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SOYUZ ARCHIVES 整理番号S-22-975  作者: Soyuz archives制作チーム
Ⅱ-4.シルベー城制圧戦
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Chapter83. Mortal Combat

タイトル【命がけの戦い】

血濡れた軍靴の音が通路内に反響し、背後では頼もしい地響きがその後を追う。

この先待ち受けているのは難敵であることは誰でも知っているが誰一人として逃げようなどと微塵も思わない。彼らには苦難を押しのけるだけの腕と装備があるのだから。


万が一、ジェネラルが出てきた場合はミジューラが動きを止めることになっていた。

だが過剰な装甲故に双方勝負がつかないことが多いに予想されるため、最後の止めはトムスの持つRPGで着実に刺さねばならない。


いくらか前進していると、先頭のニキータが各隊員に向けて手の甲を向け静止を意味するハンドサインを掲示する。


———ZooM…ZooM…——


その途端、司令室の方角からあの地鳴りがし始める。いかなる装甲兵器の振動とは異なる敵は姿を現した。


フランス料理人のような細長い兜、狂気とも言える分厚い胸当て。腰には垂れ幕と背負ったマントがたなびき、片方には槍を片方には赤い紋章の入った巨大な盾を手にしている。


ミジューラの鎧をそのまま銀色にしたジェネラル、オンスであった。


【儂がケリをつける】


ノイズ交じりに覚悟を決めた力強い声が無線に流れる。

歪んだ祖国を正すため、彼はあえて同胞を殺す。たとえそれが稽古をつけた相手であっても。

ミジューラはゆっくりと盾と同時に足を大きく前に突き出し、大斧を握る手を半身に隠すように構えた。


戦闘態勢に移るのを確認するや否やトムスは素早く分割された砲身を組み立て、腰に吊り下げられた弾頭の安全ピンを引き抜くと発射機に挿入し撃鉄を引き起こす。


その合間に他隊員はバックブラストに巻き込まれないよう二手に展開し、各々武器の照準を超重歩兵に向けた。

ここまで来ておいて両者、引き下がるわけにいかない。



出会い頭、互いの将軍は体制を崩さず早歩きで向かっていく。新式鎧を用いた白兵戦は帝国では初である。

本来この50mmという歯止めの狂った防御力はあらゆる攻撃から司令官を守るためや敵からの攻撃に対して盾になるためにある。


ましてあまりの重さから動きが制限されることもあり機動力を求められる屋外戦では使用されないこともあり、これまで交戦する機会はなかった。


オンスは敵に向けて歩む一方、ミジューラは突如足並みを止める。


——ZoooM…!——


そればかりではない。現代小火器を否定する25mmの鋼板で出来た大盾すら捨て、斧を上に放り投げたのだ。トチ狂い戦意を喪失したのであろうか。


武器のない敵など殺すことは容易い、これまでにないチャンスを前に銀のジェネラルは迫る。

槍を一回転させ鎧の隙間に突き立てようとした瞬間である。


ミジューラは向けられた刃を脇で押さえつけ、落ちてきた斧を空中で掴むと3tの重量とそれを運用する重機めいた力を一点に集中させ槍を握る手首めがけ振り下ろした。


———ZGAAASH!!!!!———


この世のモノとは思えないおぞましい金属音が広がるが、頑丈な斧の柄が竹箸のように破断してしまう程の衝撃。到底防げるようなものではなかった。


槍という武器の性質上、この場では突くことしかできない。斬撃は阻まれてしまうからだ。

自分だったらどこを攻撃するか。

アーマーナイトであれば装甲の隙間がある脇腹を攻撃するだろう。正確な攻撃程回避するまでもなく予想しやすい。槍を長く使ってきた彼だからこそわかることである。


あまりの衝撃を手首付近に受けたオンスは槍を反射的に手放したのを見逃さない。鋼の槍を奪取すると司令室に向けて放り投げた。


装甲が分厚いならその重量をもって殴り殺せばいい。それが歴戦の戦士が導き出した結果だった。



—————


 双方の武器を失われ、両者に残されたのは盾だけだ。互いの隙をくまなく探しそれを突く、泥仕合と言っても過言ではないだろう。


盾を拾ったミジューラを見たオンスは迷わず猛突した。欺くために捨てた盾が仇となった、かと思われた。

彼とてそれを知らず防具を捨てたわけではない。この身の装甲で突撃を受け止めた。


重装歩兵を極めた男らと、彼らの持つ正義がぶつかり合う。


「英傑ミジューラ・ヘン・アルジュボン将軍とあろう者が、祖国たる帝国に歯向かうと言うのか」


「儂が歯向かうのは帝国にあらず、皇帝陛下を愚弄するのみか、帝国を内より踏み荒らし食い潰さんとする反逆者共であるぞ!」


「貴公も軍人であろう、しからば祖国の命には服従の一念にて従うのが軍人ではないのか!」


「儂は軍人である以前に、陛下の国民を預かる領主為政者である!国民を不幸に晒すばかりか、搾取を続け私腹を肥やす賊党めらは厳に懲罰せねばならぬ!」


「祖国に歯向かう反逆者が何を申すか!」


「陛下の行方が知れぬからと祖国を食い荒らす賊党共を良しとするか貴様!ならば今ここで、儂自ら懲罰してくれよう!」


オンスは憤りと深い悲しみに満ちていた。


青い鎧のジェネラルに遭遇した時オンスは薄々察しがついていたが、ヤツが斧を構えた瞬間、オンスはミジューラであると確信してしまった。


第四次戦争の終結後、将軍カナリスをお守りするために稽古をつけてもらった。あれから必死に自身の素養を伸ばし新式鎧を身に纏うことができたのである。


時を経て、かつての師を反逆者として相まみえるとは現実はどんなに残酷なことだろうか。

敵となった以上情けは無用。ただ一身に反逆を企てる売国奴を殺さなければならない。



 彼らの戦いを後方で見ていたニキータはこうなることを予期していた。

互いを貫けない槍が戦ったら何時まで経っても勝負はつかないのは明白。

では誰が区切りをつけるのか。それは他でもない外的要因、つまるところGチームのことである。


【爺さん、もういい。動きを止めろ】


ニキータは見かねてミジューラに指示を飛ばした。

トムスは膝を地につけ、スコープをのぞき込む。だが射線上に爆風の影響を受ける味方がいる以上、トリガーを引くことができない。

発射するかどうかは最前線にいる彼に委ねられているのと同じだ。


【ヤツは儂一人で殺し切れるが時間がかかる。援護を要請する】


ミジューラは感情的になることもなく短く的確に伝えた。

戦いの中で冷静さを欠き、感情的になることはまさしく自殺行為。目の前の敵に対し時間をかけず排除するかのみ考えていたのだ。


【了解。援護開始】


二人がいがみ合う中、大量の銃口が向けられた。




——————


 

——BLATATATA!!!!——PONG!!——


数多の銃弾がオンスに襲い掛かる。通常のソルジャーや騎兵相手にはひとたまりもないが50mmというふざけた装甲を前には痛くも痒くもない。

しかしながら矢よりも圧倒的に多く、そして速い鋼鉄の嵐はオンスの集中力を削ぐのに十分だ。


弾丸は踊り、40mmHEATは盾を蝕む。援護に乗ってミジューラは鋼鉄に包まれた己の拳を叩きつけるのだ。


——ZGASH!!! ZGASH!!! ZGASH!!!———


ジェネラルの鎧はあまりの重量で斧やメイス殴ろうが剣で切ろうが、剰え銃弾や機関銃の衝撃を無視することができる。




しかしそれは相手の質量が少ないから故可能な芸当だ。もしここで同程度の質量の物体がぶつかればどうなるか。答えは出ていた。


オンスはいくらか盾で猛攻を受け流してはいたが、少なからず鉄拳の直撃をもらって肉厚な鎧の一部が凹んでいる有様。


それに殴られるにつれ彼は次第に動きが鈍っていき、何度も飛んでくる拳の餌食になり続けていく。


ただそれでも懸念があった。

あまりに大きい盾故に、自身の体をつい立てにしてまるで壁のようになられたら引き剥がすのには手を焼く。この盾を封じなければなるまい。


ミジューラは単純かつ、重要なことに気が付いた。自分ひとりで戦っているのではないのだと。



——————



 銃撃のスコールは晴れない。

味方の流れ弾に当たりながらミジューラは拳を振りかぶるかと思いきや、マントを靡かせながら回し蹴りを見舞う。

突き放すような一発にオンスは盾で防いでも後ずさりしてしまった。


どういった形にせよ、敵はこちらに背を向けたのである。何か企んでいること位たやすく想像できたがこちらとて引くわけにいかない。



鎧をボロボロにされながらオンスは背中に隠してあった手槍を一本引き出し、くるりと一回転させて投擲するべく振りかぶった。


彼が敵に背を向けたこと、それはRPGを発射されても問題ないというサインであった。

ためらいなくトムスは引き金を引く。


——DaasssSSSSHHHH!!!!——


ロケットモーターを点火しグレネードと比較にならないほど炸薬が詰まった弾頭がオンス目掛け飛んでいく。


銃弾より遥かに遅いとは言え、人がまともに反応や追従することすらできない速度で鋼板に着弾、信管が作動した。

この弾頭はタンデム弾頭と呼ばれる二段式HEAT弾。

最初に精製されたメタルジェットが25mmのシールドを段ボールめいて貫通し、二段目がオンスに襲い掛かる。


自動小火器を否定することができても、必ず打ち砕く存在が生まれてくる。RPGはその集大成ともいえる兵器だ。


——ZA-DoooOOOMMMM!!!!——


爆風を後ろにミジューラは佇む。無数の破片がマントを切り刻み、鎧にいくつも食い込んでゆく。現代装備でも即死は免れない状況だが、戦車にも匹敵する装甲を前に砂粒を投げつけられているのも同じこと。


盾と武器を失い腕力も満足に発揮できない状況にも関わらず、彼は慈悲を向けようとしない。

誇り高き騎士が死ぬときは命を落とした時ではない、憐れみを持たれた時であることを知ってのこと。


現代的倫理では無意味な攻撃に見えても帝国の理念では慈悲深い行為と言えるだろう。

彼は拳をもって止めを刺す気だ。敵として、殺す責任を一身に背負って。



——————



 どんなに絶望的であろうとも人間は一筋の希望を持つものだ。

散々揺さぶられ、自慢の装甲は拉げ体が満足に動きそうにない。まさに背水の陣、だからこそ此処で動かねばならない。


オンスは決死でその体を立ち上がらせたが、敵兵士の前では一人の兵士どころか藁人形に等しい。


反撃を封じるためミジューラはできる限り胴体めがけ蹴り上げオンスの重心を突き崩した。


組手ならばこれで終わりだろうが、殺し合いが繰り広げられる場であることを忘れてはいけない。

壁に追い込むため3tという圧倒的質量が乗った重いパンチが何発も降り注ぐ。


———ZoooOOOMMM…———


蓄積したダメージもありオンスは音もなく倒れた。

それでもなおミジューラは追撃をやめようとしない。そんな時ニキータから彼に忠告するような声色で指示が下る。


【敵無力化を確認。——至急司令室制圧に急行せよ。繰り返す。至急司令室制圧に急行せよ】


この超重歩兵さえ無力化すれば残るは目標を確保するだけだ。

オンス自体を殺す必要性はない。

フラッシュを焚き気絶させた場合と異なり、あれだけ暴行を加えられ抵抗することができないと判断してのことだった。


それに対し、ミジューラは振りかぶった拳を下ろし応答する。


【了解した。】


ニキータは彼に託された鋼の槍を返すと、Gチームは最後の障壁[司令官確保]へ向かっていった。

Chapter84は7月21日14時の公開となります

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