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SOYUZ ARCHIVES 整理番号S-22-975  作者: Soyuz archives制作チーム
Ⅲ.帝国戦役 ゾルターン前編
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Chapter86-1. When in U.U, do as the U.U do.

タイトル【異界に入れば異界に従え】

世はすっかり夏。研究の季節がやってきた。

ここでバイオテック職員でも何でもない、物理学者に視点を移そう。


始めの実験からはや数か月たち、影の薄い物理学者は悩んでいた。

何をどうやっても魔力という存在が検出できないからである。


火といったエネルギーに変換される前に、何かしら存在することは確かなのだが実証することが出来ない。


中学生で習う図形の証明よろしくもどかしい上に検出器や方法、条件を変えてもさっぱりだった。

進軍がシルベー県まで向かった頃だろうか。鉱山では魔力の元となる物体を採掘しているという情報が学術旅団を通じて舞い込んできたのである。


そこで物理学者のドクはある仮説を立てた。


[ある程度文明が進んでいるのであれば、探知機の類があるのではないか] と。


それがダウジングのように信ぴょう性のないモノだとしても、魔力を使っているおひざ元であれば何らかの検出法が存在するはずである。そう考えた。


という事だが本当にあるのかどうか怪しい。例に出したダウジングはウイジャ盤同様、眉唾もの。

そんなことがあり得るのだろうか。


計算もいいが何事も実験に尽きる。ドクはゲンツーに足を運んだ。


—————


——シルベー県ゲンツー

という事で学問に物理的に強い物理学者ドクはゲンツーに降り立っていた。

政情が安定しないため護衛が付いているが、その様子は学術旅団やバイオテック職員と一線を画すのは確かだろう。


「世界史の教科書に放り込まれたようだ」


堆くそびえる煙突、区画化された街。ここは工業地帯に人が住んでいるのではなく、巨大なコンビナートに人が詰め込まれている感覚に近い。


それをファンタジーに落とし込んだような不思議な光景。文化人類学をかじった人間が調べたがるのも無理もないだろう。


海原さん曰く、魔鉱石を採掘するのは当然鉱山ギルドの管轄らしく早速向かった。話を付けている分スムーズに進むに違いない。


しかしこの街はよくできている、都合がいいくらいに。区画が設けられているのだが、我々のような人間が来ることを想定し、事務所などは必ず前に作ってある。


そのため迷わず門にたどり着くことが出来たという訳だ。


「学術旅団の物理部門班長をしておりますドク・サンチェスと申します」


質素なドアノッカーを叩くとスリットから職員が顔を出す。


「お待ちしておりました、どうぞ」


家主に導かれるまま、ドクは扉をくぐる。



—————



——ゲンツー鉱山管理ギルド

内部はというと古典的な石造りで採光用の窓が設けられている程度の簡素なもので、何から何まで石畳で構成されている。話には聞いていたが、こうして実際に足を踏み入れてみると異質なことを実感する。


茶菓子を出されることなくしばらく待っていると、恰幅の良い男が現れた。彼こそがここの現場監督に近い人間なのだろう。


「どうもはるばる遠方から。」


「ええ、次元の先から来ました。」


軽口を挟みながら挨拶を交えると、早速本題に入る。


「ここの事を調査しているみたいですが…今回はどのような案件で?」


「ええ、魔鉱石の採掘に関してなんですがね。一体どのように行っているか調査を行っておりまして。我々の古巣にはそのようなものは文字通り、影も形もないものですからいかにして採掘しているのかが気になりましてね」



文字通り影も形もない物体をどう探しているのか。それは物理学者的ではなく一個人として気になって仕方がない。

すると当たり前のように現場監督は答えてくれた。



「あぁ…。それなら最悪何もないダース山の土でも魔力はありますからね。最も精錬すればの話ですが。基本的にここは魔導士が魔力をかぎつけ、そこを採掘しています。他の土地では魔石を使っているみたいですが如何せんここは魔力が強すぎてまるでダメだ」



魔導師とはこの世界で魔力を自由に操ることが出来る存在である。

いかにもファンタジーらしいがそのことはさておき。人間が5感を用いて何かを察知できるように、魔導士らはこのように魔力を察知することが出来るらしい。


そこで一つ引っ掛かることがある。魔石の存在だ。これは資源が豊富なダース山で使う事はないらしい。


これはある関係に酷似している。放射線物質と鋭敏なガイガーカウンターとの間柄だ。

魔力を放射線、魔石をガイガーカウンターとして考えると納得はいく。


ここは酷く放射能汚染を受けており、繊細な測定器を持ち込むと即座に振り切れてしまう。

故に人間と言う鈍い探知機を使って採掘しているのだろう。


「その魔石というのは魔力源に近づけると…どうなるんです?」


ドクは質問を重ねる。


「あぁ…。ずいぶん前だから記憶がかなりあやふやだ。そこは許してくれ。…たしか光るんだよな。そんな気がする。ただもうこの街じゃ取れない。不可思議なことに海岸に流れ着いている事が多いんだと。」


光るのならばその光量を間接的に定量することで探知することが出来るかもしれない。

一筋の希望が見えた瞬間、それは容赦なく叩きつぶされた。


ゲンツーないしダース山では採掘できないというのだ。大方、日本では新潟の川や海辺でしか採取できないヒスイのようなものか。


一難去ってまた一難。ドクは内心ひどく頭を抱えていた


—————


——本部拠点 食堂


帰って来たドクは海原に得られた情報を共有しつつ、ひたすら考えていた。

もはや手詰まりかと思えたが、一度は釣り針に掛かった魚を逃したくはない。


何よりもあのファンタジー的な理不尽さに負けたくはないという執念が彼を動かしていたのである。


何よりも糖分が無くては頭が回らないというもの。食堂で適当なものをつまみつつ、ノート片手に今後について考えていた。


「…さて。定量方法の理論そのものは組むことが出来た、問題はパワーストーンがないことだ」


ノートにはいくらかの図と計算式が書かれている。ほとんど完全な暗室にクォーツを入れ、光量を測定する。

この際使用する単位は放出された光数を数えるルーメンを使う。


似たような単位が非常に多いので少し迷ったが、冷静に考えればマトモな答えにたどり着くだろう。単位にするならば【Lm/m】がふさわしい。


定義としては

[ LM/mは1m離れた場所から1kgの魔鉱石に反応して石が光った光量 ]


というのがもっともらしいか。


ここまでは良いのだが理論をこねくり回す物理学もあるのだがドクが担当している学問は実験を行わねばならない。


そのためには例の魔石が必要となってくる事には何ら変わりなく悩みの種は尽きなかった。



—————


一人でああでもないこうでもないと考えても仕方がないので、ドクは同じく魔法に恨みを抱きながら実験を繰り返す部下を休憩室に集めた。


「…という事なんだ。理論は完成しているがどうしようもない。モノタロウやアスクルに頼んでもこればっかりは取り扱っていないだろう。私だけが困っていても仕方がないので問題をシェアするべきだと思う」


このために研究所と言った場所にはディスカッションルームが必ず存在する。するとコイの池にパンを放り込んだが如く意見が出始めた。


「強さを示せるのなら気圧のように0が存在しないのではないか」


「魔石なら持っていますが」


「光量を計測するのであれば、遮光にはペンタブラックと言った望遠鏡用の塗料を塗るべきなのではないか」


いかに定義付けるか、装置を作るにあたって必要な要件。建設的な意見の数々に混じって、聞き捨てならない言葉が漏れ出してきた。


何事もなかったように混じっていた殿下である!


研究員の顔が一斉に彼女を振り向く。


「いえ、逃亡している最中アーマーナイトのつけている魔具や魔導士を察知するためになかなか感度の高いものをつけていましてね。」


思わぬ収穫だったのは言うまでもない。



—————



やることはただ一つ。早速装置を作ることになった。


デジタル式照度計の感光部に内側をペンタブラックで塗り、魔石を接着した2mmアルミ箱を用意。完全に密封した後0公正を行い検知器の出来上がり。


「かなり大雑把に作ってしまったが…本当に定量できるのかコレ…」


作ってみて後悔した。そのどうち

大学生が気分で作ったような粗末な仕上がりとは言っても、今はこれしか頼れない。愚痴を言うのなら実際に試してからだ。


【あー。こちらドク・サンチェス。ゲンツー本部ですか?えぇ、ちょっと採掘ギルドさんの方に連絡を——】


まずはLm/mかを定義しなくてはならない。ドクはソ・USEを片手にゲンツー本部に連絡取った。




——翌朝


毎度エア・タクシーの運転手と化しているジョンソは喚くこともない物理学者たちに疑念を持っていた。

ドクの片手には粗末なような怪しい測定機器。ステレオタイプの科学者と言っても過言ではない。

何分本当の学者を乗せている分、今どき古風なマッドサイエンティストだと思いヘリはゲンツーへと飛ぶ。


装置が完成した瞬間にゲンツー本部に連絡をしていたお陰もあって話が順調に進んでいるようだ。何事もすぐさま行動を起こすことが重要である。


買い付けるという訳でもなく貸してくれるという事で快諾してくれたのだろうか。ともあれ定量が始まる。


——————


本部拠点では早速測定が始められた。


正確さが求められるためきちんとメジャーで距離を計測。その上にがっちりと固定されているため、研究員たちは這いつくばって数値を確認せざるを得ない。


正直言って非常に怪しい光景なのは言うまでもないだろう。


「27.28ルーメンだな」


「これ懐中電灯にしたら電池切れ間際じゃないか?」


ともかく結果は得られた。


だがこれはただの学生実験に過ぎない。単位として成立させるためには何度も繰り返す必要がある。

気が遠くなるような作業を繰り返して論文が仕上がるのだ、ノーベル賞やGoogleで調べれば出てて来る研究成果も同じような道のりを歩んでいたはず。


そう考えると研究者たちはめげることなく測定と記録、そして平均値の産出やばらつきがないか精査する。


全ては既知にするために。


ついにその結果は文書にまとめられ、その研究概要が権能に提出された。


——————


——U.U世界における未知エネルギーの検知・定量法と単位についての研究


【目的】

U.Uやファルケンシュタイン帝国では魔力と呼称される未詳エネルギーを利用した道具が存在し、魔導士と言った人間が使用していることが学術旅団によって報告されている。


しかしU.U世界における未知エネルギーについての研究では8つの測定方法を用いても検出できなかった。

そこでシルベー県ゲンツーで行われていた魔石測定法を再現、それを元に定量法の検討を行う。


【方法】

未詳エネルギーを感知し発光する性質がある鉱石を24gと照度計感光部をペンタブラックで塗装した遮光アルミ板に固定、箱状に溶接し検知器とした。(図1参照)


また特定の人体や鉱石から未詳エネルギーが放出されていることが報告されているため、1kgの魔鉱石から1m離れた場所で光った魔石の光量を100回計測後に平均化し、安定した数値が得られるか検証を行った。


 さらに安定した数値が得られた場合、未詳エネルギーが多く含まれるダース山の計測や魔導士の探知を行った。


【結果】

1kgの鉱石を1m離れた場所から計測し平均を取った結果、27.20ルーメンという結果が得られた。これをLm/mとし、これを未詳エネルギーの単位とした。


この結果を基に各所で測定を行った結果、実験室では0.008Lm/m ハリソン市街地では0.018Lm/m ダース山(シルベー側)では18.22Lm/mという測定結果を得た。


(図2参照)


【展望】

今後は精度の高いエネルギー測定機器または検知器が試作し、よくよくは敵魔導士や魔導に素養のある人間などの速やかな検知などに使用できるよう研究を重ねていく。

Chapter87は7月31日10時からの公開となります

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