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SOYUZ ARCHIVES 整理番号S-22-975  作者: Soyuz archives制作チーム
Ⅱ-4.シルベー城制圧戦
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Chapter 74.Mission:Impossible in the Castle

タイトル【ミッションインポッシブル・ザ・キャッスル】

——ウイゴン暦6月21日 既定現実6月28日 午前0時46分

——シルベー城内


いつ来ると知れない敵に対しシルベー城は日が沈み、丑三つ時であっても軍備が続けられていた。

クレインクイン弾となる無数の矢の配備などで昼夜問わず慌ただしく兵士がごった返す。


そんな混沌とする城の奥深く、今回は武器倉庫から話を始めよう。


港を経て運ばれた物資は誰一人寄り付かない部屋に運び込まれた。他の仕事が山積しているため搬入員は少佐らを入れたトロイの木馬を置くとさっさと立ち去ってしまった。



「——行ったか」



既に封が開いた箱の合間から冴島は様子を伺う。あの時封がされていたはずだったが何故開いているのか。それには理由がある。


木箱という性質上、こういった倉庫に搬入される際には積み上げられてしまうケースが多い。箱上に積み上げられたのならまだしも、四方八方をテトリスめいて囲まれては脱出不可能になってしまう。


そんな事態を避けるため、次の荷物を取りに行くわずかな間に上蓋を突き破り、もっともらしい位置に移動させ様子を伺っていた。


安全を確認し、外に出ると冴島は最初に骨伝導スピーカーと一体型無線機を装着する。

構造上音漏れせず、オペレートを受ける潜入任務では必須と言っても良い。



倉庫にも関わらず、魔力灯が煌々とあたりを照らしていたおかげで辺りを見渡せるのは幸いだったといって良い。



状況確認を終えると偽装に使えるものがないかを探す。睨んだ通り武器庫に搬入されたようで、鎧や剣等が置かれていた。睨んだ通り武器庫に搬入されたようだ。


だがここで安堵するにはまだ早い。

次にしなければならないことは無線機を起動し潜入員の安否確認である。



【LONGPATから各員、応答せよ】



冴島が声のトーンを落としながら呼びかけると、応答が返ってきた。


 

【under grand、体中が痛い】


【こちらMountain wind、脱出完了】



またビーコンから位置を察するに八方に散らされている。爆破するのにはちょうどいいが合流するには都合が合わない。



「爆薬を尻に敷ていると安心できんな」



各々の無事を確認した少佐は、独り言をつぶやきながら偽装に使えないものがないか辺りを見回すと、あるものを見つけた。


この世界で幾度となく苦しめられてきた小憎たらしい重装兵用の鎧である。


勿論ほかの鎧もあったが、彼の重巡洋艦めいた体にはあまりにも窮屈で装備できたとしてもまともな行動は期待できないことは目に見えていた。



試しに戦車砲弾のような重さの籠手を装着する。するとオーダーメイドで作られたかと思うほどぴたりと嵌ったではないだろうか。ガンテルにアーマー野郎と言われるのも納得する。


顔を覆ってしまう都合上、こちらからコールすることは不可能だろう。


そのため少佐は伝言を残した。



【こちらLONGPAT、重装兵に偽装するため応答ができない。】



此処から先、孤独な闘いが始まるだろう。

その運命を受け入れると鉛で出来ているかのように重いヘルムをかぶるのだった。




———————





25mmという軽戦車並みの装甲を身に纏った冴島はあまりの重さから押しつぶされてしまいそうになるが思い切り力を込めると辛うじて動くことができた。



「歩けなくもないな」



狭い視界から鎧を見てみると、恰幅の良さも相まって城にいるアーマーナイトにしか見えない。

ミジューラの装着していた魔具がないため歩くことがやっとだが、探し回る程度には十分だろう。



続いて小手先を軽く動かして細かなことができるか確かめると、早速起爆装置の設定を行う事にした。



ここにいつまでも居座る訳にはいかない、長居すれば潜入が発覚してしまうリスクも跳ね上がってしまうからだ。


されども急がねばならないが焦ってはならない。そんなダブル・スタンダードを背にしながら彼はいつになく冷徹に時限装置の設定を操作し始めた。



今すぐに起爆する必要性はない、この爆薬はあくまで制圧作戦の際、敵司令部に追い打ちをかけるためにある。

少佐は降下作戦が行われる二日後に設定し終えると倉庫を後にした。



 分厚い木扉を開けて様子を伺うも警備兵の様子が見当たらない。

どのみち偽装しているため発見されていても大した問題はないが、城内図の情報を持っている人間がいないことが問題だった。



幸い自分が居た部屋が最深部にあたるらしく、城内大広間に向かうには一本道を登るだけで良かったことだろうか。


倉庫から外に出ていると、遠くから足音が響いてきた。


——KRASH…KRASH…——


警備を担う兵士、やけに思い金属音から察するに重装兵だろう。遠目から姿を伺うと鈍そうな兵士に見える。突撃インタビュー(尋問)にするには格好の得物。


冴島はその警備兵に目を付けた。






—————





「本部からあの図々しい魔導士連中を呼びやがって…数えるのやめたいくらいいやがる…こんなことになったのも全部違法集団だっけ?から届いたあのへんな手紙のせいだ。ええと、聖水はどこだっけか?」



槍を背負った重装兵は魔導士の弾薬とも称される聖水をしまうよう頼まれていた。

本部から到着した大量の魔導士たちはシルベーに居る自分たちに対してどんなに高圧的で嫌な奴でも、彼らは貴重な戦力に変わりない。


彼は愚痴を吐きつつ割れ物が入った木箱を脇に抱えて奥へと向かった。


「あーあーあ。応援に来た奴らも手伝えっての。ふざけやがって——」


重装兵が右を向いた瞬間である。そこにはいる筈のない別の兵士が幽霊のように立っていたではないか。


「なんだお前!?」


得体の知れない重騎士は見た目からは想像できない速さと怪力で警備兵を全力で壁にたたきつけた。それだけにとどまらない。

手慣れた手つきで地面に引き倒したのだ。


地面に兜が転げ騎士の頭が丸裸になる。


この間は1秒以下、警備兵が驚いた拍子に木箱が地面に落ちるまでの一瞬。


あまりの衝撃で頭を揺さぶられ、動きが鈍るが大きなスキを見逃すはずがなかった。

即座に細身の槍と近くに転げた盾を奪うと、冷たい矛先を首に突き付けてこう言った。



「言え。城内図はどこにある」



その時警備のアーマーは悟った。コイツに反撃しても到底勝てそうにないことを。



「城内図は…多分書庫奥に…あるはずだ…!書庫は第三棟に——ヴッ!」



必要最低限のことを聞き遂げると、冴島は騒ぎを広げないため無慈悲にアームハンマーを頭に打ちおろし無力化した。


腕には肉を砕いたかのような感覚が広がるが、その瞳は既に次のターゲットを見定めていた。

 何事もなく情報を得た冴島はついに城内大広間に躍り出る。


あまりの重さで少し格闘戦をするだけでも身に堪えるが、自らの肉体を奮い立たせ第三棟にある書庫に向けて歩んでいく。自分とて地獄をハシゴした身、この程度どうだってことはない。


——KRASH…GROSH…——


少しばかり動きがぎこちない冴島ナイトの姿を見ても城の兵員は誰も気に留めない。


それだけ偽装がうまくいっているということもあったが、兵士らは激務に追われているため気にしている余裕などないのが大きかった。


城内図を探し求めて探索していると、ここで一つ、大きな問題が立ちはだる。

情報を聞き出したはいいが、問題はここの簡易案内図ですら解読できないのだ。



言語学者ではない軍人があんなインクやジュースを溢したかのような文字を読めというのがおかしいが、推理ゲームをする余裕などあるものか。



だが少佐はその程度で万策尽きる程の男ではない。

ふと月明かり差す人気のない適当な空き小部屋を見つけると、お構いなしに入っていった。次なるインタビュー相手を求めて。





—————






「増援部隊が俺たちの兵舎なんて使いやがって…もう通路で寝るしかねぇのか…」



あるスナイパーが用を足すべく布のズボンを下ろす。

大隊規模の人間が居ながら便所や城内から異臭を発しないのは、カナリス将軍の手によって城中の下水が整備されていたお陰。


日夜設備投資を惜しまない将軍のおかげであろう。


想像を絶する激務の間、こんな時にしか休めないだけに、自分のいる環境が惨めに思えてくるものだ。


内心で自嘲していた時のこと。横から何やら人の気配がする。

ここはあまり使わないはずの便所にも関わらず。


思わず彼は右に振り向くとアーマーナイトが立っていた。夜は更け、もう丑三つ時を過ぎている。月明かりに照らされた真っ赤な大鎧は酷く無機質で不気味極まりない。


「脅かすなよ…あんたもか…」


そんな軽口に重騎士は何も答えない。きっと気難しいヤツなのだろう、都合よく解釈したスナイパーは息を吐きながら再び用を足しはじめた瞬間だった。


——BROW!!!——


突如背後で鋭利な槍が空を切ると、レーザービームの如く柄がスナイパーに直撃し、そのまま弾き飛ばしたのだ。

予想もしない一撃を食らった彼は受け身を取る暇もなく地面に転げる。


「侵入———ッ!」


外にいる仲間に敵襲を伝えるべく声を張り上げようとするが、熟練の冴島重騎士に悪あがきは通用しない。

渾身の力を込めて盾を振るうと、スナイパーの胸部をマッシャーのように叩きつぶした。



——GRASH!!!!!


いくら装甲化されていようとも鎧は衝撃を殺し切れない。

ひどく重い一撃が緩和されることなく骨を砕き肺にすさまじい一撃がお見舞いされたのだ。最早叫び声すら上げられない程の想像を絶する苦痛が襲う。


「——第三棟はどこだ。」


無力化を確認すると、少佐は殺意のこもった声で問いかけた。文字を読んでも分からねば聞けば良い。単純明快、社会人の鉄則の一つである。





—————






「ヴヴッ」



 情報を聞き出した後、ジャイアント馬場直伝チョップを見舞ってスナイパーを隠匿後、便所を後にした。



プロレス技を掛けるのは幼いころぶりだったが、やはり体は覚えているようで幼少期を思い出しながら少佐は一息つくと、本丸である第三棟に向かった。



シルベー城をじっくりと見た時、ジャルニエとは違い豪華絢爛な装飾が一切見受けられない。

見かけは中世の城といったところだが、中身は現代的要塞の様相を呈している。


想像を超える強固さに加え、壁や床には親の仇のようにタールが塗られており爆撃されても耐えうると判断した中将は正しかったと見ていいだろう。


作戦はまだまだ始まったばかり。

次回Chapter75は6月5日10時からの公開となります


・登場兵器

アーマーナイトの鎧

装甲25mmを誇る分厚過ぎる鉄板の塊。銃弾を一切通さず、重機関銃の弾丸も12.7mmまではじき返すことができる。当然魔具がなければまともに行動できないため、帝国軍兵士はブーツを装着して従軍している……のだが……?

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