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SOYUZ ARCHIVES 整理番号S-22-975  作者: Soyuz archives制作チーム
Ⅲ.帝国戦役 ゾルターン前編
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Chapter87. Back fire

タイトル【黒い炎】

——ファルケンシュタイン帝国 帝都


3大鉱山があるシルベーが制圧されたことに帝国は焦りを感じていた。不可思議なことに高山から生産されてこそはいたが、それでもなお帝国の要所がSoyuzの手中に堕ちたことが問題だった。



戦争するには武器や諸々を生産する必要がある、時代が移り変わろうと根幹的なことである。足りないばかりか戦線をいたずらに広げた結果が今日の日本だ。ただし戦線に関してはSoyuz単体を相手にしている分、考える必要はないかもしれない。


国家として領地の2割を占領されて黙っている訳がない。シルベーが陥落後、臨時で賢人会議が開かれることとなったのである。


「シルベーが陥落したことは周知の事実でしょう。ではこれより会議を始めましょう。それにあたって、今回からは新しい賢者が参入することになります。」


紫色のジェネラルの一声で会議が始めらた。


賢者の間にマーディッシュの姿はない。


移送が可決されたため、現在はどこかに幽閉されている。国を本格的に乗っ取るなら処刑でもしているのではあるが、賢人のリーダーである紫の男はレジスタンスを刺激しないとの処置だ。


哀れ極まりない彼の代わりには欲望に濡れたオーラを身に纏う、緑の大鎧に挿げ変わっていた。

紛れもなくゾルターン将軍、ラムジャー。今回は正式メンバーではなくあくまでも呼び出された形である。


そもそも彼が統治する県はレジスタンスの数が皆無に等しいだけではなく、広大な土地で食糧生産を行っている重要拠点。


加えて媚を売るかのように莫大な上納金を納めていることもあって賢者として迎え入れられた訳であった。


政府の中枢に潜り込めた訳ではあるが、いざ来てみると当人にとっては不安を覚えざるを得なかった。


騎士将軍に幾度も代行させ続け、彼がこう言った場に慣れていないということもあったが何より政治を牛耳っているはずの皇太子殿下が居ないのだ。そのこともありユンデルは浮かない顔をしていた。


「——すみません、質問いいですか」


そんな中、ラムジャーは重苦しい装甲の籠手を上げ、議長に疑問をぶつけた。


その瞬間、周りにいる賢者の視線が一斉に向けられた。まるで異端のように。

外からここに来た人間に対して知らないことばかりなので、無理もないだろう。


紫の男は鋼の指で机上を叩き、新参にかかる圧力を分散させた。


この議会はなれ合いの場となりお飾りとなっている帝国議会ではなく、ここで出た案一つで国を左右する賢人たちの場。下らない感情で左右されてはならない。


「——何か?」


「…皇太子殿下はいずこに?でなければアレに政権を奪還される恐れが…」


マーディッシュ・ワ―レンサットは傀儡同然だったが、重要な役割があった。深淵の槍の手から逃れるお守りのような存在だ。


軍とは別に動く組織であるが故にSoyuzとの戦争で不安定になったところを突かれかねないことをラムジャーは警戒していた。

この男、深淵の槍に嗅ぎまわられている身であるが故にこの類のことには人一倍敏感なのである。


彼の質問に対し、暗黒司祭ファゴットが遮った。


「何を言うかと思えば…。理を理解していればなおさら…のぅ、コンクールスよ。その気持ちはわからんでもない。だから私は手を打っておいた。」


ファゴットが手招きすると議会の奥から女性が姿を現した。そこからは若干ではあるが瘴気のようなものが尾を引いており、とてもではないが正常とは言い難い。すると彼は長々と話を続ける。


「——こちらの魔道は何より【人の心で生み出し、使途する】ことが基礎になっておる。そこで私は思ったのだ。魔道なれば人の心を操れるのではないか、とな。」



「解法は正しくその手の魔術は確かに存在する、ユンデル氏よ。そのことは良く分かっておろう。その魔法は過去のものとなる、これを見ればな。ほっほっほ、これでイベル・ワ―レンサットを傀儡にできるだろう」


この女性の正体、それは長女イベル・ワ―レンサットだった。


—————



 そう、紫鎧の男が無策で皇太子を始末するはずがなかった。


この惨状を見れば幽閉している皇族を説得することは不可能。現に次女にあたるソフィアがSoyuzを雇ったことは事実、他も同じく反感を持っているに違いない。


術を使って洗脳すれば良いだろうが、それでは現地視察する際に不自然さが残ってしまう。操り人形とは言え、国民を懐柔する役目があるということを忘れてはならない。マーディッシュはそこが強かった。


自らが望んでこの政権に加担しているからこそ違和感なく国の顔として立てる、だが術ではそうにもいかないだろう。そこでコンクールスはそういった術の開発を彼に依頼した。


「——このような木偶にもできるが私の匙加減でこうにでもできる。」


ファゴットは緑のフードを深くかぶり、ただ指を振った。

たったこれだけでイベルの目に光が戻り、深く動乱しはじめた。


「ここは一体…!?」


その瞬間、彼は再び指をゆすり彼女を深い催眠に寝付かせる。


「そう、これなら術がかけられたとわかるまい。問題ないじゃろう、コンクールスよ。

だが私は格が違う。この者の心の奥では国に反乱できないようにしておる。意識こそできるが体が動かぬ。それどころか無意識で私の得になるよう動くように調整しておいた。

さぞかし苦しかろう、意を決めようと口や指一本動かぬのだからな。」



なんと残虐なことだろうか。

帝国の独裁を止められる立場にいながら無意識下では軍事政権の養分にされ続ける。それにこの暗黒司祭の命令一つで好きなように動かせてしまう。人質や自爆に巻き込む餌に転用できるだろう。


なんせその身は術がかけられたことを知らない。Soyuzが彼女を嗅ぎつけて救出しようとも爆弾にすることすら可能だ。


食らいついて飲み込んだら最後、喉奥には釣り針ががっちりと掛けられ地上へと引きずりだせるとファゴットは踏んでいる。




—————



「貴様、よくもそのような蛮行をぬけぬけと…。人間の心は残っているのか」


あまりに非道な行いに対しユンデルは憤怒した。神の血筋を引く皇帝のご子息以前に、親友の家族に、同じ国の人間によくもそのような真似ができたものだと。


普段冷徹な彼でもこの行いには手を出さざるを得ず、ファゴットの胸倉を掴んだ。

あまりに殺伐とした状況に議会はどよめく。

ソードラインのある意味とは正にこういうことで議会の場では往々にしてあることだ。


怒号と共に掴まれたファゴットは一切の表情を変えることはなかった。その様子にユンデルの顔は歪みを強めていく。



「ユンデル氏よ、いつから人徳を優先するようになったのだ?こうでもなければ我々の政権は革命返しされてしまうのを忘れてもらっては困る。それに議会の場で私情を挟むのは良くないと思うがね…それにアレの心は私が完全に上塗りしたわけではない。当人の意思は残っている、説明が足りなかったことは詫びよう。」



いくら無常とは言え現実主義者の議会で感情をむき出しにしてはならない。そのことを彼は指摘だけで済ませたのだった。

そんな一触即発の状況に対し議長である紫鎧の男は両者の意見を聞きながら折衷案を出した。



「それに、ファゴット氏にこの件を依頼したのは紛れもなく私だ。それにユンデル氏のことは不問とする。帝国も一枚岩ではない、私コンクールスのように純人間・純軍人主義を掲げるものもいれば、マーディッシュ殿下がいたからこそ従ってきた兵もいるだろう。

——イベル・ワ―レンサット殿下の操作は最低限とし、可能な限り人民に疑られないようにすべし。よろしいか、ファゴット司祭」



「うむ、それが良いだろう。」



ダークマージはこう答えるが、ユンデルは言葉を発せずたたずんでいるのであった。


「続いての議題は一部地域においける人民食糧配給について——」


議会は踊る、故に進む。

賢人会議は極秘の談合である。それゆえに警邏を担当する相応の階級の人間にも要人が来ている、とだけ伝えられていた。


「なんで俺皇太子殿下のお付きなのになんで帝都にいるんだ?」


「いきなりどうしたお前…ゾルターンに視察しにいってんじゃないか?陛下。」


扉の外ではあのジェネラル二人が見張りにつく。


その一人は考えことをしていたらしく、マーディッシュ殿下はゾルターンから帰ってこないのがどうにも怪しいということについて。


あれからゾルターンでは音沙汰がないし、兵士の間では行方不明になっているのではないかと専らの噂。

国のトップが席を外してもなお正常に動いているという時点で、専属の護衛である自分らがゾルターンに派遣されず此処でこの扉を守るよう命令を受けているのだ。


帰還命令が出ている時点で不自然極まりない、まるで殿下が蒸発したと言わんばかりではないか。



「それにゾルターンなんて見るモンあるかって話だ。ロンドンの巣窟で、そんでもってきな臭い噂ばっかしかねぇんだ。見せたくないモンがある、

…そもそも話だよ。視察なんて一番されたくないし、あの将軍だって根回しするだろ。俺ならそうする。」



身勝手な推論に相方は残酷な事実を突きつける。


「やめとけよ。俺らは軍人で、こんないい思いしてるじゃねぇか。戦争のあまりモンだった俺らがジェネラルになって、ありがたい役職について…。それを捨てる気か?

それ以上追ったら反乱軍の仲間入りだ、いいのかそれで…」


戦後、兵士は平和になった俗世にとっては邪魔な存在だ。それに適応できなかった人間がこうして革命を起こして素晴らしい世の中にしたのが今である。


それに疑問を持ったが最後反乱軍の烙印を押され優越を味わう側から迫害される立場に転落してしまうのだから。


「そうだよな…」


悲しげなジェネラルの一言が消えていった。


——————



「ゾルターンでは農地拡大を図っていることは周知の事実。

しかしグダール(ジャガイモ)の生産量やコルトピン()の生産量は減少傾向にある。それに対し釈明などあるか、ラムジャー将軍」


議題はいくらか流れ、ゾルターンといった作物生産県の人民に向けての配給から当県の生産量減少について話し合われていた。

やり方は兎も角、農地を拡大しているが生産量は落ちているということを指摘されていた。リアリストたちにとって新参、古参と容赦がない。結果が出ていない以上、どうするかを出さねばならないだろう。


「ははぁ。人民配給量をより削減し、その分を——」


ラムジャーが答えようとするが容赦なくファントンのようにユンデルも言葉を投げかける。


「いくら削ったとて作物を作るのは農民、腹が減っては能率が落ちるでしょう。それに魔具の使用率も低いといった結果も上がっている。」



「そんな前時代的な農作を繰り返していればいたずらに生産量を落とすだけ。金を貯蓄することも重要ですが、使わねば意味を成しません。」


「軍事費の一部から我が省を経由して補助金を出しておりますが、ここでは不透明な箇所も出てきている。コンクールス氏のことも重要ですが、こちらも是非釈明を」



以前よりゾルターンは資金の行方がきな臭い噂があった。そこの責任者であるラムジャーを賢人にしたのは食糧生産を担うだけではなく、この資金繰りに対して追及するためでもあるのだろう。



「我が県では魔具を使用せず開墾などにかかる経費を削減するために値の張る魔具の使用はあまりしない方針でして、資金繰りについてですが、現在資料が手元にないためどうにも…」


彼は苦しい言い訳をした。そもそもラムジャーの県は膨大な貯蓄や豪遊をしていることは判明しており、このための金を転用すれば良いという正論を吐かれた瞬間何もかもが終いになってしまうだろう。


—————



そんな矢先、偶然にもコンクールスより助け船が出された。


「——確かに、資金繰りに関しては追跡が必要と言える。だが今回の議題はあくまでも食糧生産について。今まで開墾していた地域は北方と聞いています、肥沃なシルベー側の開拓についてはどうなっているか。

 また拡大も合わせ、各農地での管理を徹底し取りこぼしが出ないよう対処すべし。」


話が脱線しかかったのを軌道修正するのに加え、彼は今後どうするべきかをまとめ上げるのだった。

各それぞれの専門家がこうして話し合うのだ、互いがぶつかってしまうのも少なくない。



その意見を取り合い、もっともらしいものを打ち立て政策としてフィードバックする。

時に強制力のある命令や草木を育てるように粘り強い事業。すべてがここから生まれたのである。


仮にもこの国を支配する身として求められる標準的なカリスマがコンクールスにある。そうでなければ軍事独裁国家を動かすのは難しい。



しかしこの会議には未だ不可解なところがあった。対外戦争をしているにも関わらず師団単位で投下するというような議題が一切だされていない。


 それはなぜか。議会が終わりを迎えた時にその答えがあった。

ファゴットとコンクールスの二人は互いの持ち場に戻るためしばし回廊を歩いている時のことだ。


「ひひひ、いつ私の集大成を連中に見舞うことができる?教えて下され」


理論的な気迫が失われ、狂喜に取りつかれた笑みを浮かべながらファゴットはコンクールスに詰め寄る。


「まだだ、ゾルターンの半分が占領されたときアレは動かす。——それまで兵の大規模投下はできないだろう。他の者に感づかれてはならない。私とお前だけ知っていれば良い。

帝国はもう少し劣勢を演じてもらえねばならないからな…」


影が渦巻く。

次回Chapter88は8月1日10時からの公開となります

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