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SOYUZ ARCHIVES 整理番号S-22-975  作者: Soyuz archives制作チーム
Ⅱ-3.ダース山の戦い
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Chapter 68. Swaying cityscape in Jentw

タイトル【揺れるゲンツーの街】

騎士団長ガルシアの決断によってSoyuz契約書に承諾が得られると同時に、城から出撃したヒップで本部拠点に輸送された。


そういったこともあって、現地語でその旨が記載されたポスターが本部拠点で暇を持て余していたガンテルの手によって書かれるに至る。



「なんで俺を選んだんだよ…馬鹿じゃねぇのか。ていうか俺がなんでこんなモン書いてんだよ、常識的に考えておかしいだろ。おい、書き方教えるからマディソン。お前やれよ。せっかくの暇を謳歌するのに俺は忙しいんだ。——ったく品のある文字ったらあの爺さんんにやらせりゃいいものを、クソが。滑るなコレ!」


ぶつくさと道理に合わない文句を言いながらも、彼は慣れない手つきでボールペンを取る。


机上にはExcelでつくられたSoyuz掲示物フォーマットが置かれており、隣にいるマディソンはいつまでたっても手を付けないガンテルに呆れながら、何とか文字を書かせようと促す。


「チーフはハリソンにこもりきり、あの爺さんはジェネラルかなんだか知らないが鎧の整備で手が離せず、んで肝心要のマリオネスなんだけど。試しにアルファベットを書かせたら古代文字になりやがった。お前しかいねぇんだよ…」



色々と手を尽くしたらしいがマディソンの苦労は全て水泡に帰していた。



「あの女に飯の味と文字を期待するだけ無駄よ。よくわかったろマディソン。」



最早悲痛とも言える彼の様子を見たガンテルは男気を見せながら筆を執るしかない。

それもこれもただのサボタージュを行っていただけであり怠慢でしかないが意気込みが重要なのである。



—————



 ボールペンの書き心地に慣れず、何枚かの紙を屑籠に放り込みながらポスターは完成することができた。

早速出来栄えを見ようとマディソンが書き上げほやほやのポスターを取ると眉を顰める。


「どう考えてもこれコーヒーかなんかぶちまけたようにしか見えねぇぞコレ!字きったね!」


「お前らだって針金をクソみたいに曲げた文字を使うくせに。人のこと言えるのか、えぇ⁉おいこらマディソン聞いてんのか!」


「——って俺も綺麗なんていう自覚ねぇしな。悪かったわ」


「わかればいい、わかれば。」


こうしたひと悶着の末にポスターは完成を迎えた。

マディソンの破壊的手腕によってコピー機によってねじ込まれると建設増産の炎を上げて印刷機が唸り、レーザーによってA4サイズの紙に印刷されていく。


正に技術の塊が動くその瞬間をある人間は見逃さなかった。


「大変に驚きました。一体どのような印刷技術を使っているのでしょう。複製する元はガラスか何かの上に置いたところから、裏からその後を読み取って複写するとしてもできる限度は一枚か二枚。あれだけ作れるなら版画に近い機構を使っているはず。でもそうしたらあのガラス面は意味をなさなくなる。木や鉄は透けませんし。ガラスなら砕けてしまうでしょう。やはり分解しないと分からないことが多すぎます、早速——」



同じく暇を持て余し、飢えたサメの如く種類を選ばず知識を貪り食う弾丸列車、ソフィアが現れたのである!


ガンテルは皇女という身の上にまるで興味ない上に厄介ごとを全てマディソンに押し付けるべく捨て台詞を捨てて椅子から立ち上がる。


「そういや俺、グルードとPALとケバブ騒乱祭?の約束してたんだわ。腹減ったなぁ、じゃあ後よろしく!」


ガンテルは最高に腹が立つ屈託のない笑顔でマディソンに向けるとそそくさと立ち去った。残ったのは苦労の絶えない内勤と狂人の二人である。


「…説明書取ってくる」


男マディソンは覚悟を決め説明書を手に取ったのだった。



—————



一方その頃、ゲンツーの街では団長のサインが入った書類が本部拠点に到着。

権能の承認を得たことにより、承諾書と入れ替わる形で通知ポスターが街に届き騎士団たちの手によって掲示されはじめた。


時間帯は昼、辺りは休憩の間昼食を取るべく住民でごった返すのにそう時間が掛からない。


「よそ者がこの街を統治するだぁ!?」


張り出された紙を見た男の声が酒場に木霊する。


「おいまたかよ、ようやくこの街を取り返したと思ったのに!」


「ぐへへ、休みなんだなこれが」


膨大な鉄鋼資源と燃料である泥炭産出によって栄えたゲンツーの街であるが、その反面過去の戦争では幾度も占領の挙句、強制労働に近い環境で敵国に向けて武器を生産していた歴史がある。


そのため鍛冶職人たちは祖国のため、そして何よりも自由を求めて戦ってきた。

戦争から帰って相も変わらず苦しい生活ではあったが、ようやく根を下ろして納得のゆく金物が作れると思った矢先の出来事に声をあげる住民も少なくない。



酔った客はそんなことどうでも良いらしく酒をかっくらっていたものの、度重なる抑圧と支配に苦しんでいた職人や労働者たちの顔色は良いものとは言えなかった。

酒のつまみを何よりも欲していた彼らにとってその話題が上らないというのが無理な話であり、各地で激論が繰り広げられる。


「だいたいなぁ、また敵のために剣をこしらえるのは勘弁してくれ」


「お前の目はどこについてやがる、あれには産業に関して干渉しないって——」


 「馬鹿野郎、そんなの方便だ。どうせ俺らに作らせて自分の懐を肥やしたいだけだ」


 「そもそもSoyuzってなんだよ」


一度火が付いた以上、この議題は対数増殖的に加速していった。



—————


 その余波はさっそく冴島にも打ち寄せていた。ゲンツーに指揮車BTR-80Kが入ったのは良かったが、周囲を警邏する随伴歩兵隊が姿を現した途端、暴動寸前までの騒ぎに発展したのである。


BTRのハッチから身を出している冴島は団長の態度から察するに起こりうる事態であると思い、一切耳を貸さず収まるのを待っていた。


騒乱は罵詈雑言に埋まるだけでは止まらない。少佐の指示によってT-72らが立ちはだかってもなお隊員に向けて危害を加えるような住民が出てきたのである。暴言ばかりに留まらず石まで飛んでくる始末。


彼はでたらめに飛んでくるつぶてに対し、涼しい顔で視線を向けていた。

それどころか、自らに飛んでくるものだけを無表情でキャッチするとプロ投手に匹敵するフォームで当たらないよう投げ返す。


「まだシュート投げられるとはな。野球なんてガキの頃にやめたもんだが」


少佐は息を吐き捨てると独り言をつぶやく。その一言は無線にも流れているようで操縦手のルイージは軽口を飛ばす。


【次はチェンジアップ、期待してますよ。少佐】


【俺の趣味はトルネード投法のフォークだ。行けると思うか】


再び飛来する石を額の前でつかむと軽く右手で遊びながら暴徒の様子を観察するのであった。



—————



待てど暮らせど暴動の規模は広がっている一方だった。

ついには隊員にも危害を加えてくる人間も出てくるのではないかとささやかれ始めた時である。



「その頭カチ割ってやる!」



突如として恰幅の良い男が隊員に向けて手斧を振り下ろしてきたではないだろうか。


ただでさえ鋼鉄で作られているばかりかグリップが短く力が分散しないため、直撃したら最後、Soyuz標準装備のヘルメットの防御力を貫通されてしまい黄泉送りにされてしまう。


 特殊部隊出身の隊員とて黙って殺されはしない。

剣を振るうよりも速くAKの照準が向けられると反射的にトリガーを引く。



——BANG!BANG!——



最小限の発砲で大男を黙らせると何事もなかったかのように照準を取り下げると辺りは嵐が過ぎ去ったかのように静間に帰る。

一部始終を見ていた少佐は不機嫌そうに目元を細めると車内からメガホンを取り出して勧告した。


「えー、これより説明会を開催しますが…危害を加える者は即座に射殺いたします。進行にご協力をお願いします」


隊員に向けての殺人未遂というトラブルがあったが、かくして説明会がはじめられた。



—————



Soyuzの来訪によってゲンツー市民の多くはこれまでにない不安に駆られた。


侵略者によって再び自由が奪われるのではないかという危機感と相まって、これまで見たことのない未知の人間に対しての純粋な恐怖に他ならない。


恐怖と不安が募れば募るほど、敵対的感情に変換され暴動めいた騒乱へとエスカレートしていった。


ついにはSoyuzスタッフを直接殺傷しようという人間まで現れる始末であり、射殺する事態にまでになってようやく市民説明会を行うことができたのだった。



説明会で多くの人々に聞いてもらえるように時間帯を昼に設定したということもあり、多くの人間が詰めかけていた。挙句生まれた人の海を利用しようとする者たちがいた。


「旦那、本当に街を離れるんです?面割れてないんですよ?」



「騒ぎを小耳にかじったが、間違いない、異端軍の連中だ」



そう、無残にも空対空ミサイルを受けて撃墜されたゲルリッツとその相方であるシムたちであった。

中佐は考えた、まず多くの非協力住民が居る陣地を得てからやることは何かと。

真っ先に彼が思いついたこと、それは便衣兵の洗い出しである。



かつての戦争で自分を含む敵味方双方がやってきたことで、相手がどんな人間であろうが自陣からゲリラなどを発生させないために必ずやる。逃げるのは今しかない。

彼はそう確信しゲンツーの街を出ることにしたのだ。



「アテはあるんですかい?旦那のワイアームだって湿地においてあるじゃないすか」



シムは中佐を疑った。死にかけでゲンツーまでたどり着いた挙句素性の知れない人間である。技量こそ凄まじいとは知っていたが言動が怪しいため完全に信じることができないのだ。



「ベーナブ湿原の水上市場だ、進軍ルートから考えるに異端共の手にはかかっていまい。報酬金がこれだけあれば立て直しが——」



「やはり生きていたか」



その時である。遠くの騒ぎに紛れ、鉛のような声がゲルリッツの後ろ髪を引いた。


彼は振り向くと、金色の髪を後頭部に流し、青紫色の鎧を装備した勇者が立っていた。


顔には歴戦の戦士の勲章と言うべき古傷をいくつも携えている。


この男に見覚えがある、いや見間違える訳などない。サルバトーレ少佐である。その後ろには連れの男がいるではないか。



「お前!なんでこんなところにいるんだ」



彼は少佐に向かってずかずかと歩みよると胸倉を勢いよく掴むとツレの男が止めに掛かろうとするもサルバトーレは手出し無用と目線を送り退ける。



「やはりゲルリッツ、お前は並大抵の人間ではないらしい。——どこかで堕とされたか」



勢いよく掴まれようが首を傾けながら涼しい顔で憎まれ口をたたくと中佐は途端に機嫌を悪化させながら揺さぶる。



「質問に答えろ、サルバトーレ」



「やはりな、だが今は関係ないか。俺はここの将軍から名指しで派遣されてね、目の付け所は鋭利と言うべきか。質問には答えたのだから俺も一つ聞きたいことがある。そこにいる薄汚い男は一体どこで拾ってきた。人さらいの趣味でもあるまいな」



険悪な間柄だがいつものことと分かっている少佐は軽くヤジを飛ばしながら答えるのだった。その言葉を大真面目に取ったゲルリッツは眉間にしわを寄せる。



「少佐、わかっておいて私に減らず口を叩くということはどうなるか分かっているのか」



「機嫌が悪いにも程があるぞ中佐、どのみちこの街から別の所で奴らを狩るのだろう?そんな貴公にちょっとした贈り物がある。騒ぎを起こしている連中…猪みたいなヤツがいただろう。アレが指揮を取っているに違いないと踏んでいる。これが正しいとしたら顔を出していたみすぼらしい大男がおおよそ指揮官で間違いない。」



サルバトーレは今まで見てきたことを整理し、考えを伝えると流石に理解したのかゲルリッツは胸倉から手を離した。その途端、背後にいたシムが少佐を指さしながら豆鉄砲をくらったような顔で騒ぎだした。



「ウッソだろ!????英雄二人とかやべーにもほどがある!旦那そんなヒトだなんて俺知らなんだ!まぁいいや、少佐殿ォ!握手を——」



「黙れ、見つかったらどうする」


大声を上げた途端ゲルリッツは彼の口を無理やり押えようとするが肝心のシムは興奮冷めやらぬ様子でありじたばたと暴れている。

滑稽な様を見て少佐は苦笑いをしながら一言漏らす。



「俺以外にコイツを操縦できるヤツがいるとはな。その男は機嫌がすぐ悪くなる上に話が冗談のように長い。だがヤツは話が長いがそれだけ重要なことが必ず含まれている。面倒なヤツだが腕は立つ、うまくやるんだな」



サルバトーレは捨て台詞を吐くと騒動に紛れて脱出を図るのだった。



「あのまま放置していて構わないのでしょうか」



先ほどから背後から様子を伺っていたボラン伍長は少佐に質問を投げかける。協力できそうな戦力と協力要請もせず、なおかつ同軍司令官を放置することに対してどうも納得がいかないからだ。


サルバトーレは途端にゲルリッツ中佐にも見せないような鋭く酷く冷ややかな顔になると



「なに、ヤツと俺の考えていることは同じだ。アイツなら水上市場に逃げ込むだろう。俺とヤツは互いに考えることくらいわかる、どのタイミングで攻撃を仕掛けるか、いかに敵を排除するか…。どちらにせよここでヤツを食い止めなければならないことくらいわかっている」



そう言い残し、街を跡にした。敵によって陥落した陣地に長居は無用、あの様子からするに双方痛手を負っていることは事実。策を講じなければ太刀打ちできないだろう。


Soyuzがゲンツーの街を占拠するのと同じくして、新たな策謀が少しずつではあるが動き始めていた…。

次回Chapter69は4月24日10時から公開になります

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