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SOYUZ ARCHIVES 整理番号S-22-975  作者: Soyuz archives制作チーム
Ⅲ.帝国戦役 ゾルターン前編
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Chapter89. battle in holiday part3

冴島らSoyuz上層部が不穏な動きを見せる中、作戦を終えたGチームらは祝賀会を開いていた。


特殊部隊はいかんせん見た目からかお堅いと思うかもしれないが、押し殺しているだけで彼らにも心があるのは周知の事実。


またGチームはロシア系が多い部隊である。

ホームパーティーもアメリカ式ではなく当然イワン(ソ連)式、ハードバスを掛けながら酒をかっ食らい踊り狂い嫌なことを全て吹き飛ばすダイナミックなもの。


主催は隊長のニキータが取り仕切ることになった。あの静かな彼から想像もできないパンク・ロック的な行動だがそれには訳がある。


 シルベー制圧後からチームの一員であるミジューラの様子がおかしいからだ。

いくら決心していても流石に同じ国の人間で殺し合うというのは世知辛いものがあるし、屈強な爺さんでも羽休めなしの連続の戦闘は狂気を孕みかねない。


という事情から、邪魔にならないよう本部拠点の片隅でひっそりとバカ騒ぎが行われることになった。


どこから引きずり出してきたのか、地面には一昔前のソニー製ラジカセが置かれ、おびただしい量のウォッカを入れた木箱を椅子代わりに隊員が座る。


そうして主催のニキータは酒瓶片手に高らかに無礼講の宣言を述べたのだった。



「えー、度重なる作戦お疲れさまでした。俺の思い付き前回でhard bass clubを始めたいと思います。——アルコールの前では立場なんてСукаだ!階級なんてウォッカで流してしまえ!」



その途端流れるような手さばきでウォッカ瓶の封を切ると、砂漠で干からびた人間の如く命の水を飲み始めたではないだろうか。

隊長たるもの手本を見せねばならない、ファーストペンギンが飛び降りた今、ソビエトロシアは無敵だ。


隊員たちは良く分からない歓声を上げながら各々蓋を歯や指、木箱の金具を使って蓋を吹き飛ばすと限度を守りながら蓋を地面に放り投げていった。




—————




——DAG—DAG—DAG…——


ラジカセから音割れしながらエレクトリックな旋律が流れていた。

その背後では数多くの空瓶が転がり、下らない話で盛り上がる。アルコールは時に人を大なり小なり狂わせるもの、酒の席ではそんなもので良いものだ。流石に銃を乱射しないだけ有情だろう。


「おぅ…着痩せするんだな爺さん…」


「装甲を支えるにはこれほど筋肉がなくてはな。」


今回は非戦闘時ということもあってミジューラはホーディンから奪い取った外套をSoyuz野戦服の下に来ていた。

それもXLですらサイズが合っていない有様であり、2m近い身長もあってアバターに出てきたパワードスーツが隣にいる錯覚に思えてしまう。


部下たちはそんなことお構いなしで普段は見せないマヌケ面で踊り狂う。

どこかシュールレアリスムに満ちたフォームは部外者ですら笑いを禁じ得ない。

ニキータは5本目のウォッカを勢いよく流し込む。


「俺が初めて行った戦地は…アフガンだ。23の時だった。山あり谷あり、ムジャヒディンありでたまったもんじゃなかった。——あんたは?」


かなり歪とは言え、互いに戦地を駆け巡ってきた間柄である。そんなミジューラに彼はふと問いかける。


「第三次ガビジャバン戦争の中頃だった。儂が18の時槍歩兵として放り出されたが運が良かったのかアーマーになっていた。第四次が始まる前までは周りの勧めで学問をかじり…。」



「いざ始まればジェネラルで司令官として赴き…帰ってみれば英雄と呼ばれ将軍として統治、そして邪魔モノとして投獄…今思えばいいように使われていたものよ。今は…民のためと言いながら同胞を殺している。覚悟はできていたが時折何のために戦っているのやら…。」



既定現実世界でもエースパイロットが碌な死に目を見ないことも多くある。一度は重役として上り詰め、何等かの不興を買い転落していった例もあることだ。



どうあろうが爺さんの一生は悲惨と言っても差し支えない。

時にして酒は人間の本性を暴き出す。普段頼もしい装甲に覆われたセンシティブな一面を見せてくれる。それが今のミジューラなのだろう。



「HAHAHA!!爺さん来てくれ!今腕なしで腕立て伏せできるのはアンタしかいねぇ!」


遠くよりハードバスと共にゴードンの呼び声が届く。ニキータは傷心の彼に封を開けたウォッカを半ば押し付けながら背中を押す。


「爺さん、その辺にしとけ。一発キメて行ってやれよ。アイツらはマッチョを求めてんだから」


「うむ」


ミジューラは勢いよく酒瓶に収まったアルコールを全て飲み干すといくらか肩を回しロシアン・ディスコへと威風堂々向かっていった。



ニキータ自身、根本的な解決にはならないことは分かり切っていたことだが、少しずつ彼の生きる意義を持たせていけば良いのではないかと思っていた。


絶望的な世の中で考えすぎるよりも楽観的に生きていた方がマシ。

それはソビエトの爪痕を嫌というほど味わったニキータだから出せる結論だろう。


「うっわ、腕立てどころかつま先だけで立てるとかやべーよ!」


「こりゃスタントマンいらねぇや!」


バカ騒ぎは続くが、その裏には不穏なものが手を伸ばそうとしていたのだった。




——————




——ウイゴン暦6月25日 既定現実7月2日 午前9時38分

——シルベー県境ゾルターン側


時を同じくして止まっていた戦線は動き出す。

ジャルニエに続くシルベー陥落を嗅ぎつけたラムジャーは自ら兵を派遣しどさくさに紛れた侵攻を企てていた。上の意向などはどうでも良く、そこにはただの私怨が渦巻く。


部隊にはアーマーナイトもいるほか電撃戦を仕掛けるために騎兵を多く集めていたものの、同じ兵職の中でも装備が違う兵士がちらほらと混ざっていた。


異端軍は重装兵を警戒しているという情報が入っている。


そのため機動力戦は全く無頓着だと一方的に決めつけた将軍はベーナブ湿原を迂回し、地盤が固いが自治区を経由する必要があるため警戒の薄い山側を選ばなかった。


多少のリスクは承知で城に近く、兵の展開を早めることができる海側を選択。

侵攻計画を打ち立てるに至る。


ゾルターンからシルベーに至るルートはこの2つだけであり、気の短いラムジャーとしては実質一択だったと言っても過言ではない。


また動員する兵士は大隊規模が必要となってくるだろう。


だからと言って正規兵を全て出し切れば弾切れに陥り、手薄になってしまう。流石にラムジャーはそのことを考慮していた。つくづく小賢しい男である。


その結果、兵士の全てが提携先のロンドンの人間が占める質の悪い傭兵集団が出来上がってしまった。

士気はそこまでではないが混乱を極めている隣県ではこの程度で十分だし半ば盗賊崩れの兵は勝手に暴虐を尽くし、その資源を持ち帰るだろう。



そう考えるとラムジャーにとってはローリスク・ハイリターン、膨大な資源獲得が見込めるだろう。戦勝したことを考えると思わず汚らしい笑みが浮かぶ。


一部は帝国軍の正規装備で偽装してあるが、ガビジャバン式アーマーナイトや剣士とは思えない盗賊や遊牧民めいた軽装のソシアル・ホースメンなどが集っている以上、偽装は完璧とは言えない。


だが大多数の人間がロンドン所属であるがため、全てヤツらの仕業と言い張れば良いこと。

当人の中ではこれ以上完璧な計画はないとうぬぼれ、早速司令官として顔を出すことになった。




——————




低木が並ぶ平野、ラムジャーの私兵がカナリスの首を求め行軍していた。

司令官は間違いなくこの男に他ならない。しかし彼の兵職はジェネラルのはずであり随伴スピードについて行けない。


「思い知れ小僧、我がゾルターンがいかに優れていることを証明してやろう。ナンノリオンから頂戴したグレートナイトの名と兵殺しの槍で串刺しにしてやるわ」


馬に乗った汚らしい将軍が不愉快な笑みを浮かべながら独り言をつぶやく。

騎兵に追いつくには馬を使えば良いと考えたまでは良かったが、肝心の重装兵の重量に耐えられない。


ではどうするか、アーマーを装備する人間と同じ理屈で馬に専用の魔具を装備させ強化してしまえば良い。


そこでナンノリオンに対し遠回しながらロンドンを送り込むとゴネて開発させた魔道馬具を装備させ自らも専用の鎧を纏ったのである。


これまで存在しなかった兵職なため、命名すらもラムジャーが関わっていた。


鳴り物入りで投下したものの、魔力を持たぬ畜生故に限界は見えている。その結果、全身を最大10mm、最小5mmに留まり本職と比べ中途半端なのは否めないだろう。


そんなことはどうでも良いようでラムジャーは高笑いを浮かべる。


何が異端軍だ、ゾルターンの圧倒的な兵力を持ってしまえばいともたやすく制圧できてしまうだろう。


今まで小憎たらしい金貸しのような将軍に頭を下げず、シルベーの人民の大半を奴隷と化し作物を建設増産することができると考えてみれば笑いが止まらない。


士気がない兵士は適度に間引くとして、ゾルターン県の一味は着々とシルベーに忍び寄るのだった。




———————



——ウイゴン暦6月25日 既定現実7月2日 午前11時54分

——ハリソン空港



様々な戦役にて陰ながら活躍していたOSKER01の偵察機OV-10は一度オーバーホールと補給のためハリソン空港に立ち寄っていた。

民間用にも開放されたハリソン飛行場はハリソン空港と名前を変え、シルベーからくる一部の飛龍郵便が来ることがある程度で実態はハリソン飛行場と大差なかった。


「アレ、出すんで?ほんとに?アルミホイルにカメラつけたアレを?」


一人の整備班が格納庫の片隅に置かれた一つの機体を指さして問う。


「少佐からのお達しだ、ブロンコはバラしてるし今からっても無理があるだろ。なんでこんなMiG17なんて持ち込んだんだ、コノヴァレンコ中尉の趣味だろ絶対…」


MiG17、ソ連のMiG15の完成形ともいえる戦闘機である。


だが製造から50年以上経過した旧式もいいところで、単価の安さから金を余した一般人でも手に入ってしまうほどだ。


現実世界では最新の戦闘機ではあまりに古く、専ら途上国や娯楽用として使われるはずのフライヤーがなぜここにあるのか。

ああでもない、こうでもないと考えていると彼らの目の前に一人の男が現れた。


「お困りのようだね」


古めかしい戦闘機ヘルメット、耐Gスーツ。一筋の光めいて恰幅のいい男が暗闇の格納庫に足を踏み入れた。


北朝鮮からからやってきたMiG男こと、李田所(イ・ジョンソ)だ。冷戦期の戦闘機を乗り回しているすさまじき男だがロシアに踏み入れたことはないという。

最近では学術旅団に便利な航空タクシー扱いされているが、本職は軍用機を操るパイロットである。


「まぁ…たしかにこいつは古いが…。こんなんでも出してくれないか。俺のすべてが詰まってるんだ。」


その力強い言葉はメカマンを動かすには十分だった。




——————




 夢の音速ジェット戦闘機、MiG15らはそう呼ばれていた。

第二次大戦が終わり速度はついに4桁を突破しはじめたパイオニア。


なのだが、その言葉は第一世代という一言で汚されたといっても過言ではない。

レシプロ戦闘機の古い遺伝子を受け継いだ、武骨な計器とコックピットと操縦桿がそれを物語っている。

そんな狭い棺桶にどこか親しみを感じていた。



何を隠そう、自分が空に飛び立つきっかけとなったのもコイツ(訓練機)である。

祖国を離れ、異次元に飛ばされ出会ったのが自分の基点とは数奇なものだ。李は過去をあらかた振り返っていた。


息を呑み、気持ちを一転に集中させると彼は冷静さを取り戻しパイロットの顔になる。

離陸するため整備士が離れたことを確認すると、エンジンを起動した。


————Qrrrrraaaaaaashhhh!!!!!———


燃料という名の血液が心臓に入り、燃焼して推力を生む。その結果すさまじい高音と熱、が生じるのだ。エンジンに羽根とコックピットがついたようなMiG17は特にそれがわかりやすい。


あとは空に飛び立つだけだ。李は無線で管制塔に連絡を取る。


【こちらRED-01から管制塔、離陸可能な滑走路はあるか】


【こちら管制塔、7番滑走路を使用し離陸せよ】


【了解】


古めかしい老兵が格納庫から日の光を浴びながら外に解き放たれる。人民空軍を思わせるような銀色一色の機体はより一層輝いていた。


嵐を濃縮したような音を立て、ゆっくりと7番滑走路へ躍り出ると一気に加速しはじめる。


「いくぞ」


ジョンソは小さくコックピット内でつぶやくと同時に機体は徐々に陸地から離れてていく。


重力からも解き放たれた時の感覚が一番戦闘機乗りとして「生きている」と実感できるからだ。

異世界の音よりも早く、MiG17は空を駆けていった。

次回Chapter90は8月7日10時からの公開となります

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