理してみることにした。
もしも出歩いているときに何かあれば、他の猫たちの目に入っている可能性が高い。しかし、スラムの猫も街の猫も見ていないようなので、貴族の街で何かあった可能性が高い。やはり誘拐されたと考えるのが妥当だろう。そして、他の猫たちに気がつかれずに誘拐できる場所は、クリントン伯爵の屋敷の可能性が高い。そうなると怪しいのは使用人か。
優希は、ルークにクリントン伯爵の屋敷を念いるにに見張るようにシルクに伝言を頼んだ。そして、お昼も過ぎた頃だった。シルクが猫の家に戻ってきて優希に言った。
「優希様。クリントン伯爵のお屋敷にお手紙が届いて何か騒ぎが起きています。」
「分かった。」
優希はそう言うと、クリントン伯爵の元へ走った。そして、クリントン伯爵の屋敷へ着くと、お釈迦様から与えられた能力でスーッと姿を消して屋敷の中へ入っていった。優希はシルクにも手紙を探須用に言って、自分も屋敷の中を探そうとしたが、その時であった。綺麗な服を着た夫人がシルク見つけ、シルクを抱きかかえて手紙を見せた。
「シルクちゃん。見てちょうだい。誘拐犯から手紙が届いたの・・・」
そう言うと、その夫人は手紙をテーブルに置いて泣き崩れた。その瞬間、優希はテーブルに飛び乗って手紙を読んだ。
”ミーシャを殺されたくなかったら、今日の夜10時に金貨100枚を西街の外れにある黒い空き家へ、執事助手のガスに届けさせろ。一人で来なかったらミーシャを殺す。”
犯人は執事助手か、何と間抜けな犯人なんだろうと思いながら、優希はクリントン伯爵の屋敷を出ると、待機していたクロにその家を見てくるように言って猫の家へ戻った。そして10分ほどで家を確認に言ったクロが戻ってきた。
「優希さん。あの家はもぬけの殻でした。」
「やはりそうでしたか。分かりました。」
優希はそう言うと、引き続きミーシャの捜索を続けるよう猫たちに命じ、自分はどうやって犯人を捕まえるかを考えた。するとしばらくして、トラが猫の家へ飛び込んできた。
「優希さん。ミーシャの居場所がわかりやしたぜ。」
その言葉を聞くと、その場にいた猫たちは「みゃー!」と歓声を上げた。優希は直ぐにトラと共にミーシャが捕らわれている場所へ向かった。その場所はスラム街の西の外れで、野良犬がいるため猫があまり近づかない場所にある空き家だった。屋根の上に猫たちが数匹いるためか、野良犬たちが吠えかけていた。優希はトラに外で待っておるように言うと、野良犬たちを気にもとめず姿を消して空き家へ入っていった。中に入ると、小汚い格好をした男二人と、口を塞がれケージに閉じ込められたミーシャを見つけた。
「なぁ兄貴。俺たちももうすぐ金持ちになれやすね。金をもらったらこの猫はどうしやすんで?」
「また身代金を要求するんだよ。なんて言ったって相手は伯爵様だ。搾り取れるだけ搾り取ってやるさ。」
「じゃ、俺たち一生働かなくても食っていけるくらいの金が手に入るんでやんすね。」
「ああそうさ。幼なじみのガスが伯爵様の執事助手をやっていたのは運が良かったぜ。」
「まさか奴が俺たちの仲間だととは伯爵様も気づきゃしねぇですね。」
「あははは。金貨500枚いや1,000枚だって夢じゃ無いぜ。」
優希は怒りで飛び出しそうになったが、気を鎮めて誘拐犯達の話しを聞くと家を出た。
「優希さんどうしやすか?」
「あいつらをとっ捕まえて牢獄にぶち込んでやる作戦があるから、ミーシャには夜まで待ってもらおう。」
ここでミーシャを助けることは簡単だが、猫の姿のままでは誘拐犯を捕らえることも出来ないしガスも捕らえられなくなるので、夜になってから作戦を開始することにした。
午後8時、優希はクリントン伯爵の屋敷へ向かった。そして姿を消すと執事助手ガスの部屋へ忍び込んだ。ガスは夕食の片付けを手伝って不在だったので、優希は次の脅迫状を探した。手紙は筆禍打てに簡単に見つけることが出来た。優希はその後もガスの部屋に留まり、ガスが脅迫状を取りに戻るのを待った。そして午後9時を回った頃、ガスが部屋に戻り脅迫状を懐に入れるのを確認すると一旦屋敷を出て、今度は門番にミーシャの件で来たことを告げた。しばらくすると執事のロナルドが出てきたので、ミーシャ誘拐の犯人は執事助手のガスで有り、懐に次の脅迫状を持っていることを告げた。優希は執事と共に屋敷に入り、クリントン伯爵の部屋に通された。
「クリントン伯爵、ミーシャ誘拐の犯人は執事助手のガスとその仲間達です。」
「ガスが犯人・・・・」
「はい。ガスは次の身代金要求のための手紙を懐に持っております。この部屋へガスを呼んでいただければ私が拘束いたしますので、懐の手紙をご確認ください。」
「ミーシャは無事なのか?」
「はい。ご安心ください。」
「ロナルド、ガスをここへ呼びなさい。」
「はい。伯爵様。」
しばらくすると、ロナルドがガスを伴ってクリントン伯爵の部屋へやってきた。そして次の瞬間、優希はガスを後ろから羽交い締めにした。
「クリントン伯爵、ご確認ください。」
クリントン伯爵はガスの懐を探ると、1通の手紙を取り出した。そして、手紙を読み終えるとガスに言った。
「まさかお前が・・・何故だ!」
クリントン伯爵の問いかけにガスはうつむいて答えなかった。
優希は手早くガスを縛ると、誘拐犯のいる場所をクリントン伯爵に教え、衛兵を連れてそこへ来るように言った。優希は念のため町外れの黒い家に行き、誘拐犯達が来ていないことを確認すると、ミーシャが捕らえられているスラム街の空き家へと走った。そして空き家に着くと直ぐに中に飛び込んで、あっという間に誘拐犯達を組み伏せて捕縛し、ミーシャをケージからだし猿ぐつわを外してあげた。するとそこにシルクが飛び込んできてミーシャにすり寄って優しくなめた。それから数十分後にクリントン伯爵が衛兵を連れてやってきた。クリントン伯爵は直ぐにミーシャを抱き上げると、優しく抱きしめた。
「ミーシャ無事で良かった。これで娘も泣き止んでくれるだろう。結城君ありがとう。」
「ミーシャが無事で良かったです。」
「ところで結城君、お礼をと思うのだが今日はもう遅いので、明日のディナーに紹介しようと思うんだが。」
「分かりました。」
「では、娘が待っているので私は失礼させてもらう。」
クリントン伯爵が帰ると、優希は猫の家へ戻り、救出を助けた猫たちに感謝を伝えた。