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SOYUZ ARCHIVES 整理番号S-22-975  作者: Soyuz archives制作チーム
Ⅱ-3.ダース山の戦い
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Chapter 72.the collar of country road

タイトル【故郷の色】

久々に本部に帰投した冴島だったが、何も権能から告げられたのは次の大規模制圧作戦だけではない。


形は様々だが度重なる作戦を成功させてきた少佐とは言え、彼も立派な人間だ。


今まで感情を押し殺して連日任務にあたっていたが、当然ながら限界というものがある。それを見抜いた中将は大規模作戦前に休暇を与えることにした。


大至急Soyuzの足掛かりをつくるために行ったジャルニエ県制圧作戦とは違い、今回はある程度の余裕がある。したがって血眼になって戦況をひっくり返す必要性はない。


破竹の勢いで進軍することも重要だが、何よりオーバーワークは体に毒である。



ここまで休暇の名分は十分だとしても、地元に帰省を許す程Soyuzに恩情ではない。


脆弱極まりない新天地(U.U)の発見が他国に発覚したが最後。好き放題に貪り食ってきた歴史がある、いくら反省しようと歴史は繰り返すもの。


過去に学んだSoyuzはこの次元の存在を最高機密に指定、中将や最高責任者等のクリアランスを持たない限り外界に出ることができなくなった。

当然ながら、その渦中にいる冴島には祖国日本に帰ることは叶わない。終わりの出口が見えない限り。


ポータルを乗り越えてしまえば横浜本部基地、たかだか一歩が踏み出せない。残酷な現実が牙を剥く。


このアルカトラズに単身放り込まれた少佐は、たとえ休暇が与えられたとしても、寝るか得物のガバメントの手入れくらいだった。


ボリスにウォッカ瓶でもくれてやること位しかできないが、品ぞろえの悪いSoyuz本部基地売店では取り扱っていないらしく、実際のところ二択。


二日間の休暇の一日は銃のメンテナンスに。次の日は作戦に備えてぐっすり寝ることにした。


冴島は自室で床に白い布を引き、機械油片手にオーバーホールすべくガバメントのピンを抜く。


簡易的整備だけでずいぶんと長い間持たせていただけに、そろそろ面倒を見ないと銃が駄々をこねだす頃だと考え機械油を手にした時だった。


「ジマさん、いるでしょ?俺知ってんだから」


騒々しいマディソンの声が入ったのは。


—————



珍しく一人きりになれる時間を邪魔されたことに一瞬額に青筋を立てながら扉を開けると


「俺も休暇とったんすよ、ちょっくら酒を——」


「残念だったなマディソン。他のスタッフが買っていったせいで売店の酒はないぞ。」


マディソンの提案を無慈悲に切り捨てた。食料品や日用品ならともかく。酒やたばこと言った嗜好品は入荷するのが珍しく、それに数も少ない。


そのため多くのスタッフを抱える本部拠点では早々売り切れてしまう。


だがマディはいつもと違い、打開策を持っているようだった。


「そう言いなさんなジマさん、何のためにハリソンを制圧したんすか。あのバカから何度酒の話をされたか。俺だって休暇貰ったんです、急がないと」


彼の発言で魔が差しそうになったが、冴島は即座にリスクの天秤にかけることにした。


 仮にも敵地だった場所、それも不特定多数の人間が出入りする場所である。


長い時間滞在すれば暗殺目的の自爆テロなどに巻き込まれやすい。シリアに入り浸っていた時に培った直感がやめろと言っている。


連勤しすぎて疲れているのかもしれない、そこで考えを逆転させた。


国とやり合っている以上、相手にしているのは正規兵だ。現時点では非正規ゲリラ等は確認されていない。だが便衣兵を使ってくることも鑑みて用心した方が良いだろう。


「お前の頼みじゃ仕方がないな。…気に入らんがニキータからMP443借りてくる。ガバメントじゃあ不安が残る」


少佐は柄にもなくマディソンの提案を呑むことにした。


 出かけるという事もあって、使える銃を借りるついでにニキータの様子を見てきたが、カウンセリングの甲斐あって戦線に復帰できるとのことだ。


そうとあれば心強い、シルベー城制圧作戦の面々に推薦しておこう。


少佐はそう思いながら銃を借り、マディソンと待ち合わせていたハリソン線の[駅]に向かった。



————



軍事鉄道ハリソン線。

戦闘面ではBMP-Tを急ピッチで輸送した時や、隣接する飛行場に燃料を毎日運搬していることくらいは耳にしていた。どうやら仮開業ながら旅客輸送も始めたらしい。


あの狂った博士がトップの食糧生産プラント【ブブ漬け】の現地雇用者向けに作られたのがきっかけとのことだ。

戦闘に明け暮れている毎日だとこうした世俗に疎くなってしまうのが悩ましい。

 

しばし列車が来るまで時間があるため申し訳程度に設置されたベンチに腰掛けると少佐はマディソンに冗談めかして話を振った。


「——時間に一本か。…それにしてもお前が休暇なんて珍しいな。」


すると彼はやや食い気味になりながらこう返した。


「そんな顔しなくたって。俺さぼってないですって、なんか自販機の一件からこんなことになったような…。大体ねぇジマさん、こっちも大変なんすよ。そっちだってクソみたいな目に遭ってるの知ってますけどネ」


戦闘指揮と事務方。どちらも立場が違うが両者の苦労は同じである。いつもお調子者の苦労に興味を持った少佐はマディの悪乗りに乗ってやる。


「ほう、事務椅子でパルクールしてたところがバレたとかか?」


「——なんで知ってるんすかソレ。まぁいいや。聞いてくださいよ、そっちがひっとらえて事務方に使ってるマリオネスのことなんですがね、ありゃガンテルの言う通りでなんていうかこの…!とにかく癖がとんでもなく強くて。プライドかなんか知りませんがねぇ、こいつかつ丼だけは喰おうとしないんすよ!できたての!」


相変わらずマディソンは絶望的にくだらないことで苦悶しているようだった。彼らしい悩みで思わず冴島の岩のように固い頬が崩れた。


「なーに笑ってんすか!こちとら大真面目で——」



「いやな、お前らしいなぁと思ってな。」


そんな世間話をしていると遠目から列車が現れた。


どこかの中古車でも買ってきたのか古めかしい1両編成の気動車。ハリソン線は建設を急いだ仮線、複線でありながら非電化となっている。


戦車のような無骨な顔面を雪のように白く塗り、萌黄色の太い帯とさらにその下に巻かれた青いライン。どこかで見覚えのある色だ。


「どしたんすかジマさん」


珍しく目が点になる少佐に対し彼は思わずこう尋ねる。素朴な疑問に冴島はこう答える。


「ここで逢うとはなな…一生見られんと思ったもんだが」


思わず彼がそういうのも無理はない、この場にいる筈がない地元網走を走る汽車そのものだからである。

もう何年と実家に帰ってきていないが曲がりなりにも生まれ故郷の光景が見ることができるとは夢にも思わなかった。


——GRooOOOSH…——


この田舎を象徴する車体、プラットホームに響き渡る装甲車両とは違うエンジンの音。

地元と遜色ない光景に感動しつつ、停車した車内に入っていった。

どうやらワンマン運転らしく整理券を発行機から受け取って、長椅子に並んで腰かけてから暫くして列車は動き出す。



—————



——PEPEN!—— 


【ハリソン線をご利用いただきありがとうございます。この列車はワンマン運転を行っております。整理券発行機から整理券をお取りいただき、運賃箱に運賃と共に入れてください。またお支払いの際、清算する通貨を運転士にお伝えください。——次は終点、ハリソン市街です。】


バスのような轟音を立ててレールを進んでいくと、初老の運転士の肉声アナウンスが木霊する。


この路線は世にも珍しいことに、終点と始発駅まで1駅だけ。空港へ通じる支線はあるが貨物専用路線でお客は乗ることができない。


もともと軍事貨物線故に仕方がないが、都会の路線と遜色ない立派な設備を建造した建設機械師団の面々には頭が上がらない。


 次第に本部拠点から離れていくと人工的光景は一転し、あたりには見渡す限りの草原が広がり文明の色一つない草原へと突入する。


不気味な程青々とした草が生えていることを除けば、夏の北海道と酷似していた。


風景から察するに複雑な線形ではないとは言え、次の駅まではそれなりに時間が掛かるところまでそっくりだ。


そんな中、マディソンが少佐にふと思いついたことを言った。


「そういえばジマさんの地元って聞いたことなかったような。どこなんです?」


長い関係ではあるのだが、故郷の話というのはあまり聞いたことがなかった。


こんなボロ列車を見て懐かしいというのだから気になったのだ。

それに対し冴島は、普段のきびきびとした様子からは想像できぬほど傷心的になって語り始めた。


「網走だ、北海道の。そこまで行くとほとんどシベリアのようなもんだ。丁度こんな汽車がたまに走るような田舎で…。雪が降るとこの草原が真っ白になるんだ。夏になるとこんな感じになって。——こんなとこにいる以上帰れないことは覚悟していたがなぁ」


列車は濃緑の海を突っ切って進む。


—————



 ハリソンと本部拠点は30km近く離れており、駅は終点と始発の二つだけということもあり幾度か信号所で貨物列車の退避を行いつつ、一時間程でハリソン城門最寄りこと【ハリソン市街】に到着した。


チェックを済ませると市内に足を運んだ。


初めて来たときは絶望で満ちていたこの街だが、今ではまるで昭和の商店街のように活気あふれている。強引なやり口で解放したものだが、これでよかったと確信した。


街角にはSoyuz施設であることの証明のため置かれたガムボール・マシンが顔を覗かせる。時折燭台のようなものも見かけるが、おおよそ学術旅団の面々が自販機の構造を鍛冶屋か何かに図面を見せて作らせたのだろう。


飲食店の立ち並ぶ中央街に躍り出ると、街の表情も変化する。

かつて暗い顔をした人々がうろつくような場所が、今では露天商がSoyuzスタッフ向けの品などを売り、人々が行きかう場所に変貌していた。


その反面、戦闘の爪痕はそう易々とはなくならないもので、建物をよく見れば銃弾の後や突き刺さった後の矢が生々しく残っている。


そんな暗い側面を光で照らすため街はひたすらに動き続けていた。


「ジマさんとユウラクチョウを飲み歩いたことを思い出すなぁ、ヤツの進める店はもうちょい先らしいです」


「そうだな。あれから結構経ったもんだ」


二人はたわいもない会話をしながら道端を歩く。車も何もなく、ただ戦いにつかれたこの身を周囲の活気が洗い流していく。普段は静かな場所に居て落ち着くものだが、たまにはごちゃごちゃした場所も悪くない。冴島はそう思っていた。


—————

 

「ここだここ!」


マディソンは目当ての店を見つけたのかとある一軒の酒場を指さして声を上げる。

イギリスの古いパブのように見えるが、趣があって悪くはない。映画で使うセットと言っても全く不思議ではない。


「悪くないな」


彼らは分厚い木扉をくぐると、そこでは多くの人間が熱狂の渦を巻く。


全盛期のディスコクラブでも太刀打ちできるかどうかといった所、本来この街には相当に酒飲みは多いらしい。

周りには男のウェイターがうろついており冴島の先々では何故か女っけというものがない。


適当な空き座席に腰かけるとマディソンがあるものを見つけた。


「なんすかねコレ。」


彼がテーブル上に埋め込まれたボウルから何か草のようなものを摘まんでいた。


冴島は目立たぬよう周りを見渡すと、つる状のモノを食べているではないか。鼻を立てて匂いを嗅ぐも、見てマリファナやコカインの類ではない。

そう確信すると彼は一本引き出すと躊躇なく口に放り込んだ。


苦い。野草特有の思わず目をつぶりたいような苦さが一瞬口の中に広がると、後を追うようにしてカラシのような辛さが押し寄せる。明らかにこれはクレソンだ。


「ちょ、ジマさん何してんすか」


思いもしない奇行にマディソンは思わずこういうと、冴島はこう返す。


「——お前、ステーキの横についてるアレ。残さずに食ってるか?アレだよ、まさしくな」


「…残してました」


「わからんでもない」


 こんなやり取りをしているとウェイターが回ってきたのでフレイアなる酒をひと瓶に、やたらガンテルが押し売りしていたというニョゴールなる料理を頼むと、それが来るまでの間しば待つことにした。


「そういやどうやってお勘定するんです。…食わず嫌いしてたわ俺。バカじゃねぇの」


マディソンは時間をつぶしながらクレソンをかじりながら冴島に問う。都合がいいノベルではあるまいし、既定現実世界の通貨が使えるとは到底思えない。


「ここの街のゴールドと一円は同じ価値を持つよう契約書に記載されてるのを忘れたのかお前。ここの防衛騎士団はSoyuzスタッフとして雇用しているし、賃金は各々志望する通貨で支払われる。」


それに対し少佐はまるで暗記していたかのようにすらすらと説明する。シルベーの件もあり、いつしか契約内容が説明できるようになっていた。仕事病というヤツだろう。


「…すっかり忘れてた。最近仕事がどーにも忙しくて。」


マディソンはふと思い出したかのような顔をすると頭を掻きながらつぶやいた。

PCという概念どころか文字すら通じないマリオネスの教育に手を焼いており、彼も疲労がたまっているのだろう。

あまりにも仕事の話ばかりで辟易したのか冴島はマディにこう切り出した。


「……俺より書類を扱ってる癖してそれを知らんとは。お前の場合コピー機で刷るだけだから仕方ないか。そんなことどうでもいいじゃないか、仕事の話よりも例の奴が美味いという料理、なんか知らないのか」


見たことも聞いたことのない料理を前に少佐は珍しく期待していた。世界を飛び回る彼にとって食事は楽しみの一つなのだから。マディソンは相変わらずクレソンをかじりながらあやふやなことばかりを口にする


「ってもなぁ、アイツうまいうまいしか言ってなかったような。でもアイツ、飯と女のことだけは嘘をつかないから…多分正しいと思いますよ、たぶん。そんだから男性スタッフの中で英雄扱いされてんですよ。いい加減なヤツだけど。」


—————



暫く暇をつぶしているとウェイターが料理を運んできた。どの国、次元を跨いでも樽や瓶といったものは形が変わらないらしい。盆にはぐらぐらと油が煮立った浅い鉄鍋が二つとショット・グラスのようなものが置かれている。ついでにパンと食器か。


酒瓶と料理が置かれると、チップを渡すついでに冴島はある疑問を投げかける。


「む?冷酒か?」


それもそのはず、瓶の表面がうっすらと結露しているのだ。


文明水準的に電気式の冷蔵庫や氷を貯蔵できる設備はないにも関わらず、キンキンに冷えた冷酒が目の前に置かれていることが不自然すぎる。


目の色を変えているとウェイターがその様子を見てこう答えた。


「そうだとも。店長の友達がバカみたいな金をポンっとくれたらしくて魔道冷蔵庫が増設できたとかなんとかだって。うちだけだよ、こんな馬鹿みたいに暑いところで冷えた酒が飲めるのは。だからうちは売れてるらしい、あがったりだよ。こいつをくれるのかい。Soyuzさんはみんなこうだからありがたいね。」


そう言い残すと次の仕事に向かうべく足早に立ち去った。

目の前に酒肉が揃えばやることは一つ。酒盛りだけだ。

次回Chapter72-1は5月16日10時からの公開となります

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