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SOYUZ ARCHIVES 整理番号S-22-975  作者: Soyuz archives制作チーム
Ⅲ.帝国戦役 ゾルターン前編
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Chapter90. Faster than sound wave

タイトル【音よりも速く】

——ウイゴン暦6月25日 既定現実7月2日 午後12時18分

——シルベー・ゾルターン県境空域


「旦那、ほんとに奴ら来るんすかね?俺見えないっすよ」


「いいか、ヤツは必ず来る。」


シルベー城攻略戦以前よりゲルリッツは県境を飛び、空に目を光らせていた。

竜騎兵が地上戦を仕掛ける場合、いくら弓矢を耐えられるワイアームを使途しようがアーマーナイトすらものともしない地上火力相手では分が悪い。


空挺降下という例外を除き地上の敵は地上で、空の敵は空をという考えだ。


そういうこともあってか、中佐はシルベー城防衛戦には参戦せずシムの高機動訓練も兼ねて空を飛び続けていたのである。


「ったく人使い荒いんだから旦那は…」


シムは悪態をつきつつも風を感じる。


ゲルリッツの鬼稽古の結果、だいぶ空に馴染んでいた。また彼の手にはダールではなく、スナイパー用のガローバンが握られている。


気が難しい上に平気で無理難題を引っ掛ける中佐のことだ、空中戦においてダールでは再装填時間がネックになるが、それ相応の貫通能力が必要になると考えた時にガロ―バンが有利であると考えたのだろう。


その考えは近代的な戦闘機に関して至極当然のことではあるが、この男は人の心がないらしい。


最も、ゲルリッツ自体が超人であることが拍車をかけているのもあるが。とシムは考えていたが、中佐本人は違っていた。


シルベーの陥落、水上市場に帰投しないサルバトーレ。足の速い奴が合流地点に一日を駆けることがないことは良く知っている。戦いでの音信不通は戦死を意味する。



腐れ縁でも奴は立派な英雄だった。

仇討ちを果たすべくゲルリッツは自分の役割を全うしようと心に決めていたのである。

そのためにはできる限り異端に対しての対抗手段を見出さねばならない。


次逢った時は必ず討ち取る。たとえこの身が幾度と傷つき撃墜されようが。ゲルリッツは執念の鬼と化していた。


何を言っても止まることのない彼に諦めをつけたシムは次の話題に移る。


「それに敵がいたとして、バカみたいに遠かったらどうするんすかほんと…」


竜騎兵同士の戦いは視力がモノを言う。


いくら騎手の目が良かろうがそれには限界がある。どこにいるか分からない敵をこの帝国中を探すのはあまりに無謀。


だがゲルリッツにはある秘策があるようで、答えるに難しい質問に答えて見せる。


「人間の感覚には限度がある。それに直感も畜生と比べ鈍い。ならばコイツを使えばいい。ワイアームは縄張りに入った敵に猛突することくらいお前でも知っているだろう。それが正しければ…」


———GRooOOMM!!!———


その時、雄たけびと共に大きく中佐の体が持っていかれた。


ついに魚が釣り針を見つけたのである。

急加速する際にかかる重力にすぐさま順応すると手綱を緩め、進路を竜に任せる。どことは知れぬ野生の勘がテリトリーを侵す不届き者めがけて鬼神掛かった速度で向かっていくのだった。


「これなら奴らに追いつける」


今までに体感したことのない速度にゲルリッツはこうつぶやく。

まぎれもなくワイアームは激情に駆られていることに違いない、今までの飛龍とは比較にならない速度に耐えながら人間の感覚で敵を探るのだった。




——————




【ポイントI-07まで距離10,000】


ジョンソは無線で偵察地点までの距離を知らせる。


山を越え、湿原を超え広がるは広大な低木の林。あるのは道と思しき線と草原だけだった。


距離を隔てているにも関わらず、ジャルニエ近郊のような情景にやや困惑するがまるで国を隔て別の島国に来たかのような錯覚を覚える。


しかしここは敵地。

戦闘機や哨戒機にミサイルが飛んでくるかもしれないと思い気を引き締め、偵察を開始した。


何分突貫工事で偵察機に仕立て上げたこの機体には、偵察衛星程の精度になるためには高度と速度を落とさねばならない。


それ即ち地上からの砲火に晒されることにつながるためジョンソは額に冷や汗をかきながら地表に近づけていった、その瞬間である。


「——やっぱりな…!」


領空を当たり前のように侵犯してきた経験のある彼にとってレーダーに映る敵機は慣れっこである。


等間隔に引いてある線を基準におおよその速度を計算した時、ジョンソは奥歯を噛みしめた明らかにドラゴンナイトの限界、時速300kmよりも速いのだ、不親切な機器類から計算するに、推定500はあるか。


未知との遭遇に対し李は冷静に操縦桿を強く引きながら、機体を左に傾け高度を上げる。


竜騎士と戦闘機の根本的な違いは高高度に耐えられるか否か。

振り切ってしまえば問題はないだろうと彼は考えていた。機体の角度をもとに戻し、画面を確認する。


レーダーを見た李は凍り付いた。


高度計がすさまじい勢いで上がっていくためである。生物を使っているからこそ限界高度はあるとは言え、追いつかれたら何をされるかわかったものではない。


竜騎兵はレシプロ機並みとは聞いていたが、上昇力に関してはジェット機と同等ではないだろうか。あまりの事実に武者震いし始めた。


そして敵は10時方向から、こちらとすれ違うように接近し始めており速力差で追いつけないことから通り魔のように攻撃をしてくるに違いないだろう。


ジョンソは祈るような気持ちで操縦桿を引き続ける。


———WooNG!!!———


錫色の鳥と鼠色の原竜がすれ違い、ソニックブームが空気を揺るがす。

速度差は約二倍、互いを見る時間など1秒たりとも与えられていないが、空を制するものはそのわずかな時間ですら止まって見えるものだ。


音を超越した空間に閉じ込められた二人の男たちは敵である男と邂逅した。


李は赤旗を掲げる鎧甲冑を装備した騎士を、ゲルリッツはキャノピー越しに佇む怪しい仮面を来た

異端人を。


この空間は非常に脆く、時が進むにつれ両者は空へと放り出された。


「——侮れん相手だな」


ジョンソは敵を圧倒的な速度で振り切るとそのまま空の彼方まで消えていった。


 速力はそうでもないが、あの時も700km近く出ていたはずである。


それにも関わらず狂犬のように追いかけてきたことは彼にとって大きなプレッシャーとなっていた。

航空機は非常に繊細なバランスで飛んでいる、それ故何が命取りになるかわからない。

万が一奴が持つ槍がインテークに入れば最悪墜落さえ考えられるだろう。


【RED01からH-HQ、敵と遭遇。回避するため進路を変更する】


【了解、ここからはゾルターンなる地に踏み入れることになる。何が起こるか想像がつかない。留意せよ】


いずれにせよアレに遭遇しないことが一番だ。李はルートを変えることを告げ、ゾルターン領空に飛び込んだ。





——————




 敵機を見失ったゲルリッツはこれ以上の追跡は不可能だと考え、着陸準備を取っていた。


「何故あの時弓を引かなかった」


シムに対する中佐の一言は何よりも鋭い。戦闘機対策に連れている後部助手が仕事をしなければ意味がない。


「——正気ですか旦那、あんな矢よりも速い怪物相手にあてろと?無茶苦茶もいい加減にしてくれませんか!それにバケモノとすれ違った時、風とは違う何かにぶっとばされかけてすれ違い様になんてとても…」


それに対しシムはやけくそになりながらありのままを話した。

速力二倍、加速中に重力がかかっている地獄のような状態では弓を引くことさえもままならない。間違いなく勝つことどころか当てることすら不可能である。


しかし得られたことは大きい。

絶対に戦ってはいけないということが知れたことさえも収穫といえるだろう。彼の開き直りに対し中佐は特に追及することはなく、正直者の意見に耳を傾けることにした。


今後は一撃離脱戦法に切り替える必要性が出てくる、それも空高く見張る鳥よりも巣に戻る直後や滞空している瞬間に限られる。


速力で勝てなければ、勝てそうな相手だけを狙えば良いのだから。


「そうか。ヤツとの戦闘は避けたほうが良いことが分かっただけでも良しとしよう。

…今後は空からくる補給線を断つことを優先するか。今後の戦いはゾルターンになる、いけるか」



「逃げるって言っても地獄の果てまで追いかけてまで付き合わせる気でしょう、旦那のことですから」


「そうだ」


彼らの牙は形を変え、Soyuzに対し向け続けられるのだった。



——————




 話を高度2100mに戻そう。

ゾルターンに侵入したジョンソのMiG17は撮影を開始した。先ほどのこともあってかレーダー画面に張り付いていたがあれ以降、まったくもって音沙汰がない。


ジェット機もそうだが航空機は動物と違い、地上でも聞こえるような相当な音をまき散らす。


動力を使っているがため仕方がないことではあるが、これを耳にした敵は竜騎兵で迎撃しようとするだろう。

現実世界ではソ連やら中国からの機体が来るたびに自衛隊が出てくるのと同じだ。


領空侵犯常連客の彼としてみれば出迎え同然なのだが、スクランブルが出てこないとそれはそれで違和感を抱くものである。


「迎撃がこないな…」


李はマーライオンを見た観光客のような一言をコクピットでつぶやく。ゾルターン地表の大多数に畑と添え物程度の民家、石造りの軍事施設と思しき建物が見える。


これだけ密集していれば即座に迎撃に来てもよいもので、挑発してみようかと考えたが

先ほどの怪物が此処に出現したらと考えるとうかつなことはできない。


敵がこないことを入念に確認すると、偵察のため高度を落としながらシルベー県境を飛行しながら侵略者を探る。

路上に落ちたコンタクトレンズを探すかのように目を細め、ドットと大差ない敵兵に目を見張った。


しばらく飛行していると、平原から低木林に入る道らしき一筋を見つけた。

そこには赤い点が群がっているではないか。

馬と思しき影は道を、そのほかの兵士は森に無理やり侵入しようとしており、帝国軍の兵士に間違いないだろう。


【ポイントI-07から北東距離70,00、敵を発見。規模は大隊と思われる。どうぞ】


ジョンソは無線機で本部に報告を上げる。すでに森林に侵入している分を考えると大隊が入り込んでいると見積もりを立てている。


【H-HQ了解、帰投せよ】


李の駆るMiG17は対地攻撃用の武装がついているにも関わらず即座に家路につくのだった。

新たな魔の手が近づいている事を知らせるべく。

次回Chapter91は8月10日14時からの投稿となります

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