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SOYUZ ARCHIVES 整理番号S-22-975  作者: Soyuz archives制作チーム
Ⅲ.帝国戦役 ゾルターン前編
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Chapter88. battle in holiday part2

——ウイゴン暦6月25日 既定現実7月2日 午前9時38分

——SoyuzU.U本部拠点


戦場では静と動の役割がある。日常でも往々にしてあることだが、その延長線上である此処にも同じく存在する。


動の役割は現場で敵を排除し占領する兵士が、静は彼らを指揮・判断を下す司令官や背に金を取るためだけに存在する責任者らがそれにあたる。

最も、冴島少佐のような例外はいるが。



こうしてSoyuzという大きな機械は日々動き続けている。


また組織には静と動の中でも上位に立つ人間もいる。ここでは少佐の上に立つ権能中将にあたるだろう。


しかしながらお忘れではないだろうか、Soyuzは地球を股にかける企業であることを。

あくまでこの異次元にある拠点は世界中にある支部に過ぎず、その中枢は虎ノ門に埋蔵されているのだ。



話をこの次元に戻そう。

改めながらSoyuz、いや人類にとって生命が生育どころか文明が築かれている異次元空間の発見はこれまでの歴史に大激震を与えることに間違いない。


この存在は徹底的な隠蔽が施されているとは言え、Soyuzの神となるCEOも大きな関心を寄せており、預言者に当たる専務ロッチナが実地にいる最高責任者 権能と優先インターネット回線でテレビ電話の会合を行っていた。


両者、静の人間ではあるが暇ではないからだ。



——————




「権能中将、散々送った兵器類は活躍しているかね。」


金髪オールバック頭、堅苦しく重たいスーツを着た欧州人の男がモニタに映し出された。彼こそがジャン・ポール・ロッチナ、Soyuz専務だ。


多忙の合間を縫い、戦闘報告書や学術旅団のレポート。メンゲレ博士の提言といった資料に目を通している辺り、本人もこのU.Uに関心を寄せていることは明白。


「——ええ、問題なく躍進しております。送付しました資料の通り、青い部分が占領している部分であります。」


中将は専務の仄めかした言い方を捉えながら的確に答えを返した。


「当然だ。君とその部下の優秀さの表れと言っていい。——こういった戦闘報告書も重要だが、提言ではなくバイオテックからの論文、学術旅団のレポート類も重要だと思っている。…私としてはな。」


「上の意向としてはそちらの事変が解決次第、制約を設けながらこの事実を公表しようと考えている。——君も私も、機密を抱えすぎるのも良いことではない。」


ロッチナの提言はSoyuz上層部の意思といっていい。

何も組織は戦う傭兵派遣会社だけではなく、その膨大の支局にショーユ・バイオテックや食糧生産プラント【ブブ漬け】の運営も担っているのだから。


戦闘結果などは社内のみに通じるが、論文や文化の紹介などは今後の売り込みにも響く。

売り上げを補強するため、これらを欲しがっていたのである。



—————




そんな会合の裏では同じく対面での駆け引きが行われていることを忘れてはならない。

シルベー制圧の際に確保したカナリスとオンスに対しても少佐主導で尋問が行われていた。


 オンスは見張るべき忠誠心故か反抗的態度で質疑応答にすら応答しない始末だったが、それに比べカナリスはというと、まるでSoyuz上層部が基地を現地指導するかのような傲慢ともとらえられる立ち振る舞いで本部拠点に来ていた。


 多くの武装ガードマンが彼の周りを取り囲んでいる物々しい光景であるし、県の統治者と言っても捕虜は捕虜である。


ジュネーブ条約に応じた扱われ方は保証されてこそいたが敵の手に堕ちてもなお貴族らしい高貴な振舞いは多くのスタッフの目に留まるのにさほど時間はかからなかった。


「なんだよアレ、iPhone作ってそうな顔してんな」


「わかる」


「似たようなヤツを見たことがあるがどうにも顔思い出せねぇ、どこかで見たことあるんだけどなぁ、マッキントッシュだったような…違うか。」


移送が行われている周囲では半ば野次馬と化したスタッフが集結していた。

今までこういった敵兵は反抗的な態度を取るもの、と思われた矢先にまるでCEOのような出で立ちで来たのだから。


「お前ら、持ち場に着け」


少佐が声を上げるが、やはり人の波というものは強烈なもので見世物小屋の客は衰える気配を見せない。

 そんな野次馬連中をパルメドとグルードは遠くから見ていた。


「しかしヤツが見に来ねぇな。あのバカならああいうお偉いがコケにされるの大好きだろ」


「あいつはお偉いの顔なんてみたかねぇ、とか言って旅団連中のゴシップなりに行った。」


長蛇の列は尋問室まで続いていた。


 まず部屋に足を踏み入れた冴島少佐はブラインドを下ろし、客人に向けられる好奇の視線を遮断してからカナリスが席に着くのを待ってからパイプ椅子に腰かけた。


モランボン・ジュダル・カナリス。


ミジューラやホーディンからの前情報ではこの男、ベーナブ湿原に眠る泥炭に目をつけ、燃料や農地改良用に手広く売りさばき一代にして巨万の富を得た人間だ。


それに帝国中に独自の販売ルートを持っていることから大富豪を兼ねる若きメガ・コーポのCEOと言っても良い。


そんな彼との間では捕虜尋問というよりも商談めいた距離で始められることとなった。



「上から非合法組織に指定されたとは聞いていたけれど人と話す時に必要なことが分かっているようで助かるね。これだけでロンドンやゾルターンのアレを上回ると言っても良い。何より気分が良ければ口が動くというもの。」



張り付いた顔に潜む大いなる野望に、高貴かつ大胆に切り込んでいく姿。


冴島はカナリスの一言で全てを悟った。

一言を発した時から既に戦いは始まっていると言っても過言ではない。少佐は彼からもたらされた圧をそのまま受け流して返す。



「我々とてこの地の文化というものを分かっていない身、ご無礼がないようで幸いです。

最初に失礼しますが、ゾルターンのアレとは。」



全く持って未知の相手に対し無礼を働いていないことを再確認しつつ、彼の知るゾルターンの情報を引き出そうと試みた。

どのみち航空写真を基に作成された地図によればここを通らねばならない土地。まずは大まかなことから問いただすことにしたのである。



「ゾルターン将軍ラムジャーのことだ。そもそもゾルターン県は前の戦争で生じた捕虜や民を奴隷として大量動員して発展してきた土地。その元締めなのは知っているだろう?」



「知らないのなら話しておこう。とやかく強欲・暴食を形にしたような男、礼節を知らず自分の要求が通らねば軍事力で解決しようとする、取るに足らない小物だよ。きっと私兵とロンドンを使途するんだろうな。間違いなく言えるのは相当に兵力があると踏んで間違いない。」



「僕の元に来たことはあるが他県の物を安く買いたたこうとする割に自分の県の売り物をぼったくり価格で買わせようとするから堪らない。さぞ高度な文化をお持ちなら共感してもえるだろう?」


ただの愚痴に過ぎないが少佐はその中に隠れた情報を素早く記録する。

ゾルターンにはジャルニエやシルベーを超す兵力を持っていること、そして将軍の名前も重要だ。



さらに質問を畳みかけようとした冴島に対しカナリスは手を突き出して自分の要求を述べる。



「——おっと。世の中与え・与えられということを忘れちゃいけない。僕からも一つ。

オンスは今どういう状況なんだろうか?」



相手のペースに乗ることなく、自分の渦に巻き込んで有利なことに進めようという話術テクニック。


テーブル上ではにこやかでもその下では銃を向け合っている状態というのはこのことを差すのかもしれない。

そこまで殺伐としてはいないが、双方利用し合おうという思惑がぶつかり合っているのは事実だ。



「彼に関してだが、将軍と同等の扱いをしている。それに、いまだ聴取すらできないでいて手を焼いている」


冴島はありのままを答えると、カナリスは分かり切った顔をしながら口を動かした。


「まぁオンスらしいと言えばそれまでだね、カレ、真面目だからさ。」


執務中、最も心中を知れていることもあり予想していた。

移りゆく帝国でなお誇り高い心構えを持つ多くない人間だ、敵地に落ち尋問を受ければ反抗しているだろう。


ここまでくると聴取というよりも雑談といった方が良い状況となっていた。めったにない状況に少佐は困惑しつつも、あることを考えていた。



相手が勝手に情報をべらべら話させるにはどうしたらいいだろう。

むしろそんな場面が存在するのかと頭の中を捜索していると一つの結論にたどり着いた。

愚痴を話させれば良いと。


マディソンと酒を交わす際、酔っ払って悪態を機関砲のようにばらまく。ほとんどが設備が悪いだの、たばこの自販機の調子が悪いだの、どうでもよい情報だが「情報」には変わりない。


少佐は策を打つことにした。




———————




「ゾルターンであったことを話してもらいたい。何でもいい、不快に思った方が良いことでも構わない」


 ある意味、これはカナリス逃げ場をなくしたと言っていいだろう。


愚痴を聞くのは確かに苦痛になる。だから相談員らは金を貰って聞いている訳だ。


では金銭が生じない場合ではどうなるか。曲りなりにも貸しができることになる。

この男の言うギブ&テイクを遵守するなら質問はできないはずだ。


「そりゃもう多い、あの県にいるだけでむしゃくしゃする。うちの県を不法に開拓しはじめるならまだしも、無法者ロンドンすら媒介してくるんだ。それがゲンツーに居ついたときは軍を何度も送り込んで討伐したことか。」



「大体、こんな被害を受けてるのは僕だけじゃあない、他の県にも同じようなことをする疫病そのものだ。それにも関わらず本国に媚を打って待遇だけが上がって僕らの声は届かないんだ。

やつらは数だけの軍隊だからやろうと思えば攻め込めるが漏洩したら反乱とみなされて僕らだけが消されるんだ。」



「マトモな方法をとろうと、ダース山を人質にまでしてようやく不正な資金ルートを告発できたくらい。それに賊連中とつるんでる証拠がまるで見当たらないせいで言いつけられたのはこれくらいだ。」


「それに僕みたいな軍人じゃないただの金持ちが将軍という玉座にいれるのもこのおかげでもあるけども、ナンノリオンはそれがなかったから蹴り落されたってもんだよ。」



カナリスというマシンガンは愚痴を吐き続ける。


「まぁいい、その上露骨にロンドンが絡んでいるってのにお上は何一つ動かないときている。

ついでに作物の生産量低下に対して人民の配給を絞り上げてそれを充てようなんてこざかしい真似をしてるのも腹が立つ。」



「——向こうは野原という野原を焼き払って畑にして、そこに村を使って人民をこきつかってる。土の質が悪いから泥炭を使わないとマトモに育たないから労力やカネがべらぼうにかかるんだ。

そんなのをずっと思い付きで続けているんだ。趣味は悪いわ、無駄が多すぎるわ…。」



「無計画な開墾を止めればよいものを、市街地を整備しようと思った土地があのハゲの足跡がついていた時とらもう…。回り巡ってシルベーに害を成すから誰でもいいから滅ぼしてくれた方が助かる。」


人間、盛り上がる話の一つとして悪口がある。

それを引き出せたのは大きい。冴島は判明したことを改めて箇条書きにした。


ゾルターンは観測通り平原であること、兵力が今までよりも多いこと。言いぐさから察するに非人道的奴隷プランテーションを行っており、畑が村と化していること。


また帝国にとって他県の抗議を握りつぶしてもなお、ゾルターンを放置する価値があるということや、シルベーに対し露骨に侵攻しようとしているということ。



それに城の屋根上にいた謎の敵対的集団と交戦、排除した際にパルメドにより敵が所持していたと思しき刻印付きの剣を鹵獲。

現地の人間に見せたところゾルターンと親交があるロンドンのものだと判明した。


カナリスの【ゾルターンはロンドンと絡んでいる】ということからするにゾルターン将軍が唾をつけるために送り込んできた刺客に違いないだろう。


そこから導き出される答えは一つ、泥炭を求めシルベーに攻め込んでくるという事。

強欲・暴食を形にしたような蛮族同様の人間なら必ず資源を強奪にしやってくる。誰も咎めないなら猶更だ。



そのことに気が付いた少佐はいきなり立ち上がりカナリスにこう告げた。


「——ご協力感謝する。我々は早急にあなたの県を守らねばならなくなった。」


唐突に言い放ったことではあるが、その言葉を受け取った彼は卑しい笑みを浮かべる。


「助かるね、君は実に良い決断をしたといっていいだろう。…もしも蛮族だったらダース山を平原にしてやろうと思ったけれども、余計な手間が減ったよ。」


よだれを垂らして欲しがるダース山や資産を盾に自分の思い通りのことをさせる、これがカナリスのやり方だ。


心理面では乗せられていたものの、逆に利益面では少佐を都合よく踊らせていたのである。


Soyuzとして一度占領した地域に侵攻する敵は例外を除いて迎撃しなければならない。少佐はソ・USEを懐から取り出すと無線口で指示を下した。


【LONGPATからH-HQ、これより送信する指定座標に向けOV-10などで偵察願う】


【こちらH-HQ、OV-10は整備中で出せない、UAVを急行させる】


【LONGPAT了解】


Soyuzが動き出すのを尻目にカナリスはどこか優越を匂わせながらほくそ笑むのだった。

次回Chapter89は8月4日14時からの公開となります

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