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SOYUZ ARCHIVES 整理番号S-22-975  作者: Soyuz archives制作チーム
Ⅱ-4.シルベー城制圧戦
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Chapter84. Coin is Heads or tails ?

タイトル【コインは表か裏か?】

——ウイゴン暦6月22日 既定現実6月29日 午前11時48分

——シルベー城司令部付近


誰も歯向かうものが居なくなった今、Gチームは長い回廊を駆け抜ける。

ミジューラによればここの将軍は膨大な資産を持っているとのことで、逃走された挙句その資産を悪用しSoyuzに立ちはだかってくるのは確かだ。


続いて制圧面においても懸念事項が浮かび上がる。


戦うことのできない城主。もとい司令官が策もなくぽつんと行き止まりに居座る筈があるだろうか。ふとニキータは考えた。


もし自分が将軍の立場なら逃亡できるよう立ち回るだろう。そう逆算した結果、見取り図には存在しない隠し通路があるのではないか。


推理はホームズら名探偵に任せるとして、ただ一つ言えることがある。カナリスに時間を与えてはならないということだ。


【爺さんは突入後、後からついてきてくれ】


【うむ】


ニキータはアーマー相手に滅法強い彼を後方に配置した。ジェネラルは特有の足音だけではなく歩くたびに地震と見まがうほどの地響きを発生させるからだ。


これは敵に威圧感を与えられる効果が期待できる一方、接近してくる存在を感づかせてしまう。奥に居る目標に察知されたが最後、隠し通路を用いて脱出されてしまうだろう。


時間は一秒たりとも残されていない。殺気と足音を消した隊員たちは投げられたダーツのように扉に集まった。ヘッドフォンを装着後、ハンドサインにて指示が送られる。



すかさず隊員はM4にマスターキーを装着し蝶番を吹き飛ばした。そして後続のトムスが解錠された扉の隙間からフラッシュを炊く。

マグネシウムの病的にまで白い閃光とけたたましい轟音からニキータ率いる特殊部隊がなだれ込んでいく。

これこそ彼らの本領、屋内制圧だ。


投降勧告を行う合間もなく突入すると、カナリスは既に城外へと通じる道を登ろうと背を向けていた。Gチームの制圧があと一歩遅ければ逃亡された所だろう。


「——ここまでか。だが僕はお前らのような軍人の誇りなど持ち合わちゃいない。こんなところで貴様ら異端に潰される訳にいかない!」


将軍は錯乱しながら捨てセリフを吐き捨てながら振り向いた。

目つぶしができていないのは明らか。逃走する際、偶然光に背を向けていた。なおかつ通路にめり込んでいたためフラッシュ・バンの閃光から逃れたのである。


【目標無力化できず。どうしますか】


【付近にいる隊員は射撃を続けながら追跡せよ】


ゴードンから逐次報告を受けるとニキータは瞬時に足止めをかける。


——PATATATA!!——


カナリスに向け銃殺刑めいて弾丸が降り注いだ。教育された重装兵では足止めが精いっぱいだ。しかし鍛錬がぬるい彼にとって弾の幕ではなく、押しつぶす壁となって襲いかかったのだ。



それでいながら銃撃を加える側は動くことができる。

動きを止めている間、トムスらが拘束すべく接近すると、将軍はいきなり振り向き暴れ始めたのである。質が悪いことに聴覚がつぶれているため投降勧告が聞こえないときている。


「やめろォ!離せェ!」


「逃げるな!おとなしく投降しろ!」


手にしているものはミジューラの持つ鋼の槍ではない、それよりも一段階上の銀等級槍。

ぎらりと光る刃はこれまでとは比較にならない切れ味を持つことは間違いない。


最悪のケース表面の防刃ボディーアーマーさえも切り裂かれてしまう。銃を片手に彼はどうするのだろうか。



—————



「えぇい、離れろォ!」


接近戦では判断力がモノを言う。追い詰められたトムスは槍に臆することなく背中よりライフルを取り出すとありったけの弾丸を吐き出させた。


———ZLADADADA!!!———


突拍子もない攻撃は貫通こそしないものの、衝撃の雨を浴びせられたカナリスは怯んでしまう。まだまだ時間を稼がねばならない、持ち合わせのマガジンをすべて撃ちつくすとサイドアームに手をかけた。


「あぁ、クソが!」


意味不明なことを口走りながら手持ちの銃を乱射し続ける。

たかだか自動拳銃、すぐ弾切れになってしまうも諦めなかった。

続いて背負っていたRPG16で殴りつけ始めたのである。決死で逃げる者と逃すまいとする者。もはやそこに高度な戦術など存在しない。


その時である。


【LONGPATから各員、まもなく城内武器庫に敷設した爆薬が起爆する。安全を確保せよ】


———TIK,TIK,TIK…———


すさまじい縦揺れが各々を襲った。

潜入の際に設定した起爆装置が今になって作動したのである。

帝国の城は内装すべてにタールを塗り火災に強いよう作られているが火薬や爆破魔法の希少性故、内部から発破されたとき耐えるとは限らない。


逃走用通路はあっという間に瓦礫で塞がれてしまった。カナリス確保は諦め脱出する他ない。


【待避急げ!奥にいる爺さんは先に行け!】



ニキータは無線に叫びながらチームの先導を取り、将軍に目もくれず一目散に逃げていった。

聴覚の消えた無音の中、カナリスは崩落を迎える指令室から出ようとした瞬間あらゆる出口が封じられたのだった。



—————



【G TEAM READERからLONGATへ!通路が崩落するため後退急げ!】


【こちらLONGPAT、既に後退している。こちらのことは気にするな】


残された時間は短い。時間が進むにつれ状態を悪化、脱出不能になる事態だけは避けなければ勝った意味がなくなってしまう。遠足は帰るまでが遠足である。


冴島の搭乗するBMDも脱出のため苦難していた。

装甲車両はたださえ視界が狭い上に長い距離をバックするようにはできていない。

大前提として履帯で方向転換してしまえば良いよう設計されているためである。



車両備え付けの鉄帽を被り落下物の危険を承知で少佐は車長用ハッチから身を乗り出すと、無線機を片手に振り向いた。車両がこれ以上進めないと判断するより前から通路は狭くなりつつあったようで、方向転換はできそうにない。


【合図があるまで後退し続けろ】


BMDは鈍い速度で後退を始めた。

前進するのが早く、バックするのは遅い。どんな車でも変わりないが緊急事態には心底恨めしい。こういった時こそ焦りが先行するものだが少佐はぐっと押し込め指示に徹する。


【右折。——そのままバックでいい】


構造物は敏感なヤジロベーのようなもので、どこかで綻びが生じるとそこから一気に崩れていくものだ。たとえ揺れが収まったとしても城内部はダメージを受けているのは事実。


つまるところ慎重にかつ、急がねばならない。

ひとたび加減を間違えればドミノ倒しのように倒壊し始めたが最後、部隊の全滅も考えうる。


戦場ではこのような無理難題が降りかかるが、それに立ち向かわねばならないのが常だ。



———————




崩れ行く地下通路から難を逃れたのは少佐のBMDだった。司令官であることもさることながら、車両であること。またそれを操る操縦手も優秀だったことも大きい。


【こちらG-TEAM READER!出口まで推定100mを切った!——しまった崩壊が始まりやがった!爺さん、大丈夫か!】


一方、Gチームは崩落が近いというのに取り残されていた。

たかだか400mなのだから全力疾走すれば良い話ではあったのだが、ある一つの難関がそれを阻んでいた。


超重装甲兵、ミジューラのことである。

前進している時は中隊規模の魔導士隊の攻撃を受けてもなおビクともせず、オンスを撃退した頼れる味方。


しかし50mmという常識外れにも程がある金属板を隙間なく身に纏っているが故に走ることができず、どれだけ急ごうが早歩きでやっと。分厚い鎧を脱ぐにしても時間は止まってくれはしないだろう。



出口で詰まらないよう、ゴードンのような軽装備の隊員を先にトムスやグレネードランチャーを持つ重装備の隊員は絶望的までに足が遅いミジューラの援護に回っていた。


彼らは敵の屍を乗り越え突き進む。ここでは夥しい魔法が浴びせられたことが走馬灯のように蘇る。と、その時である。


「——くらえ!——」


あろうことか死体のふりをしていた魔導士がこちら向けて青白くに光る手を向けているではないか。風魔法ファントンを見舞おうとしており、もう間に合わないかと思えた。


——DANG!DANG!


すかさずニキータは目にもとまらぬ速度でライフルを取り出すと風刃ごと手を、そして頭を撃ち抜いた。


「手間取らせやがって、行くぞ!」


崩壊が始まった。

次回Chapter85は7月24日10時からの公開となります

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