表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SOYUZ ARCHIVES 整理番号S-22-975  作者: Soyuz archives制作チーム
Ⅱ-4.シルベー城制圧戦
92/327

Chapter85. Castle that never sleeps

タイトル【眠らない城】


 ——ウイゴン暦6月23日 既定現実6月30日 午前2時14分

 ——シルベー城


各部隊の脱出後、シルベー城制圧作戦は司令官と現有戦力の無力化の二つを達成したSoyuzはもれなく同県を制圧することに成功。


城に関しては帝国軍侵攻における弾薬貯蔵庫にすることが決められ、直ちに無数のヘリや輸送機を使って建設師団が送り込まれていた。


彼らはジャルニエ城を通信基地と大型航空機を運用する拠点に作り替えた匠であることも忘れてはならない。

開拓・改造・建造が各所で生まれ続ける限り建設機械師団には休みはない、戦闘部隊と同等の過酷な仕事である。


輸送ヘリが着陸し、降り立ったのはある意外な人物だった。


「——重機は届いているな。B班はガラ袋を持ち持てる範囲の瓦礫撤去に移れ。爆破したおかげで城全体の均衡が崩れている。地下を爆破したならなおさらだ。測量も忘れるな、迅速安全に作業を行え」



帝国軍を思わせるような赤い作業服に外套、異様に濃い眉毛と顔。そして軍隊を指揮するような高圧極まりない言い草。ベラ・ホーディンその人だ。


マディソンの気まぐれ人事によって配属された彼は、半ばヤケになりながら仕事を重ね、建設機械師団の現場監督に就いていた。


ホーディンの担当している現場はここだけではなく、ジャルニエ城延伸工事も手掛けている。

と、ここまでは良いのだが隙あらば自分の名前を付けようとしてくるため困った男だ。


このような側面があるため、大隊規模の司令官とあって指揮の適正はあるのは確かなものの、軍隊癖が未だに抜けず非常に高圧的であるがために作業員からあまり良く思われていない。


緑の作業服を身に纏った正に工事の男、大林主任がベラをたしなめる。



「——俺の仕事を取るな。まぁコレの言う事は間違ってはいないのは確かだ。今回の施工は城そのものを弾薬庫にしちまう大仕事で上から速度も求められている。確実にきつい現場になるだろうが俺も仕事だけじゃなく裏方にも回る。眠いだろうが安全第一、今日も一日ご安全に。」


準備を終え、施工手順の説明さえ終わると、無数の男たちが現場に急行するのだった。

 

———zzzZZZZDASH!!!——PEEP,PEEP…—WEEALL…—


観光地にできそうな城塞に重機が蠢き、大きな袋を抱えた作業員が行きかう。司令部がおかれていた空間を利用し弾薬庫に改造するために施工されることになったものの、さまざまなものが立ちはだかる。


戦闘後に残った瓦礫だ。戦闘員であるGチームらはあまり考慮する必要はないものの、これを撤去するところから始めねばならない。


現状は冴島が爆破した影響もあるものの、散々爆弾や機関砲を受けたおかげであちこちに残骸が散らばっており、それに爆心地に近いと思われる場所は基礎がやられ倒壊している始末である。


「こんな夜更けに仕事たぁ、やってられねぇ。おまけにあの禿げオヤジやったら扱いがひでぇんだから」


「わかる」


日頃から酷使され続けても文句ひとつ垂れない作業員であっても思わず悪態が出てしまうありさまだ。

泣く子も疲れて黙る丑三つ時に、選りすぐりのきつい仕事が入った挙句、工期が短いときている。愚痴の一つくらい出てしまうのも至極真っ当だろう。


「何を言っている。至急仕事に戻れ」



そこに現れたのはソ連の指導者、ブレジネフめいた恐ろしい圧力の権化ホーディンであった。

自然発生したシルベスター・スタローンかと思うほど肉体には魔具がつけられてこそいたものの、推定300kg近いガラ袋を携えているではないか。


「り、了解しました…」


メイトリックスもひっくり返る怪力を前に作業員は無言で従うことしかできない。体育会系色濃い職場では筋肉が物を言う。ルーチンワークではなおさら。

現場監督であるホーディンが闊歩しながら瓦礫は少しながら撤去が進む。



—————



ひと時の休憩を挟み、施工は闇夜の中続けられる。工事を邪魔する物体が片付けられた今多くの黄色いショベルが集結していた。


その一方、瓦礫を働きアリのように運び続けていた屈強な作業員たちは休憩所として設けられたプレハブ小屋にて雑魚寝しており、まさに死屍累々と言っても過言ではないだろう。

その傍ら、専門のスタッフが不発弾撤去を進めていた。


照明用の白いLEDに照らされKomatsuやKATOの威圧的ロゴが鉱山で作業するような巨体に貼られている。

これが現実世界の創造神であることは言うまでもないだろう。


測量はもちろん、レンガ造りの通路が埋まっているということで解体のための削岩機ユニットを付けた重機や残土を運ぶドーザーが待機しておりいつでも作業はできる状態が整っていた。


「最深部の部屋にはこの城のお偉いさんが閉じ込められている、気をつけろ!」


主任大林の一声で現代インフラの神々がエンジンを吹かして鋼鉄の腕を振るい始めた。銀色のシリンダーが伸び、芝生を豆腐のように掘り始めた。


その最中、どさくさにまぎれホーディンが城から出ようとしていることに大林は気が付いた。


「おい、眉毛喜望峰。どこに行くつもりだ」


「——私はほかの将軍面子と顔を合わせたくない。妙な名前を作り出すのをやめろ」


現場監督といっても祖国を裏切り領地を掘り起こしている身である。


同国の人間に侵略開墾しているように見られたくないのだろう。同じ将軍として気まずいことこの上ない。身の上が違うとは言え、似たような経験がある彼はそれ以上追及することはなかった。



—————


 ——ウイゴン暦6月23日 既定現実6月30日 午前4時38分

 ——シルベー城司令部付近


工事も順調に進み、ドーザーが残土を片付けていた時である。二人のもとに作業を一時中断して良いかの確認とともに作業員が駆け込んできた。


「主任、監督、クレーンかなんか使いたいんですけど」


「どうした。まとめてドーザーで片付ければ良いだろう。それにどうして作業を中断したんだ」


大林はありのままを聞こうとするが、ホーディンはどこか察したようで休憩室に行ってしまった。


「それがですね…あるモノを掘り起こしてしまいまして…」


 作業員につれられるまま大林は現場を確認しに行くと、瓦礫や土砂に埋もれながら銀色の何かが発掘されていた。


不発弾は撤去し終わったという報告が来ていることや、本作戦では地中貫通爆弾を使用していないことから、この物体は爆弾の類ではないことはわかってはいた。


しかしここは何が起こるか分からない以上、大林の知識量だけでは判断できないままでいた。


彼は記録用デジタルカメラで手早く撮影してから早速本部に判断を委ねることにした。

決断に困ったとき、独断専行ほど危険なものはないからである。



早朝とは言え大規模な作戦後である、担当者は応答してくれるだろうか。

大林は目を細めながら端末を耳に押し当てしばし待つと本部拠点と繋がった。しかし自動転送のメッセージが流れ、たらいまわしにされた。



【ああ、もしもし。えー、建設機械師団の主任の大林なんですけども。ちょっと作業中に自分でも見たことのない妙なものを掘り出しまして。】


【こちらゲンツー代表冴島です。画像送っていただけませんか】


応答したのは作戦司令の冴島少佐。

こんな時間だというのにも関わらず眠気を帯びず昼のようである。いくら強い男だとは言え、いささか不気味だ。


ともかく大林はデジタルカメラで撮影した写真を端末にて送信する。

しばらく考え込むように向こうが黙っていると、数拍おいてから返答が帰ってきた。


【うちの部隊が排除した騎士将軍…いや、大林さんがいる城の補佐官で間違いありません。推定3tありますのでほとんど物資の回収と考えて構いません。



抵抗を試みると思いますので不発弾処理で向かわせているスタッフの立ち合いの元引き上げ作業を行い、拘留してください。将軍も同様です。

7時よりハリソン飛行場より回収ヘリを向かわせますのでそれまでよろしくお願いします】


【了解しました、失礼します】



大林は思わず目を覆った。おおよそこの城の代表者を掘り起こしたというのだ。おまけに成人男性の図体をしながら中型トラック並みの重さがあるときている。


何かの間違いだと思いたいが、きっちり確認したうえ写真まで撮影したのだ。皮肉にも質の悪いドッキリではないということは自分自身が証明してしまった。


それに武装解除していないという発言から鑑みるに、抵抗してくることは間違いない。

鎮圧を考えると、どうあがこうとも施工が遅延するだろう。

不発弾のほうがマシなものを掘り出してしまったものだ。彼は頭を掻きながらそう思うのだった。



—————



作業をいったん止め引き上げ作業が始まった。最初に化石を採掘できてしまうほど繊細にショベルで土砂をかき分け、足が露出した時点でまとめて掬い上げる算段だ。


拘束用設備がまるで思いつかなかった大林は暫定的ではあるがユニックで吊り下げることにした。さすがにどんな人間も干柿のようにぶら下げれば抵抗はできないと踏んだ。


———WEELL…——


昨今の重機は非常に滑らかに動き、まるで人間の腕でやるのと大差ない。加えて建設機械師団の腕前をもってしまえばデッサンすら夢ではない。


大胆にバケットを下すと、爪で周囲の土砂をどけていく。

そのためにはレバーをコンマ・ミリ単位で動かさねばならない。純粋に集中力と忍耐力が要求されることは間違いないだろう。


大いなる神の腕と追従する爪を振るい、女像を彫りだすかのように少しずつ削っていく。

まるで鉱石に潜む宝玉を割らないかのようなものである。


重機の小さな動き一つでとっても人間に当たればただでは済まない。職人の額に汗が走り、息を止めているため胸はピクリとも動かない。


狭い乗員椅子で坐禅の如く精神を尖らせ、レバーを動かすのだ。

マシンをゆっくりと動き始め、いつしか時間を忘れて瓦礫をはがしていると大林から連絡が入った。


【足が見えた、上出来だ。引き上げるぞ!】


【了解ィ!】


彼は背もたれにどっと体重をかけると、止めていた息を大きく吐いた。


—————



 ショベルカーによって埋没していた騎士将軍は掘り出された。石に掛かった釣り針が外れたら引き上げるだけだ。

ただ異なる点は一つ。リールを巻けば良い釣竿とは違い糸を巻き上げるにも労力がいることだろう。


ショベルのバケットに作業員を入れて投下すると、クレーンにつながるワイヤーを人力で玉掛けし引き上げることにした。


「重量3tなんて本当なんすかねぇ、マネキンにしか見えないっすけど」


一連のことを済ませると、作業員が脇の同僚にこう話を振った。

鎧よりも精工に作られたロボットの着ぐるみか何かにしか見えず、それが中型トラック並みの重さがあるというのだ。どうにも信じられない。


「…上がそう言ってるんだから間違いないだろ、引き上げてくれ!」


作業員の仕事はあくまで上司からの指示を貰って動くこと。兎も角上がクレーンで引き揚げろというのだから、ただ従えば良い。


指示を受けるとワイヤーがこわばり土煙を上げながら少しずつ持ち上がっていく。

その最中、オンスのガントレットが微弱ながら動くことを知らずに。


引き上げられた騎士将軍はひどい有様だった。

至る所に強い衝撃を受けた痕跡が月面のように広がっているだけではなく、クレーターは頭部や胸部に集中し刑事事件なら強い殺意を持った犯行だのと言われること請け合い。


それ以上に見たこともない合体ロボットめいた姿を一目見ようと作業員が詰めかけていた。


「お前ら、作業に戻れ!」


大林が群衆をかき分けながら持ち場に戻るよう声を上げる。


作業が中断されただけで施工中止になった訳ではないし、第一引き上げたこの大鎧、確証はないが死体が入っているとは思えない。

その時だった。突如鋼鉄の甲冑が動き出したではないか!



——ZoooM——ZoooM!!——


鎧が動くたび装甲板が揺れ、辺りを地響きが轟く。

亡霊でも入っているのだろうか、否。あれだけの外傷を受けてもなおオンスは生きていた。あのままミジューラに殴打を受けていれば死をいう運命が待っているはずだった。


しかし分岐点はそこにつながることはなかった。


完全に息の根を止められる前にニキータに呼び止められ止めを刺さなかったのである。

たとえ通路が崩壊してもなお分厚い装甲が瓦礫から難を逃れていた。その他多くの偶然が重なってオンスは生きている。


彼は背中に携えられた槍筒から一本の手槍を握ると刃を作業員に向けながらこうつぶやいた。


「——シルベーの地を汚させはしない」


その言葉ひとつひとつに確固たる殺意が込められていた。


全身打撲や瓦礫に埋もれて常人では指一つ動かせるような状況ではないだろう。彼は異端人をこの城から叩き出すという執念だけで二本足で立ち、槍を振るっているのだ。


オンスの目に映る人間は全て敵にしか見えなかった。自分以外の動く物体は異端人であり倒すべき仇だと身勝手な自己暗示をかけ、作業員に襲い掛かった。


「マジ3tだ!やべぇ!」


「なんで俺が鎧武者にやられなきゃなんねんだ!死にたくねぇ!」


「クソが犬神家の呪いだ!」


フランケンシュタイン博士の怪物が街中に現れたが如く、現場は叫び声と悲鳴に包まれパニック・ムービーのように騒然と化した。


—————


 相手は生身、それも非武装の人間である。

仮にも槍という原始的武器で武装しているジェネラルの攻撃は作業員を殺めるのにあまりにも十分すぎた。


彼らはその屈強な身体能力を発揮し、振り上げられる槍をなんとか避けながら一目散に逃げていく他しかない。

鉄パイプ程度のリーチと威力では戦車並みの装甲ではびくともしないことはわかりきっていたからだ。


また桁違いの重量は巡り巡って作業員の命を救うことになった。


オンスは歩くことしかできず、死に物狂いで逃げる作業員に追いつくことができないのだ。その代わり投げ槍が飛ぶことになるが当たる確率はむしろ下がったと言える。


それに下手にアーマーナイトだった場合、機動力であれば容易に追いつかれ惨殺されてしまうことだろう。


あまりの事態に大林も尻尾を巻いて逃げるだけに留まらない。動乱する中無線機をなんとかとして取り出すと素早く指示を飛ばす。


【緊急事態発生、急いできてくれ!】


【了解、現在急行中。5分以内に到着する】


なんということだろうか、不発弾処理を兼ねる武装スタッフは休憩を取っていたのである。彼らも人間だから無理は言えないが、到着に5分。鎮圧にいくら時間がかかるか分かったものではない。


どうすればよいか。大林は考えた。


噂によればこういったロボット兵もどきには銃弾が効かないという話を聞いたことがある。


確実に人を殺せるだけの火力を探すだけでもやっとなのに、それよりも強いパワーを叩き込まなければならない、手段はないように思えた。


そんな時大林は何か使えるものがないだろうかと辺りを見回した。あるではないか、銃弾や鉄パイプを遥かに凌駕するパワーが。


威圧的なKATOの文字を連ねた油圧ショベルだ!




—————



【ショベルに乗ってるやつがいたらヤツにゲンコツくれてやれ!】


【了解ィ!】


建設機械師団の面々と大林は以心伝心、これ以上の指示は必要ない。

職人操るショベルが旋回し、肉体から伸びる二の腕を振るうが如くバケットがオンスに強烈な一撃を見舞った。


———GASH——


そう、彼は手加減をしていた。あくまでも確保対象と指示をされている以上殺してはならない。しかしながら弱すぎることもない絶妙なラインでのことだ。

動き一つとっても一流なのがまさに職人と呼ばれるのである。


重量のみならず油圧という筋肉から生み出されるエネルギーは相当なもので、たった一撃で巨漢が入ったジェネラルを気絶させてしまった。


【上出来だ。さぁ、とっとと吊るし上げるぞ!】


大林が無線を入れると、作業員を集めオンスに対し再び玉掛けを行いはじめた。


戦いが終わっても休まるのは兵士だけで、他のスタッフの仕事はようやく始まる。学術旅団、建設機械師団や整備士。Soyuzに休みはない。

次回Chapter86は7月27日14時からの公開となります

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ