Chapter78. Tanks coming from the sky.
タイトル【空から戦車がやってくる】
襲撃機の活躍によって200門にも及ぶカタパルトとその要員は2時間あまりで殲滅された。
その後、爆弾などが余った機体は余りものを捨てていくようにシルベー城を爆撃するよう指令が下る。
庭に出ている兵士は排除できたものの、敵拠点に対し損害は全く出せていない。
城の外皮を引き剥がした今、ようやく制圧要員の派遣とBMDの空挺降下が可能となった。
構成員はジャルニエ城での作戦で多大な成功を収めたGチームと、ダース山での汚名返上を狙うBチームで構成され、共々Mi-8MTVに詰め込まれている。
これに加え、ジェネラルの鎧を着たミジューラが吊り下げられたMi-8MT。
そして5式軽戦車を吊り下げた大型輸送ヘリCH53Eと、計3機の数奇な編隊が本部拠点から飛び立った。
「ヒューッ!爺さん、なかなかその50mmのメタル・コート!かーっ、最高にイかしてるぜ!」
青く塗られた新型の鎧を見たゴードンはローター音にかき消されない程の大声で軽口を叫び倒す。
「おいバカやめろ!冷えるだろ!大体それは敵のヤツを分捕ったってこと忘れたのか!あの腐れレッドアーマーの!とっととドアを閉めやがれ!」
この年にもなって子供のように叫ぶゴードンに対しトムスは罵声を浴びせる。ミジューラが参加する作戦は毎回こうなるのだから堪らない。
季節は夏とは言え、エアコンよりも冷える。冷凍庫に匹敵する空気に晒される身にもなってほしいものだ、と彼は呆れる。
鳴り物入りで導入したクイン・クレインをすべて木と鉄くずにされたことは、シルベー城はSoyuzに抵抗しうる戦力を失っているも同然。
残るは城内にはびこる敵の掃討と制圧だけだ。
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作戦は次の段階に移行する。ここで行うのは装甲兵器の投下と車両と制圧要員の降下。
【BEE Legion01からJ-HQ.敵部隊の全滅を確認、帰投する】
当然ながら飛行場の滑走路には限りがある。25機もの攻撃機が着陸するとなると次発進するIl-76の進路がふさがれてしまい非効率的だ。
有限な滑走路を有効に使うため、管制官は格納庫で待機していたクジラに指示を出す。
【J-HQ了解、B-career01、02。3番滑走路より離陸せよ】
管制塔からの指示を受け、地獄の釜が開くようにゆっくりと扉が端によけていく。
戦略爆撃機が2機ほど収まる巨大な格納庫である。その辺のおもちゃ箱とはまるで訳が違うのだ。
扉が開き切ると、爆撃機と旅客機を足した座敷童めいて鎮座した機体が現れた。
その周りでせっせと働く作業員はプランクトンのように小さい。縮尺が間違った絵と勘違いしてしまう程格納庫自体があまりに大きすぎるのだ。
万全を期した機体に対し機長は最後のチェックといわんばかりに計器を確認する。少しでも狂いがある場合、地面とキスするばかりかまともに骨を拾ってもらえるか分からない。
計器、機体コンディション、操縦ミス。一つでも損なえば黄泉まで一直線だ。
スタッフが避難し終えたことを確認したパイロットは4発の巨大ジェットエンジンが点火し、高音交じりの轟音があたりに打ち付け始める。
————QrrrrrRRRAAAAAA!!!!!!———
コクピット内でもけたたましい高音が反響するもパイロットは涼しい顔で管制官に連絡する。
【B-career01了解】
空飛ぶ青い鯨はゆっくりと飛行場へと向かっていく。
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いざ離陸してみると、そこは戦場とは思えぬほどの静けさが出迎える。
対空砲火やミサイルが飛び交うことなく、作戦があると思わねば旅客飛行と大差ない。
それだけ敵の対空戦力は無力、あるいは現在飛行している高度まで届かないことを意味していた。
戦闘中であろうがそうでなかろうが、空は人間の事情など気にせず青く雲を流しているものである。
時折見える広大な湿地が光を反射し、小さな地球だと思ってしまう程に美しい。
例のアレに襲撃され、損害を出して飛行謹慎を食らったTu-2操縦メンバーはこんな絶景を間近で見たのだと考えると、早急に戦争を終わらせて遊覧飛行でもしたくなる衝動に襲われてくる。
ジャルニエ近辺やダース山、果てはこの帝国中を偵察飛行したやつも同じことを言っていたような気がする。飛行機乗りの性か。
しかしながらそれは未来の話。今は敵地にいる以上、作戦を遂行しなければならない。
指定された座標まで飛来すると同時に貨物室を開けた。
傾斜がつけられているためBMDを乗せたパレットがそのまま空中に放り出され、プラモデルのように落下していく。
パイロットはこの瞬間が最も肝が冷える。
人ならばまだ良いが、積載するのは空挺戦車。
いくら軽いと言っても完全武装した屈強な兵士を何十人と束ねてもなお釣り合わないほど重い。それほどのものが失われるとなると均衡を失い墜落するかもしれない。
操縦桿を握りしめ、いつもより慎重に舵を取った。飛行機は女心以上に繊細なバランスが要求される、機体が大きくそして複雑になればなおさらだ。
一方、投下されたBMD側とは言うと、投下後すぐ群生した雛罌粟のようにパラシュートが展開し、減速する段階へと到達した。
それでもなお落下速度を殺せそうにない。人間でもそれ相応の衝撃があるというのに何十倍と重い装甲兵器はなおさら、このままでは地面と激突して薄いパンケーキ状の残骸となってしまうだろう。
———VrooooshhhhhHHH!!!!———
着地の瞬間、パラシュートを釣る強靭なワイヤーにつるされた逆噴射ロケットが火を噴いた。
重い物体に対し瞬発的加速力を与えることができるロケット、考えを反転させると恐ろしく減速できるブレーキに成りえる。人類は何も考えていないほど愚かではない。
そうして戦車が耐えられるまで空中急ブレーキをかけると、緩衝材をつぶして着地した。
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なんと無情なことに、ここまで苦労して送り届けたBMDだが当然人が乗らねば意味がない。
投下地点は城の目と鼻の先故に歯がゆいことこの上ない。
そのための人員が駆けつけていた、誰にも邪魔されることのない空から。
———BATATATA…———
慣れ親しんだ凶悪極まりない面構え、翼につけられた邪悪なロケットポッドと対戦車ミサイルがギラリと光る。
空飛ぶ無敵の装甲車Mi-24Vの群れだ。
2時間ほど前、シュトルモヴィークによって食い荒らしたばかりというのになんという仕打ちだろうか。
——ZRARARARASHHH!!!!!!
城内に向けてためらいなくロケット弾が放たれ、ハインドが地面スレスレでホバリングして人員が一気にBMDに向かう。
多種多様な魔法、ガローバン。この世界の軍隊は歩兵に対して恐ろしい程攻撃手段を持っているため、短時間とは言え無防備なる。
幾度も苦渋をなめさせられた帝国軍にとって絶好のチャンスを逃すはずがない。
彼らの射程範囲に入る以上、絶対に庭や城周辺に敵を出してはならない。
足枷から解き放たれたハインドは一気に上昇し、機首を地面から上に向かせ地上と監視塔を30mm機関砲で掃射しはじめた。
———ZDADADA!!!!———
絵筆で描いたように攻撃を受けた箇所は土煙に覆われた。歩兵に対して異常なまでに厳しいのはどこの軍も同じ。どこの次元でも脅威なことには変わりないのだ。
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BMDが降下、乗員がそろったのならやることは一つ。この身が動く限り敵地に押し入ることである。
装甲兵器が合流地点に向かっている途中、いち早く城に乗り込もうとした集団がいた。
【降下!】
ホバリングした輸送ヘリから5式軽戦車とそれと同程度の重さをした甲冑が落下する。
——ZoooMM!!!——
戦車はともかく、鎧を着用したミジューラまでが衝撃波が生じそうな鈍い音を出して着地したのだ。明らかに今までのアーマーナイトとは装甲の分厚さが違うことを意味する。
BMDのスタンバイが完了するまでの間、ヘリの中で作戦内容の復習が行われていた。
手持ちのソ・USEに地図が表示され、二人の屈強な男がそれぞれ話す。
Gチーム隊長のニキータと敵歩兵に異様なまでに殺意を持つBチーム隊長ジェイガンである。
「司令部は地下深くに潜伏していると見られる。出てきたヤツはどんなヤツだろうが確実に殺る。これを徹底せよ。敵の攻撃が激しくとも臆するな、我々には戦車がいる」
「Bチームは潜入工作員を回収後Gチームに合流する。端末には城内図並びに現在位置を表示するビーコンも反映されていることを忘れるな。ニキータ、なんか言うことあるか。」
Bチーム隊長、ジェイガンはGチームの隊長に振る。
「…ジェイガン隊長のいうことも最もだが、敵が我々に劣る武器を使用していても甘く見るな。繰り返しになるが確実に排除せよ」
「爺さんは魔法等が飛来した時、戦車よろしく盾になってくれる。その代わり鎧の厚さが5cmもあるため走ることができない。置いていくな。
潜入によって敵部隊規模は判明しているが、どんな手段を使って抵抗するか不明だ。留意せよ」
「またトムスにはライフル他に対アーマー用にRPG16を携行させている。ただこれも爺さんが排除しきれない敵に対して使用せよ。チャンスは3回、有効に使え」
今回の作戦は度重なる死線を潜り抜けている精鋭に、加えて対アーマー用バックアップまでついている。
さしずめ鬼に金棒。勝てないはずがない。
そんな時、遠くから聞き覚えのある排気音が近づいてきた。ニキータは叫ぶ。
「総員効果。合流後、Gチームは突入、Bチームは回収を急げ!」
次回Chapter79は6月26日10時からの公開となります




